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4.約束

 あの時俺は返事を返さなかったし、リオンを地下神殿に閉じ込める気なんて今も無い。


 俺にとっては済んだ出来事だった。


「前にもお話しましたが、僕にかけられた封印は、誕生日ごとに1つずつ外れます。そのため僕は正式な修行をせずに『力』だけを得てしまいました。

 それでも、これから地下神殿にこもって修行をすれば、いずれはクロスⅦのようにうまく力をコントロール出来るようになることでしょう。

 この国全土に『善の結界』を敷くことだって出来るはず。

 僕は兄様が住まうこの国を守りたいのです。小さくてもかまいません。どうか僕に地下神殿をお与え下さい」


 リオンがぺこりと頭を下げる。


 この弟はどこまで純粋で生真面目なのだろう。

 暗殺隊を率いる辛い日々からやっと開放されたというのに、更なる重荷を自ら背負おうとするなんて。


 身の内にヴァティールを封じているなら少しぐらいあの不真面目さが感染っていてもよさそうなものだが、性格は全く逆のままである。


 確かにリオンを再び地下に閉じ込め祈らせれば、この国は今より平和になる。

 故国エルシオンの再興という形ではないにしろ、アースラの亡霊が万一気に入れば、『呪い』が解ける可能性だってある。


 でも、俺はそれを選ばない。選びたくはない。


「兄さん……僕が神殿に篭っても毎日会いに来てくださいね。

 神官にとって私欲は悪ですが『弟』としてそれだけは望ませてください。

 お願い致します」


 真剣に俺の瞳をのぞき込むリオンに首を振った。


「地下神殿なんて造らない。

 お前は俺とこのままこの部屋で暮らすし、ずっと一緒に居てくれるって言ってたろ?」


「……僕だってそうしたいけど……」


 そう言ってリオンは俯いた。


「僕のせいで……兄さんまで皆に悪く言われるから……」


 魔物の兄。死神の兄。


 王やアリシアは俺たち兄弟に対して態度を変えることはなかったが、確かに影でそう囁く奴は大勢いる。


 でもそんなのはただの雑音だ。

 ロクに役にもたってないくせに『陰口』だけは一人前の恥ずかしい奴らなど、放っておけば良いのだ。


 ちまたでは弟は『死神』だなんて言われているが、こんなに優しくて愛らしいリオンのどこが『死神』なのだ。

 お前らの目は節穴か!! と、むしろ問い詰めたい気分でいっぱいだ。


 恥知らずにも小さな子供に戦闘を任せ、守って貰っておきながら、『魔物』だの『死神』だの、陰口ばかり。

 ホトホト呆れる。


 誰のおかげで無事暮らせているのか、考える脳すら無いのだろうか?

 愚民……なんて言葉は王族であった俺が軽々しく使って良いものではないが、どうしてもその二文字が頭に浮かぶ。


 でもまあ俺の仕事も、そのうち落ち着く。


 リオンには、それまで一人では部屋の外に出ないように言っておいた。

 あんな奴らに弟が冷たい目で見られるなんて我慢できないし、部屋で大人しく俺の帰りを待っていてくれる方が安心だ。


「ごめんなさい兄さん。僕が魔力を使って戦ったばかりに兄さんまで……」


 暗殺隊にいた頃よりずいぶん落ち着いたように見えた弟だったが、そうではなかった。

 耳の良いリオンは自分の陰口だけでなく、俺の悪口まで聞き取ってしまい深く傷ついていたようだ。


「そんなの気にするな! 誰が何と言っても俺はお前が一番大切だから!」


 いつものように抱きしめて、リオンが元気になるように言い続けた『お守りのようなセリフ』を今日も言う。


 しかし、リオンはそれ以来沈み込むようになった。

 そして王に許可を得て、使われていない地下の王族廟の一つを神殿に見立てて篭る事が多くなった。

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