おしおき2
お風呂に入り、シャワーで暫くぼーっと立っていた。ずーっとシャワーを浴びていた美春は、胃の調子が少し回復したので頭を洗う。美春は先に、頭や体を洗い浴槽に浸かると決めてる。
「いい匂い」
昨日は、お風呂に入れていなかったうえ今日は、周吾の汚い家を掃除したから気持ちが癒される。シャンプーの匂いも良かったが、入浴剤の匂いは眠気を誘う。このまま、出たくない気持ちが大きすぎて、うとうと。眠ってしまい、危なく溺れるところだった。
どれだけの時間入っていたのか分からないが、体がふやけてしまったので出る。翔子に貰ったパジャマに着替え、周吾に言われた通り部屋に向かう。が、その前に胃薬を飲もうと、鞄の中を漁り取り出す。胃薬と無縁だと思ってた美春は、クビにされたバイト先の先輩に以前、無理矢理に渡されたのを飲む。
結構苦くて、我慢して飲んだ後は二階に上がり、周吾の部屋の前に立つ。ドアを叩けば、入って。と、言われ遠慮がちにドアを開けて中に入る。殆ど何もない部屋で、周吾が寝間着に着替えベットで、本を読んでいた。
「不破さん、何か用事でも」
「メイドの服や、翔太郎が用意したベットは隣」
「ベットだけは、不破さんが用意して下さったのですよね」
「ああ」
顔もあげないで、本に視線はいったまま話す周吾。周吾が用意したベットで、寝ようと思い尋ねてみるが返事がない。代わりに手だけが、ポンポンとベットを叩いている。
「何ですか、その手は」
「メイドのベットは、ここ」
「言ってる意味がわかりません」
周吾がいってる美春のベットは、周吾が今現在使っているベットを指している。それなら、翔子が用意したベットを使うからと、隣の部屋に行くが開かない。ガチャガチャしてると、後ろから周吾が鍵を見せて来る。
「この鍵が無いと、開かない」
「私が掃除した時は、鍵なんて無かったのに」
「翔太郎と出掛けてる時に、新しく付けさせた」
周吾と一緒に、寝るのが条件で鍵は渡してもらえるらしい。だが、そんな条件飲めるわけがないので断ると。鍵は渡さないし、翔子が用意したベット全ての物を捨てると、言いだす。
「不破さん、鍵下さい」
「嫌。お仕置きって事で、これからは、ずっと寝る事」
「さっき、お仕置きでエクレア食べました」
「誰も、一つだけなんて言ってない」
にっこりと、周吾の笑顔に美春は騙された感じ。
どうして、周吾とずっと寝なくてはいけないのか、意味が分からなく。美春は尋ねた。
「メイドは俺の。一緒に寝るのは、当たり前」
「そんなの横暴です」
「ご主人様だからね」
主人の要望を聞くのは、メイドの仕事。と、当たり前の様に周吾に言われてしまい、身の危険を感じる。まさか、体を差し出せとか言わないだろうか?不安に駆られる。そんな事は、言わないと周吾が言うが、怪しくて信用できない。そんなに信用出来ないのなら、念書を書いても良いと、周吾が言う。流石にそこまで、周吾にしてもらうのは気が引けたので諦めた。
周吾の考えてる事は分からなくて、自分の何が良く、其処までこだわるのか美春は困惑する。諦めた事によって、周吾はご機嫌になり、鍵を渡してくれると思った。鍵を渡してくださいと、お願いしてみたが駄目だった。
「約束破るかもしれない」
「そんな事は、しません」
少しだけ、鍵を受け取ったら部屋に逃げ込もうと、考えていたので見破られて焦る。いくら言っても、明日になったら渡す。そう言うので、美春は溜息しか出てこない。夜も遅いので、此処は折れるしかないと、周吾の意見を尊重した。
「一階のソファーで、寝ても駄目」
「分かりました。ちゃんと、言う事聞きますから」
「約束破ったら、今度は酷いお仕置きするから」
分かった?と、何度も言われ何回も返事をする羽目になる。漸く、納得して周吾の部屋に戻った。周吾のベットは、一人で使うには大きいので、離れて寝れば問題ないと、思うようにした。眠気もあり、早々に寝て。早く、起きる事にしたかったが周吾の発言で、睡眠が邪魔される。
「後、二つ」
説明をちゃんと言わないので、全く内容が分からない。
(めんどうな人)
「何がですか?」
「お仕置き」
「まだ、あるのですね」
「二つとは、言ってない」
先程の会話と、似た発言をする。周吾に、正直面倒と思い始めてきた。そこまで、怒らすような事はしてないと思うし、何がしたいのか理解に苦しむ。適当に返事をして、今度のお仕置きは何か尋ねる。
「周吾」
「・・・」
「周吾」
「何が、言いたいのですか」
突如、自分の名前を言い始める。何度も、自分の名前しか言わないので、ちゃんと説明をしないと分からないと、お願いした。すると、説明が面倒と溜息をされてしまう。全く意味のない会話に、付き合いきれない美春は、同じように溜息をする。超能力者じゃないのだから、口に出してもらわないと伝わらない事を、話せば。『察しろ』と、ボソッと声がしたが聞こえないふりをした。
(なんて我儘なの)
「俺だけ名字呼び」
「いきなり名前で呼ぶのは」
翔太郎は名前で呼ぶのにと、つぶやく周吾。
「翔子さんは、翔子さんだし。不破さんは、雇い主?ですから」
「なら、ご主人様」
「そう呼ばれたいのなら・・・」
自分だけ不平等。お仕置きだからと、周吾を名前で呼ぶように言われる。確かに、言われてみれば翔子を名前で呼んでいた。しかし、女性言葉で話してる翔子に親しみを感じ、自然に名前で呼んでいただけ。それだけなので、周吾を平等に扱ってないとは思っていなかった。
(私も友達だけ親しくて。自分にだけ、他人行儀だったら寂しいよね)
美春は、勘違いしているが、本当は不破と言われ慣れてない。それだけだったとは、面倒くさいから言わない。
「これからは、名前で呼びます。でも私もちゃんと、名前で呼ばれたいです」
「ん。あと、最後のお仕置き」
「え・・・」
油断をしていた美春。急に、周吾が抱き締めてきたのを、避ける事が出来なかった。こうして、周吾の腕の中にいる美春は、身動きできない。どうして、こうなってるのか意味が分からず暴れるが、腕は緩む所か、きつくなって軽い締め付け状態になる。顔が胸で押さえつけられて、呼吸がし辛い。少ししたら、力が弱くなったので顔を素早くあげた。
「いきなり何するわけっ」
敬語なんて、使う事を忘れるぐらい周吾に対して怒る。
「抱き枕」
「はぁ!?」
「最後のお仕置きは、毎日俺の抱き枕になる」
一緒に寝る。名前を呼ぶ。抱き枕になる。これでは、まるで恋人同士の関係ではないか。美春が、そう訴えれば透かさず主人と、メイドの関係と言う。『だから、メイドは俺と寝るのが当たり前』と、屁理屈をこねる周吾に頭が痛い。
「普通のメイドは、ご主人様の抱き枕なんて当たり前じゃないです」
「俺は当たり前」
「世間一般は違います」
「その世間一般が可笑しい」
ちょっと頭、可笑しいのではないかと本気で思ってしまう美春だった。そもそも、お仕置きとは一回で終わる物ではないのか?こんな、お仕置きはあっていいのか?周吾の感覚が、麻痺してるのではないのか?本気で、色々心配になってきた。
「私にも意見はあります」
「なに」
「抱き枕は、嫌です」
「却下」
美春の意見なんて即、却下して抱き締めが再び強く、されてしまった。
「明日、抱き枕買いに行きましょ」
「これでいい」
美春をこれと、言いながらぎゅっとしたままの周吾。今迄、女性を連れ込んで抱き締めて寝ていたのだろうか。汚い家だったが、女性物の下着があったのは事実で人肌恋しいのなら、迷惑な話だ。そういう事は、彼女にしてもらって欲しい。周吾に言えば彼女は、いないらしく作った事もないようで、いらない情報を与えてくれた。挙句、女性を連れ込んで夜過ごした事は、否定しなかった。
まだ成人していない美春は、大人は乱れていると思う。
何を言っても諦めてくれないので反論する気が、薄れてくる。こうして、騒いでいても仕方ないので今夜だけは、美春が妥協する事にした。明日になれば、鍵も貰えるので捕まらない内に部屋に逃げ込んでしまえばいい。そう考えていたが少しだけ、最後の悪足掻きをする。やはり、身の危険があるかもしれない。
「暑いですから、離れた方がお互い・・いえ、周吾さんにとって良いと思いますよ」
「・・・」
季節は、夏になりかけている。我ながら、良い案だなと、感心してると。話す事を止めてしまった周吾は、指だけ上に指す。指の方向を見てみれば、高い天井だったので気付かなかった。エアコンが立派に、備え付けられていた。何処から取り出したのか、リモコンで電源を入れて『暑くない』と、離れる気全くない周吾だった。
「エアコンで寝ると喉、痛くなってしまい」
「寝る」
往生際の悪い美春に、ばっさり一言で会話を切ってしまった周吾。絶対襲わないでくださいね。と、周吾に大きな声でいうが、本当に寝てしまったようで、寝息が少し聞こえる。こんな状態では、簡単に寝れる事など出来ずにいる起きている美春。部屋も明るいので、余計に眠れず隣で眠る周吾を、羨ましく思う。
しかし、暫くしたら部屋の電気がぱっと消え、暗くなってしまった。一向に部屋の電気は明るくならないので、少しだけ怖くなってしまう。周吾の腕に、自ら無意識で触れた。気のせいだろうか、ほんのちょっと周吾が抱き締める力が強くなった気がする。部屋が暗くなり、周吾に抱き締められてるのもあって美春は、眠くなって目を瞑る。
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漸く美春が眠りについた時、周吾が美春の首筋にちゅっと音をたてる。気付かない程の軽さだ、美春は目を覚まさない。リモコンで部屋をほんの少し明るくして、もう少しだけ強く首筋ではなく、鎖骨辺りにちゅーっと音を立てた。周吾は、美春の鎖骨辺りにに付いた一つの赤い痕を見て、満足気に抱き締める。今度こそ周吾も眠った。
最後の周吾さん、ちょっぴり えっちでした。