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2.明日を歩く

 完成した闘技場は、この上なくみすぼらしいものだった。

 だだっ広い空き地をならし、草や石を取り除いた場所に綱で広めの円を描いただけ。

 闘士たちは、この中で戦うことになるらしい。


 円の周りには、粗末な木の椅子を皆で幾重にも並べた。

 これが客席。

 あとは立ち見になるようだ。


 こんなところで見世物となる闘士は本当に気の毒だ……と心底思っていたら、何と俺たち親衛隊に『ココで客と戦え』との王命が下った。


 闘技場造りだけでも心外だったのに、今度は闘技場で戦うんだ……。

 …………何で???

 俺たちは親衛隊のはずなのに、何がどうなって、こんなことになっているのか。

 

 どう考えても親衛隊の仕事とは思われない。


 しかし「挑戦者たちを殺せ」と言われているわけでもないので、とりあえず従うこととした。

 もちろんリオンはまだ見習いの立場なので、闘技に参加する必要はない。


 疑問符ばかりが頭に浮かぶが、まだ親衛隊候補生のままの弟は、この仕事を免除されている。なら、問題はないだろう。 


 俺はもう、大国の王子などではない。

 『仕事』に不平をたれられるような立場ではないのだ。


「そんな! 兄様にそんな危険な事……!!」


 リオンが一人、王にくってかかったが、


「あれを見たまえ」


 と、王の間のバルコニーから見える挑戦申し込み者たちの列を指されて、可愛らしく首を傾げた。 


「えっと……あれが挑戦者たちでしょうか……」


 そこには明らかな雑魚たちが、楽しそうに並んで受付を待っていた。


 王はリオンの肩をガシッと掴んだ。


「情けない……君はお兄さんがあんな連中にも勝てないと……著しく劣ると……そう言うのだね。

 可哀想にエル……君は弟君に全く信頼されてないようだ。

 しかし弟君がそこまで言うのなら本当は弱っちいかもしれないし、エルは戦いから外して弱者席に……」


「……っ!!

 兄様は弱くありません!! 兄様にかかったらあんな奴ら、片手で全員たおしちゃいますっっ!!」


 力説するリオンの目線に合わすように、腰を屈めた王はうんうんと頷く。


「なるほどっ……! よくわかった。

 弟君の意見によると、エルが闘技を行なってもまったく危険もなければ支障もないようだ。計画通り闘技受付を始めてくれたまえ!」


 アルフレッド王が部下たちに手を挙げて、ニッコリと微笑んだ。


 リオンはシマッタと言うように口を押さえていたが、今度は止めなかった。


 やり手だ……あのリオンを一発で黙らせるなんて、やり手過ぎる……。



 そんなこんなで俺たちは連日闘技場で戦うことになり、親衛隊としての仕事は一度も与えられたことがない。

 いったい王は何のために俺たちを親衛隊として育て、任じたのだろうか。


 アリシアは別に疑問もないようで、勝てば入る特別報酬のために嬉々として戦っている。

 もちろん台所事情の厳しい王の特別報奨金などたかがしれているが、それでも数をこなせば普通の職よりは何倍も稼げる。


「挑戦者がたくさん来るようにサービスよぉ!

 エルもちょっとぐらいサービスしてあげなさいよっ!!」


 と言いながらスリットの入ったスカートでお色気を振りまくアリシアに白い目を流しつつ、俺の不思議な職務は続けられた。





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