プレゼント
翔子を待つ間、美春は何が必要か紙に書き込んでいた。ちゃんと見ると、キッチン用品が何もなくて調味料もない。そして、違和感がずっとあったのが、漸く分かった。冷蔵庫や、オーブンレンジ、テレビ等、家電製品が周吾の部屋のエアコンを除けば、大きな家電製品が全く無い。勿論、ドライヤーもだ。此処まで、生活用品が乏しいのも可笑しな話だ。お金持ちのわりに、生活感が無いのも周吾だけなのかもしれない。
「周吾さん、この家には家電や調理器具がありません」
「必要の物は適当に、翔子と買ってきて」
「いいのですか?」
「俺は困らない。困るのはメイド」
全部揃えようと思ったら、一人暮らし始めるよりも凄い金額になるはず。やはり、お金をポンッと出せれるほど余裕があるんだなと、しみじみ思う。でも、必要な物は買っていいと言われても流石に全て買うわけにもいかないので、困ってしまう。所詮は住み込みメイドだが、只のお邪魔な居候とも言える。いずれは、此処を出て行かなければいけないのだ。
「確かに必要なので困りますが・・・いずれは出て行かなければ」
「なに、メイドは勝手に出て行く気なの」
「この家は周吾さんのです。その内、彼女が出来たり結婚だってするだろうし」
「彼女はつくらない。結婚だってしない」
そんな事いっても、お金持ちなら婚約者ぐらいいるのではないか?する気がなくても、いつかは家庭を持つことも可能性は有る。そんな時、只のメイドが用意した物など、相手にとって気分が悪いはずだ。周吾は、余裕で買い替えれるだろうが、美春にとっては勿体ない。挙句メイドが、雇い主に多額のお金使わせるのも気が引ける。だからといって、何もない状態で生活も難しいだろう。調理器具とか、自分で必要なだけ買う事は出来ても流石に、冷蔵庫とか無理な話。どうしたものか、悩んでいると。
「買い物には俺も行く」
「えっ!?」
「メイドは文句言わない。俺も買いたい物がある」
有無を言わせないで、二階に上がって行った周吾。買いたい物が、有るなら仕方ないが急にどうしたのだろうか?二階に上がったまま、下りて来ないのでソファーに座ってると、急に周吾に呼ばれて慌てて二階に行く。
「何でしょうか?」
「これ」
手渡されたのは鞄に靴、アクセサリーも渡された。これは何なのか良く分からなく、じっと渡された物を見てたら周吾に、今日の出掛ける時、身に着けるものと言われた。こんな高そうな物は、使えないと周吾に返そうとするが、受け取らない。美春が勝手に騒いでる所を、翔子が現れた。
「二人とも何やってるのよ」
「翔子さん周吾さんが、こんな高いの身に着けて出掛けろって」
半泣き状態になりながら、周吾に返そうとするが翔子は貰っときなさい。一言で片づけてしまった。どうしても納得がいかない美春は、お金を返そうと金額を聞いたが教えてくれない。周吾は、黙ってベットの上で本を読み始めてしまう。
「翔子さん何とか言って下さい」
「美春ちゃん。周吾だって返されても使い道無いから困るわ」
「でも・・・」
「周吾が美春ちゃんの為に用意したのよ。それを返したら、周吾だって傷つくわ」
しれっとした態度で本を読む周吾に、本当に傷つくものなのか聞きたいが、翔子がそこまで言うのならこれ以上は黙るしかない。
「周吾さん、有り難く頂戴します」
周吾に頭を下げて、お礼を言う。
「それより、いつの間に名前で呼ばれてるのよ」
「昨日」
「ふーん。それと首にある痕と、何か関係でもあるのかしら」
クビ?と何も知らない美春は、二人の会話が分からなくて蚊帳の外だ。翔子が、周吾に色々質問して遊んでるように見えたが、周吾は完全無視。こんなんで、会話が成立してるのも凄い。
「あ、そうだ。美春ちゃん、私の用意した服は気に入らなかった?」
周吾に話しかけるのに飽きた翔子は、美春の服装について聞いた。
「これ、翔子さんが用意したものではないのですか」
「違うわよ・・・ふーん、なるほど。そういう事ね周吾も考えたわね」
「何がです?」
「いいの、いいの。美春ちゃんは何にも知らなくて、いいのよ」
翔子が、何も知らなくていい。と、言っているが逆に気になってしょうがない。でも、教えてくれないので、美春は諦めた。実は美春が着ているのは、周吾が用意したワンピースで、首回りがすっきりと見えるようになっている。なので、周吾が昨日つけたキスマークが目立っているが、美春は気付いていない。翔子が、にやにやしているので少しだけ気持ち悪いと思いつつ、出掛ける為の準備をしようとした。
「美春ちゃん。もしかして化粧はしないつもり」
「はい。化粧ってした事が無いので」
「駄目よ。いくら若いからって、化粧も何もしないなんて」
『こっち来て』翔子に言われるまま、周吾のベットの上に座らされて何やら翔子が鞄の中を、ごそごそ探している。取り出したのは、ぎっしり詰まった化粧ポーチだったようで美春の顔に基礎化粧をしっかり塗っていく。若いから、そんなに必要ないと言われ薄く化粧をして、完成だった。手渡された鏡で、顔を覗けば軽く化粧しただけで、意外にも変わるものだと知って驚く。
「化粧するだけでも意外に違いますね」
「そうよ女の子だもん。もっと楽しまなきゃ」
「でも、翔子さん男の格好で化粧もしてないのに何で、こんなに化粧品持ってるのですか?」
「世の中には、聞かない方が良い事もあるわ」
ウィンクをして美春の頭を撫で、理由を話そうとしない翔子。更に、周吾が美春に抱きついてくる。
「何するのですか!」
「メイドに触り過ぎ」
「あら、ヤキモチ?可愛い」
美春は必死に、周吾から離れようとする。周吾は、美春を離そうとしない。翔子は、そんな二人をからかっている。三人のやり取りが、傍からみると何ともお馬鹿な光景だ。
「周吾さん離してください」
「嫌」
「周吾の愛情は重いわね」
雇い主からこんな愛情など、迷惑な話だ。本来なら、セクハラで訴える事だって出来る。周吾から離れる為に、あれこれ暴れてる間に髪の毛は、ぐしゃぐしゃになった。翔子もいい加減に離れるように、周吾を美春から引き離し、髪の毛を直す。丁度、直し終わった時に翔子の携帯が鳴る。電話の相手は、秘書で仕事で問題が発生したために、会社に行かなければ行かなくなったようだ。
「ごめんね美春ちゃん」
「お仕事なら仕方ないです。そてと昨日の事で秘書さんに、後日お礼をさせて下さいね」
「分かったわ。・・・周吾、今日は美春ちゃんの為にちゃんと、買い物付き合うのよ」
翔子は申し訳ない顔をしつつ、周吾に何度も念を押して帰っていった。少し残念に思いながらも、周吾と二人っきりで買い物だと思ったら、意味もなく不安になってきた。翔子が帰った事により、周吾は美春に抱きつき離そうとしなかったのが嘘の様に、距離を保っている。そんな周吾の態度に困惑しながらも、今日一日の予定を聞いてみた。
「周吾さん、先ずは何処に買い物行きましょうか」
「メイドはついて来ればいい」
「あのぉ。昨日、私もちゃんと名前で呼んでくださいと言ったような」
遠慮がちに、メイドではなく名前で呼んでほしいと、お願いしたが無視されてしまった。しかも、何処に行くかも教えてくれない。荷物持ちでも、させられるのだろうか?あまり数が無くて、重たくない事を祈る美春だった。朝の出掛ける準備から、ぐだぐだしていたので、結局お昼過ぎに出掛ける事になる。
お互いの全てが準備が終わり、さあ出掛けるぞって時に周吾が手を出せと言ってきた。美春は不思議に思いながらも、右手を出すと反対だと叱られて左手をだす。周吾によって、小指には小さな指輪がはめられた。美春にとって、こんな小さな指輪を見た事が無いので、聞いてみると『ピンキーリング』と、教えてくれた。指輪なので返そうとしたら、外したらお仕置きをすると脅される。
周吾の事なので多分、物凄く高いはず。失くしたら大変なので、簡単につける事など本当は恐ろしい。でも、外したら昨日のような理不尽なお仕置きをされるのも困る。男性からプレゼントを貰った事が一度もない美春は、思い掛けない周吾からのプレゼントに、どう受け止めれば良いか頭が悩む。
書きたい事がまとめれない、駄文。