表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
146/451

2.魔獣ヴァティール

「やり過ぎだと?」


 魔獣はいぶかしむように首をかしげた。

 でも、リオンのときのような楚々とした可愛らしさなどは全然ない。


「リオンがやろうとしていたのは、ワタシのあの技だぞ?

 しかも、ワタシはちゃんと加減はした」


「あれでかっ!?」


 叫ぶ俺を魔獣はフフンと見下した。


「あの魔炎を使って『何故あの規模の破壊』なのか、全然分かってないのだなァ?

 熱気が城や他の地域に及ばぬよう、ワタシはちゃんと細工をしてやった。

 そもそもアースラは、そうやってワタシを使っていたからなァ。

 しかし、未熟なオマエの弟が術を成功させたとて、アースラのようにはいくものか。

 奴の潜在能力は多分糞アースラ以上。今の時点でも、やりようによっては術を発動させられたかもしれない。

 でも、ろくに修行をしていなかったのか、制御する力はあまりにも未熟。

 成功していたとしても……まあ、オマエ一人ぐらいは守れたかもしれないが、他は到底無理だなァ。

 術を上手く扱えず、国の半分ぐらいはアレス兵ごと吹き飛ばしていたことだろうよ。もちろん、ここにいる他の奴らも巻き込んでなッ!」


 魔獣は意地悪く笑うと再び食事をかき込んだ。

 俺は魔獣の言葉に呆然としていた。


 リオンは『そのこと』を知っていて、あの術を放っていたのだろうか?

 そんなはずはないと思いながらも『あるいは』と思ってしまう自分がいる。


 いや、違う。


 皆が助かるには『あの方法』しかなかった。

 だからリオンは危険を承知で挑んだのだ。


 そして『技』は魔獣の放ったものに比べれば、小規模にしか発動していなかった。

 リオンなりにコントロールしようとしていたからだったに違いない。

 国の大半を吹き飛ばすつもりなど…………あるわけがない。


 しかし、他の皆は魔獣の言葉を真に受けたのか、黙り込んだ。


「ち……違う。リオンはそんなつもりではやっていない……!!

 弟は大人でさえ逃げ出すような荒事も、進んで引受ていた。

 国民を守るために頑張っていた!!

 そして……アレス帝国が攻めて来るまでは、自分の部下を誰一人死なせず、体を張って戦っていたんだ!!」


 言いながら、涙が落ちた。

 そうだ。リオンは暗殺隊の皆を逃がし、自分は盾となって炎の中に残ったことすらあったではないか。


 一瞬でもリオンを疑って揺らいだ自分が情けない。

 そして、あんなにも頑張ったリオンを悪く言う、この魔獣が憎くてたまらない。


「お前がっ……リオンの『何』を知っているというのだっ……!!

 この、クソ魔獣ッ!!!」


 激昂して立ち上がった俺を、王が手で制した。


「申し訳ありません、ヴァティール殿。

 この者は今、身内を失って気が動転しているのです。

 アリシア、エルを別室に」


「俺は……!!」


 なおも言い募ろうとした俺に、アリシアが首を振った。

 とても悲しげに。

 

 そうだった……。

 この国の危機は、まだ終わったわけではない。


 魔獣と契約したのは『俺』なので、まだ『魔縛』の術はいくらかかかったままのようではある。しかし契約を補助したリオンの死で、かなりの部分が解けてしまっている。


 課せられた制約は『主を傷つけないこと』『主から遠く離れないこと』それのみ。

 以前と違って『俺の許可無く魔の力を振るうこと』は可能。そう魔獣は言っていた。


 アレス兵十数万を焼き溶かすほどの力を持つヴァティール。

 奴の機嫌を損なえば、この国は瞬時に滅ぶ。


 俺の身さえ傷つけなければ、魔獣は他の人間を『生かすも殺すも』自由なのだから。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ