3.死神☆
「兄さん!!」
更に1ヶ月がたった。
執務室でウルフと共に書類を仕上げていたら、白い軍服に身を包んだリオンが嬉しそうに飛び込んできた。
『仕事中』はリオンには似合わない、いかにも暗殺者風な服を着ているのだが、リオンはいつもこの『白い軍服』に着替えてから俺の前に現れる。
報告は俺だけが聞くように取り計らってもらっているので、ウルフには席をはずしてもらう。
気の弱いウルフがリオンの報告を聞いたら、ドン引き間違い無しだからだ。
リオンは今、暗殺部隊『ドゥルガー』の隊長を務めている。
相変わらず女の子みたいに愛らしいが、他の隊員全ての能力を凌駕するのは間違いない。
そのため王は弟を長に任命した。
「今日はαーz地区を落としてきました。簡単でしたっ!」
嬉しそうに喋る弟の可愛い顔を見ると、割り切ったつもりでも胸が締め付けられた。
せめてもう少し人材がいたら、こんなに小さなリオンが戦わなくてもよかったのに。
いや、突出して強いリオンがいるからこそ、誰もがリオンに戦いを押し付けてしまっているのだろう。
実際のところ、この小さな弟1人が頑張る影で千人単位の組織の人間が救われている。
弟は簡単に着替えてそのまま真っ直ぐ俺の所に来たのだろう、淡い色の柔らかな髪には血の香りがまだ残っていた。
報告なんて聞かなくても、それだけでどういう行為をしてきたのか俺にはすぐにわかった。
「兄さん……今日はなでなでしていただけないのですか?」
リオンがおずおずと俺を見上げる。
ふわふわの髪を撫でるとリオンは嬉しそうに笑った。
人々はこんな風に笑うリオンを知らない。
弟の属する隊は暗殺隊であるが、リオンは魔術で建物ごと燃やしてしまうことが多い。
そのため目撃者も多く、暗殺隊とはもはや名ばかりである。
リオンが戦闘系魔道士であることは箝口令を引いてもいつの間にか城の人々に知れ渡り、段々と遠巻きに見られるようになった。
俺が恐れていた通り、リオンは忌まれる存在となった。
天使のような姿はそのままなのに、もはやリオンをそのように見る人は居ない。
魔術は極力使って欲しくなかったが、王は積極的に使うよう弟に指示を出した。
そんな王を憎くも思ったが、人命を優先するなら正しい決断であり『リオンや他の隊員の命を守るため』と言われれば、口をつぐむしかない。
王の意見が正しかったことを証明するかのように、暗殺隊はあれだけの奇襲をこなしながらもまだ、1人の犠牲者も出していない。
いくら忌まれようと、リオンの身の安全を思えば魔術を使うことを禁ずるわけにはいかなかった。
イラストは前サイトで連載していた頃、N様にいただきました!
この場面を想定してリクエストした絵ですのでそのまま文中に入れさせて頂いてます。もし不都合があればお知らせ下さいませ。
……それにしても可愛い……。