1.約束☆
その年の春。
リオンが歯を食いしばって戦ってくれたおかげで、とうとう全区域が『ガルーダ』の前に膝を屈した。
元々短期で決着をつけるつもりだったらしい王は、事前準備を抜かりなく行なっていて、復興作業は着々と進められている。
事業の方ももちろん再開したし、並行して国としての正式な名乗りも上げた。
新ブルボア王朝の成立である。
セコイ王もこの日ばかりは美々しく着飾り、3着ばかりを着まわしていた姿しか知らない俺には別人のように思えた。
しかし俺の心はリオンのことでいっぱいだった。
国の成立という歴史的な場面に立ち会っているというのに、心は部屋で待機している弟のところに飛んでいく。
ああ、終わったのだ。これで弟はもう戦わなくて良い。
弟に対するひどい噂はまだあるけれど、それだってリオンが暗殺隊を抜ければいつまでも続くものではない。
仕事なんてもうさせなくても良い。俺が充分養っていける。
大切に、大切に……リオンがまた大声で笑えるよう俺が守っていくのだ。
戴冠式の間も上の空で、考えるのは弟との新しい生活のことだけだった。
アルフレッド王の方は戴冠式が済むと、元々持っていた王族としてのコネも最大限に使って、招待していたいくつかの国々とその場で同盟を結んだ。
『王』というより『事業主』と呼びたいタイプなので時々忘れそうになるが、彼は元々ブルボア王国の世継ぎ王子であり、交渉事も得意だ。
多分準備は抗争前からしてあったのだろう。
これで経済的にも軍事的にも、更に安定していくに違いない。
親衛隊としての職務が終わったのは、もう深夜だった。
先に眠るように言っておいたけれど、おそらくリオンは起きて俺を待っている。
ドアを開けるとやはりそうで、暗い中に灯る照明の中、リオンが嬉しそうに出迎えてくれた。
「リオン……暗殺隊を降りてくれるな」
これまで何百回も口にした言葉を今日も言い……そしてリオンは輝くばかりの笑顔で頷いた。
以前はどれほど言っても首を縦に振らなかったが、すべてが終わったとなれば話は別らしい。
あっさりと……それはそれは嬉しそうに了承してくれた。
もう、リオンが人を殺さねばならない理由はどこにもない。
辛く苦しい戦いは終わったのだ。
王もすんなりと認めた。
弟の桁はずれた戦闘力は王の立場としては捨て難かったろうが、年若いリオンを暗殺隊に入れるのは元々王の本意ではなかった……というのは真実だったらしい。
今までの労をねぎらう言葉をかけ、破格の恩賞を与えた上で任から降ろした。
そうとも。大人の兵隊が大勢いるのだから、今後の瑣末な厄介事は大人が対処すればいいのだ。
アルフレッド王のイラストは蒼様よりいただきました。
立派かつ美しい王をありがとうございます~!!




