6.戦火
「はは……」
乾いた笑いが口から漏れ、もう、涙さえ出ない。
『アースラの望む国』を創ることを放棄した俺は、一番大切な者を目の前で惨たらしく殺された。
きっとこんな事は一回や二回ではないのだろう。
俺とリオンは生き返るたび、居場所を焼かれ、お互いの死を突きつけられ、狂うこともできずに久遠の日々を歩むのだ。
これ以上の抵抗は、もう無意味だ。
城は落ちる。
俺も、間もなくアレス兵たちに殺されるだろう。
打てる手もなく、一番守りたかった弟は目の前で死んでしまった。
俺にはもう、何も残ってはいない。
もし弟が生き返ったとしても、アレス軍の真っ只中だ。
『化け物』として何度も何度も……あらゆる残虐な方法で殺され続けるだろう。
そんなものを見るぐらいなら、今すぐこの身を消し去ってしまいたい。
アリシアも、持っていた矢を落とした。
王も。他の兵たちも。
「皆の者。いよいよこれまでのようだ。
私の首で何人許してもらえるかわからないが、それでも交渉してみよう」
王がぽつりと呟いた。
兵たちは、それに答える気力も無くうなだれた。
皆わかっているのだ。
もし王の首を差し出したとて、相手はあのアレス帝国。ここにいる者たちの運命はさほど変わらない。
捕らえられれば死よりつらい『奴隷としての運命』が待っている。
それでも―――――――彼らは『今の生』が終われば、全てから解放されるだろう。
なら、俺よりはずっと幸せだ。
羨むのは筋違いだと知っていても、羨まずにはいられなかった。
「あはは……また奴隷に逆戻りか。
人間としての心を捨ててまで頑張ってきたのに、結局私は弱者のまま。
あんな生活に戻るぐらいなら私は……」
アリシアが持っていた矢じりを逆手に持ち直す。
そうだ、それが正しい。
死んでしまえば、彼女はもうこれ以上苦しまなくて済む。
他の者も自決の覚悟を決めたのだろう。持っていた得物を次々と自分の方に向け始めた。
俺はそのさまをうらやましく思いながら見つめていた。
その時、地獄から響くかのような絶叫が聞こえた。
城内からではない。
外だ。
リオンの髪を掴んでいたあの将校が、恥も外聞も無いような叫び声を上げていた。




