3.明日を歩く
更に1年がたった。
春の訪れはどこも平等なようで、領内いたるところでブラサムの花が見事に咲いていて美しい。
俺たちの生活は相変わらずだ。
1日の大半を闘技場で過ごしている。
時々疑問符が頭に浮かぶが、ここでの暮らしは思ったより楽しい。
粗末な闘技場で働くのも、もう慣れた。
その頃には、よその国に行こうなんて気はすっかり無くなっていた。
有能な誰かの下にいるということは、なんと気楽な事かと心底思う。
俺は元々、世継ぎ王子の器量など持ち合わせていなかったのだろう。
何かをしようとすれば、それに見合う犠牲がでる。
もうそんなのに疲れてしまった。
自分で判断していた頃は常に間違い、リオンにもつらい思いをさせた。
でも今はそうじゃない。
俺たちはこの国に来てから、一度も人を殺していない。
誰かを激しく憎んだり、憎まれたりすることもない。
ここにいれば生活にも困らないし、王はちょっと変わったタイプではあるが、有能だ。
彼の言うまま一生懸命働けば、それなりの幸せが簡単に手に入る。
「兄様おかえりなさいっ!」
1日のノルマを果たして自室に帰ると、リオンが満面の笑みで迎えてくれた。
やっぱり可愛いなぁ……!
春の花々にも勝るかわいらしい顔と声。
毎日見ているのに、やはりそのかわゆさに改めて感動する。
それと同時に『弟がどうして女の子ではないのか』と、まだ毎日煩悶する。
リオンは弟。
どんなに理想のタイプでも弟っ!! 弟、弟、弟っ!!! 血縁者!!!
心の中で繰り返しブツブツと唱え、心を落ち着けるのも昔から続く俺の日課の一つだ。
リオンは男女の区別さえ知らなかったぐらいだから、もしかしたら俺が『好き』と言いさえすれば両想いになれるかもしれない……。
そうだ、俺たちは結婚の約束すらしたことがあるではないか。
弟のあまりの可愛らしさに、そんな考えが一瞬、頭をかすめる。
そうすればこの綺麗で愛しい存在を、これからだってずっと……俺だけが独り占め出来るようになるのだろうか?
でも、そんな相手の無知を利用するようなやり方はフェアじゃない。
いくらブラコンを極めた俺でも、世間的に許される事とそうでない事の区別ぐらいはつく。
第一リオンもエルシオン王家の王子の一人。
今は小さくて女の子みたいだけど、成長して男っぽくなれば……こんな思いもきっと消えていくに違いない。
「そ、そうだ。次の休みなんだけど、二人で少し遠くまで、ピクニックにでも行こうか……」
苦し紛れにそう言うと、リオンの顔は小さい子供のように輝いた。
そうだよな。リオンはまだ子供なんだ。
うん。
リオンが嬉しそうだから、俺はこれだけで満足しなければいけない。
だって俺はリオンの兄なのだから。
国を出るときに望んだのとは違う形ではあったが、これも一つの幸せの形なのだろう。




