薬屋
薬屋のお話です。
・・・薬屋って地味ですよね。
「今日はどうなさいましたか?」
慌しい街のギルドで爽やかな営業スマイルで、僕は目の前でぶっ倒れている男に向かって言った。
男は顔中に脂汗を流しながら僕に怒鳴ってきた。
「イテェ!イテテ・・・。お前・・・さっさと助けろ・・・よ。腹イテェんだよ!」
「そうでしたか。では、少々お待ちください」
症状を聞いた僕はさっそく男の脂汗を拭き取り、ふくよかにたるんだ腹をシャツを上げて出した。
・・・相変わらず、僕にはこんな患者しか回ってこないらしい。正直可愛い子を診てあげたいんだけどなぁ・・。
そんなことを考えながらのんびり作業していたら、男がつばを飛ばして怒鳴りつけてきた。
「お前医者だろ!さっさと助け・・ろよ!こんなに苦しんでるんだぞ!!」
「失礼、僕は医者じゃありませんので。医者に診て欲しいなら回復所まで歩いていったらどうです?」
「歩いていけるわけねぇだろうが!医者でも薬屋でもどうでもいい!さっさと助けろって!イテッ・・・!」
ああ、汚い汚い。後でしっかりと顔を洗わないと・・・。
こんな患者でも、あと10分ほど放置していたらけっこう命が危なかったりするから面倒臭い。
のんびりも程ほどにして、薬を処方することにした。
「けっこう毒が強いので強力な解毒薬を処方しますね。不味いですけど我慢してください」
「?!うぐ・・ごぼっ!ごぼご!」
「はいはい、ちゃんと飲まなきゃ死にますよー」
「ごぼっ?!!・・・・・・ゴクゴク・・・・」
僕の軽い脅しにビビッた男は言われるがままゴクゴクと喉を鳴らして薬を飲み干した。
あれ、かなり不味い薬のはずなんだけどよく飲めるなこの人。
「うぐっ!まずっ!おえぇ・・・・」
「はい、もう大丈夫です。金払ってください」
「え?あれ?腹痛くないぞ?」
「だからもう大丈夫ですって。それより金払ってください。今回のは結構高いですよ」
請求書を男に見せた途端、彼の顔がかなり青ざめた。
きっと予想以上の額だったのだろうけど仕方がない。既存の解毒薬に高級な素材をいくつかアレンジして作ったんだし。
男は渋々自分の装備と所持金を置いた。
「くそ!あんな毒喰らわなけりゃ!!」
「身の丈に合った所で冒険することをオススメしますよー。まだあそこの洞窟はあなたには早かったんじゃないですかねぇ」
「うるせぇよ!次こそぶっ殺してやる!・・・もうあんたとは二度と会いたくねぇな!」
男は捨て台詞を吐いてギルドから出て行った。
対して僕は男の背中に向かってこれまた営業スマイルでお決まりのセリフを言う。
「ありがとうございました!またのご利用お待ちしています!」
何てことないいつも通りの僕の薬屋としての日常。
モンスターの攻撃でやられた患者に薬を処方するのも、各地を転々として薬を販売するのもまぎれもなく僕の日常。
普通に毎日が楽しいし、充実もしている。
たとえ異世界に転生していようが、それは僕にとってはもうどうでもいいことだった。
僕の職業は薬屋。今までもこれからもこれはずっと変わらない。
薬屋として僕はこの異世界を生きる。
~~異世界で薬屋、始めました~~