4.親衛隊候補生
ところで何故、念写真を撮っているのかというと、ブロマイドを作るためらしい。
出会い頭に王が言っていた戯言はどうやら『本気』であったらしく、それなりのプロジェクトとして始動しているようだ。
この念写真を下請けに出し、二千枚ぐらい複念写して試し売りするのだという。
……そういえば故国エルシオンでも似たようなシステムはあった。
人気の歌姫やスポーツ選手、果ては王族の絵姿が出回っていたのを思い出す。
ただし全て絵師による手描きのため、ここまで忠実には再現されていない。
むしろ誰コレ?
……といった感じのモノが9割を占めている。
宮廷絵師はさすがに素晴らしく精密な肖像画を描くが、一般に出回り安価で販売されているものは違う。
全てごく簡単な認定を受けただけの町絵師による制作だから、それは仕方がない。
そして、数多いる描き手のそれぞれが、主観に従って己の絵柄で描くのだからもう……類似点といったら髪型・目の色・服ぐらいのものだった。
だからブロマイドの件も気軽に引き受けたが、地下神殿にこもっていたリオンはともかく、俺は自身の素性がばれやしないかと冷や冷やしていた。
まさかこんな片田舎の小さな組織の念写師が、ここまで本物ソックリに再現できるなんて思ってもみなかったのだ。
しかもぎこちない笑顔だけはしっかり念写師による修正が入っていて、出来上がった念写真の中の俺は、故国にいた時のような幸せそうな顔で微笑んでいた。
髪はマメに染め直しているし、髪型も国を出るとき大きく変えた。
服の雰囲気も以前とは違うから、めったなことではバレないとは思うのだけど……。
ちなみに名前も城を出てからは偽名を名乗っている。
エルの字を残してはいるので不意に名を呼ばれても反応できないということはないはずだ。
この名前自体、元々ポピュラーだし、そもそも俺が生まれた年には俺の名にあやかった名が国内や周辺国で数多く出回ったと聞いている。
ここからバレる線は薄いだろう。
だいたい、ウチの国からラフレイムまで3国も間に挟んでいる。
これだけ治安が悪ければ戦争難民も逃げて来ないだろうし、我が国とは特に交流もなかったようだからバレるなんてないよぁ……。
「……そういえば、アレス帝国との戦争で滅んだエルシオンという国の王子もエル何とかだったわよねぇ……」
ふいに思い出したようにアリシアが呟いた。
そういえばコイツがいた!!
アレス帝国がエルを追えなかったのは、町絵師の絵しか残っていなかったせいもあります。父王が、アレス兵が城近くまで迫ってきた時点でエルの肖像画を処分しました。
画風の違う町絵師の絵たちが攪乱の役目を果たしてくれました。




