7.名前のない少年
はっ!! いかん、いかん。何を血迷っているのだ俺は!!
ここは毅然とした態度で接しなくては!!
しかし小さく愛らしい弟は、白い神官服のせいか羽を広げた天使のようにさえ見える。
「ありがとうございます。兄様!!」
少年が嬉しそうに笑う。そのあまりにも嬉しそうな姿に、俺はすっかり敵意を喪失してしまった。
そして気がついたら、にっこりと笑っていた。
大好きな妹にするのと同じように。
「……俺の事、ちゃんと知っていたんだ……」
「はい! もちろんです!!
昨年はお誕生日プレゼントをありがとうございました!!」
少年は早口にまくし立てると、小走りに白い机のところに行き、引き出しから手のひらに収まるぐらいの小さくてふわっとした何かを取り出した。
「エルシド兄様からいただいたこのクマのヌイグルミ、とても暖かいのです!
いつも一緒に寝てるのです!!」
それは見覚えのない熊のぬいぐるみだった。
中々上等な品ではありそうだが、そんなものをこの子に贈った記憶は一切ない。
だとすれば父上か……いや、こいつがさっき言っていたクロスⅦとやらが不遇な弟王子を哀れんで『兄からのプレゼント』だと言って渡したのかもしれない。
なら、ここで本当の事をばらして傷つけるのもどうかと思われた。
「このぬいぐるみをこうして見ているとその……あの……僕、うまく言葉が……」
少年は、感極まったかのように声を詰まらした。
「……嬉しくなるって言いたいのかな?」
少し身をかがめて優しくそう言うと、少年は怪訝な顔をした。
「え……うれ、し……? ……それはどういう意味の言葉ですか?」
固まる俺に、少年はきょとんと首をかしげた。