6.死神
やけどが治れば、またリオンには任務が与えられた。
新しい隊員が補充され、今までと変わらない殺戮の日々が始まる。
小さな弟は、その任務を軽々とこなしていった。
何の不平も要求も持たずに。
そうして任務が成功したなら、次は更なる難所を下げ渡される。
俺は思い出した。
王は優しい人柄だが、元々利用できるものは徹底して利用する人でもあった。
そしてリオンには大変な利用価値がある。
リオンは、恐ろしく強い。
それがバレたなら、当然『魔力を使って』の戦闘を求められるだろう。
昔、危惧していた通りのことが起こったのだ。
優しいアルフレッド王ならあるいはと思った時期もあったが、あの力を目の当たりにした頃から少し変わってしまったように思う。
王は他者のようにリオンを忌むことはない。むしろ益々優しい。
いつも弟の身や心を気遣ってくれる。
そこまでは、いかにもアルフレッド王らしい。
でもそれだけだ。
あまりにも殺しすぎたリオンが皆に『死神』と呼ばれることになっても、王は弟をその役から降ろさなかった。
王にとっては国を再建することの方が、リオンより……ずっと重要なのだ。
それは組織を統べる者としては正しいのだろうが、兄である俺には悲しくてたまらない。
それでも情勢はどんどん移り変わっていった。
どんな場所であっても、相手の数が十数倍であったとしても決してしくじらないリオン率いる暗殺隊とアルフレッド王の作戦のおかげで、組織の勢力図は急激に塗り替えられていった。
対立していた二つの組織は今や壊滅状態で、最近は国外組織の手も借りているようだが、それでもリオンの相手にはなるまい。
リオンは俺のためになら、どんなに血を流そうとためらわない。
その姿がいつの間にか人々から忌まれ恐れられる対象となってしまっていても、リオンは暗殺隊を降りようとしない。
いつも喜んで戦いの場に向かう。
「ねえ兄さん? 明日はアルスーザ地区のトップの首を上げてきますね。
明後日はシークのも。逃げ回ってるみたいだけど、もうそろそろ隠れ家も尽きたみたいです。
そうしたら……この国も平和になりますよね?」
リオンがにっこりと笑う。
とても無邪気に。
そう、リオンは血を好んで戦っているわけではなく『平和』と『居場所』を求めて戦っているだけなのだ。
俺も笑い返してやらねば。
そう思うのに……どうしても微笑めない。
「どうしてそんなに悲しそうな顔をなさるのですか?
昔みたいに笑ってください、兄さん」
リオンが澄んだ金の瞳で俺を見上げる。
「僕、アルフレッド王たちの言うとおり頑張りました。
だってどこに行ったって、安住の地なんて無いですもの。
偉大なる始祖王シヴァ様やアースラ様がそうなさったように『自分たちが住む国』は『自分たちで作るべき』なのですよね?」
リオンの言葉は正論だった。




