1.幸せの行方
俺の生活パターンは単純だ。
季節により多少変わるが、日暮れまでの間に休憩を挟みつつ十数試合こなし、その後リオンと合流する。
仲良く二人で城に帰って、一緒に夕食を取る。
この繰り返しだ。
時には1日15試合もこなすこともあり多く感じるかもしれないが、俺が真面目にやれば数秒で済むような相手がほとんどだ。
だから過重労働というほどでもない。
もちろん、数秒で終えてしまっては次から挑戦者がつかない。観客も喜ばない。
荒くれ者相手の時はなるべく苦戦しているふりをしながら、20分程度かけて試合を消化する。
女性剣士相手の時は当然ハンデ有りで戦うが、たまに観客からは見えないように視線を合わせ、にっこり微笑む。
そうすると、たとえ負けても高確率で再チャレンジしてくれるのだ。
俺としては、女性からまでも高い参加料をむしり取るのは心が痛むのだが、ここらへんの営業指導に関して王は物凄くドライで、
「明日の勤労意欲の糧となるはずだから、女性でも問題無し!!」
との事だった。
こんな事ばかり言ってるから、王はいい年して独身なんだよ……。
大丈夫なのだろうか?
それでもこの頃は新人も加わり、実態のアコギさとは裏腹に中々の華やかさだった。
全ての試合が終われば、俺はリオンを連れてさっさと城に帰る。
昔は闘技場の片付けをしてから帰っていたが、今は専任のスタッフがいるので試合さえきちんとこなせば後はお任せだ。
城に帰ったら夕食を部屋に届けてもらい、リオンとゆっくり話しながら食べる。
基本夕食は城の食堂で食べることになっているが、少しお金を払えば部屋まで届けてくれるサービスがあるため、最近はそっちを使うことが多い。
食堂だと賑やか過ぎて落ち着かないし、サービス職なのでファンの女の子が寄ってきても無下には出来ない。
でも俺はファンの子に囲まれるより、可愛いリオンと二人でゆっくり過ごしたいのだ。
風呂を済ませたら、就寝までは一緒に勉強や盤を使ったゲームなどをして過ごす。
お互い仕事があるので、一緒に過ごす時間はとても貴重だ。
そうやっていつものように過ごしていたある夜、俺たちの部屋をノックする者があった。
夜間にまで仕事が入ることはめったにない。
アリシアかウルフだろうと思ってドアを開けると、王の使いが立っていた。
俺に用があるらしい。
「ええっ!
兄さん行っちゃうのですか?
これから一緒にチェスタをするって約束してたのに……」
相変わらずこぼれそうなほど大きな金の瞳を潤ませて、リオンが抗議の声を上げた。
今、リオンは『兄様』ではなく『兄さん』と俺のことを呼ぶ。
もう13歳をとっくに過ぎたし『兄様』なんて呼び方は目立ってしょうがない。
惜しかったが変えさせた。
「悪いリオン。先に寝ててくれるか?
こんな夜に俺を呼ぶってことは、それなりに緊急性があるのだと思うよ?」
弟のふわふわの髪を優しく撫でてから身をひるがえし、使いの者に続く。
本当はリオンとの約束を優先してやりたいが、勤め人であるからには公務を優先させねばならない。
そのぐらいのわきまえは、俺にだってある。
……王はまた新しい企画でも立てたのだろうか?
先日発売した『親衛隊抱き枕』の売れ行きは絶好調のようだが、出来たらもう少しまともな企画でありますように……。
俺はそう念じながら、王の部屋のドアをノックした。
「やあ。こんな遅い時間に呼び立ててすまなかったね」
相変わらずの喋り方で、アルフレッド王が俺を迎え入れる。
「今度は何を発売するのですか?
言っておきますけど、リオンだけは外してくださいよ。
もう十分儲っているのでしょう?」
俺の必死の努力で『リオン抱き枕』の発売は差し止めた。
いくらアガリが大きいと言っても、可愛い弟をほかの奴らの抱き枕にするわけにはいかない。
「いや、今回はそういった類の話ではない」
いつも何気にテンションの高いアルフレッド王だが、今夜は違った。
「闘技場は明日から当分閉める。
他の組織に潜り込ませていた部下から報告があった。
我が組織を潰すため、『ヴァーユ』と『ロト』が手を組んだ」
それを聞いてドクンと心臓が跳ねる。
『ヴァーユ』『ロト』は、ラフレイムの3大組織のうちの2つだ。
ウチと違って麻薬や女を使った稼ぎを主としている。
つまり正真正銘のマフィアということだ。
とはいえ、そこそこ住み分けが出来ているため、普段は小競り合い程度の争いしかない。
アルフレッド王が言葉を続ける。
「我が組織『ガルーダ』は、ここ1年で急速に力を付けた。
他の組織が我らを危険視するのは当然だ。
こちらからは、両組織に間者を潜ませて『ヴァーユ』と『ロト』を争わせるよう工作していたが……まぁ、そう上手くはいかないね。
そこで君に頼みがある」
アルフレッド王は一呼吸置いて話を続けた。
『親衛隊抱き枕』は半分以上むさい男どもが買い、負けた腹いせのサンドバックとして使ってたりします。




