おしおき1
一通り、翔子と二人で笑った後。
周吾が笑う理由が分からないと、二人を怪訝な顔で見て来る。デリバリーに関して、高級なシェフしか知らない周吾は、今までどんな生き方をしてきたのだろう。と、美春は、可笑しく思った。同じ、お金持ちでも翔子は一般常識は心得てるようで、周吾があまりに世間知らずに思えてきた。
車に乗れば、直ぐに帰るのがつまらないと言う翔子に美春も賛成した。
周吾に関しては、ご飯を食べたらささっと帰りたくてしょうがない。それなら、一度家に戻り周吾だけ置いて、遊びに行こうと翔子が提案をする。最初は周吾も、反対するが最後は、翔子に付き合って出掛けるぐらいなら家に帰ると、黙った。
「じゃぁ、美春ちゃん借りるわ」
「ああ」
「帰りちゃんと送ってくし、今日寝る為のベットや、色々後で届けさせるから」
鍵だけ開けてあげて。翔子が、美春のベットや服を秘書に届けさせるからと、周吾に言うがすでに、ベットは、用意してある。と、翔子に必要ないから持って来ないよう言う。
「いつ、用意したの?こっちだって買っちゃったんだけど」
「自分で使って」
「周吾の家広いし、一つぐらい増えても構わないでしょ」
美春の為に用意したものなので、翔子は使ってほしいと思い無理矢理、届けさせるからと、居留守は使うな。それだけ言って、車に乗り込む。美春も『いってきます』と、周吾にお辞儀をして車に乗る。
二人の事を、面倒くさそうに溜息を吐く周吾。何の為の、メイドだと、呟きながら家に入っていく周吾に美春は気付かなかった。
□□□一時間後□□□
周吾の、家の前にいる。
遊びに行くといっても、ちょっとした買い物をしただけだった。夜、着るパジャマは翔子が用意してくれていたが、中身を確認したところ、下着類だけは翔子の趣味。派手な下着だった為に、申し訳ないが別のが良いと、時間ギリギリで、お店に駆け込む。最低限の数だけ買った。今すぐ必要にならないやつで、美春が必要な物は翌日、再び買い物を一緒にする。
指紋認証も、翔子の一言で人がやって来て美春の指紋を登録して帰っていった。簡単に指を押し付けただけで、ピピッと完了してしまい拍子抜けだ。もっと、書類とか書いたり色々時間がかかる物かと思っていただけに美春は、お金持ちって分からないと実感した。
「美春ちゃん、今日は楽しかったわ」
「私こそ、色々お世話になりっぱなしで。結局、全てお金出してもらい、すみません」
「気にしないで。どうせ、周吾のお金だし」
「えっ!?」
「カード渡されたの。周吾は、お金しか取り柄が無いようなもんだし」
お金持ってる人間からは、どんどん使わせなさいと、翔子の言葉。
お金持ちの感覚は、そんなものなのか?と、疑問に思いながら。また、明日ね。と、翔子は去っていき、先程登録した指紋認証と、教えてもらった暗証番号を押す。
開いたことに『わー』と、感動してしまう。中に入り、直ぐ門を閉めると明日ここの地区が、ゴミの日だと思い出す。庭にある大量のゴミを、門の近くまで何回か往復して運び、カラスに突かれないよう使い方は違うが、シートが有ったので被せた。
これで一つ、仕事が終わったと満足し事前に貰った鍵で、家の中に入る。
周吾のお金で買ったと聞いた美春は、周吾にお礼を言いたかった。二階の自分の部屋に、いるだろうと向かう。ドアを叩いてみるが、反応がない。すでに、寝ているのかもしれないから、起こさない様にそっと離れる。一階に戻り、リビングに進んだ。ソファーに座ろうとすれば、周吾が横になって寝ていた。そっと、覗いてみると睫毛が長く、整った眉毛。
(睫毛長い。眉毛なんて、綺麗に整ってるし。面倒くさがりなのに、自分で整えてるのかな?)
色々、顔を覗いていると口に目がいった。数時間前に、周吾とキスした事を再び思い出し恥ずかしく感じる。だが、すっかり忘れていた自分に呆れてもいる。キスとは、それ程重要でも無かったのだろうかと、呑気に考え始める美春。
「観覧料、一万円」
ぱっと目を開けて、起き上がる周吾に驚いて美春は叫んでしまった。寝てると思っていたのに、いきなり目が、ぱっと開けば心臓に悪い。
「起きていたのですか」
「寝てた。でも、メイドの視線に起こされた」
気怠そうに、ゆっくり起き上がる周吾。
そして美春に向かって、掌を出す。『早く』と、催促するので起こして欲しいのかと思った美春。
「子供じゃないのですから、一人で立って下さい」
「違う」
「じゃぁ、何ですか」
「観覧料、一万円」
本当に取るのか?聞けば、冗談と聞きほっとした。顔を見ただけで、一万円とはこれから一緒に住む事で、逆に破産してしまうと本気で悩む所だった。
「翔太郎と、何して遊んだの」
「遊んだというより、買い物しただけですよ」
「何を買ったの」
「あっ!不破さんが、お金出したと聞きました。ありがとうございます」
おもむろに、周吾が話しかけてきた事でお礼の言葉を忘れるところだった。周吾の質問より、まずはお礼が先と、頭を下げたのだが・・・。
「俺に、言えない物なんだ」
「ち、違います。ただ、先にお礼が言いたくて」
「わかった。何、買った?」
「・・・」
周吾の、笑顔で怒っている顔が怖くて黙ってしまう。
それに下着を買ったと、異性の相手に淡々とは、言えない。困ってしまった美春は、とりあえずパジャマを買ったと。翔子が、用意した物を口にする。
「うそ」
「う、嘘じゃありません」
「翔太郎の車で、パジャマが入った袋見た。嘘つきには、お仕置き」
まさか、周吾が袋見て知っていたとは知らず。お仕置きと、言われ固まってしまう。嘘をついた事を謝っても、食事で笑った事も含め、お仕置きがすでに決定だったようだ。何を言われるか、ビクビクしながら周吾の言葉を待っていた。だが、周吾のお仕置きは拍子抜けする、ような内容だ。
「このエクレア。今すぐ、一人で食べる事」
「今すぐですか?」
「ご飯食べてお腹、苦しいはず。今すぐ食べて、買って来てあげたのに勿体ない」
「それがお仕置きですか?」
「そう。何、不満なんだ」
滅相もありません。と、謹んでお受けします。美春は、残っているエクレアを食べる事にした。デザートは別腹と言う事を、周吾は知らないのだろう。一時間以上も前に食べたので、特に問題ない美春だった。
「食べたら、お風呂入って。沸いてるから」
「不破さんが、準備したのですか」
面倒くさがり屋の、周吾がお風呂の準備をしたのが驚く。しかし先程、翔子の秘書がベットと共に色々持ってきた。そのついでに、お風呂の準備もして帰ったらしい。お礼を言わなきゃと、翔子に会わせてもらうよう明日、お願いをする事にした。
「うっぷ・・・」
「流石に、エクレア十個以上は苦しいはず。どう?」
どう?と、周吾の勘違いに少々呆れるが、別の意味で苦しい。エクレアは、中身がクリームなので胸焼けしてきた。デザートは別腹なんて、これからは考えない様にしようと誓う。美味しいはずのエクレアは、気持ち悪いとしか思えなくなってしまい。何とか、全部食べきって口と胃の部分を押さえる。
「おふ・・ろ入ってきます」
「出て来たら、俺の部屋にきて」
「・・・わかりました」
今喋ると、吐き出しそうになるが無視をすれば、文句を言われるだろうと、言葉を絞り出す。お風呂場に、必要な物を持って向かう。周吾のお仕置きは、見事に美春を痛みつけた。その、後ろで周吾が笑ってるとも知らずに。ヨロヨロと、ふらつきながら歩く美春は本当に吐きそうだった。
(胃薬って鞄にあったっけ?)
地味なお仕置きです。