食事
二人の後を付いて行けば、門の外に車があった。
どうやら翔子の車なのだが、お金持ちの印象から勝手に外車と、誤解していたが普通に国産の普通車だ。ふと、美春が今更と思った事が一つある。翔子は、周吾の親友だったとしてもだ。どうやって、この家に入れたのだろう?
答えは簡単。指紋認証は登録されており、暗証番号は知っていただけ。
仲の良い二人だが、翔子がオカマなので、もしかして・・・と思ったが違うらしく。ただ、周吾の面倒くさがりのせいで翔子の指紋を登録しただけだったようだ。しかも翔子は、オカマではないらしく。女性言葉だが、特別男性が好きでは無い様で、ちゃんと女性が好きの対象だった。昔、色々あったようだが話は濁らされる。なら、オカマでもないし、女性が好きなら翔太郎でいいじゃないか?
美春は尋ねたが、女の子の名前で呼ばれたいらしく。でも、服装は男性の格好なので、理解に悩む。
「美春ちゃんも、指紋認証登録しないとね」
「しょうた・・・翔子がやって」
再び、翔太郎と呼ぼうとした事で叩かれそうになり。言い直す、周吾。翔子には、頭が上がらないのだろうか?第一印象とは、少し違う風に見えた。本当は、面倒だから言い直しただけなのだが美春は、周吾にも可愛い一面が有るんだと勘違いしてしまう。
でも、暫くお世話になるとはいえ簡単に指紋認証登録などして、本当に良いのか。周吾に尋ねるが、どうせ必要になる。一言で、話は終わった。
「周吾は、和食言ってるけど。美春ちゃんは、何がいい?」
「私も和食でいいです」
「そう、なら早く移動しましょ。美春ちゃんのお腹が、耐えられなくなくなるしね」
意地悪にいう翔子は先ほどの美春のお腹の音を、思い出してるようで笑いを堪えている。大人げないと思いながらも、憎めないのが翔子の魅力なんだろう。
車に乗り、少し走れば車が忙しく走ってるのが見えた。
周吾の家付近は、都会に住んでると思えないほど本当に何もない。一体、周吾はどんな人間なのだろうか・・・立派な家なのだから維持費だって大変なはず。翔子みたいに、有名会社の跡取りなのだろうか?と、直接本人には聞けず後で、翔子に聞けたら聞こうと思う。
渋滞の時間帯なので、中々車が先に進まない。
これから行くお店は、周吾達が常連としてよく通ってる料亭。だが、渋滞にはまってしまってる為に、まだまだ辿り着けそうにない。ぐーっと鳴るお腹を、聞こえない様にするのが精一杯の美春は、お腹に力を込めて窓を見ていた。実際は、睨んでるようにしか見えなかったがそこは、誰も触れて来ない。
「あっ・・・」
「どうしたの?」
「いえ、大したことじゃないのですが」
急に窓の外を見ていた美春が、叫ぶので翔子は尋ねる。
「何でも言って。どうしたの?」
「えっと・・・実は、私が良く行っていたお店があったので」
「何処のお店?」
美春は渋滞で車が動かなく、余所見が出来る翔子にビルに何店舗も入ってる内の、一つを指さした。チェーン店として、最近全国に拡大してる定食屋『主婦ごはん』だ。名前の通り全員が、ベテランの主婦達が作ってるので家庭の味が楽しめる。日替わりで、『今日の主婦ご飯』が密かに女の子たちの中で人気だ。男の方の印象が強い、定食屋だが此処は、若い女の子達が多い。ファーストフードより、お手頃で栄養満点の『主婦ごはん』と、説明をした。
「じゃあ、そこにしましょ」
「えっ、でも不破さん達が行くような場所では」
「なーにー?周吾は、兎も角。私だって、定食屋に入るわよ」
渋滞で、動かないのなら近場で済まそう。と、翔子の提案に周吾も和食があるなら何でもいいと、何処でもいいらしく次の路地で曲がる。駐車場は、ないので近くのパーキングに入れる事になった。少し歩き、お店の中に入ると、昼時はいつも満員だが夜になると客入りは、緩やかだ。
昼の日替わり主婦ご飯以外は、自分で好きな物だけ取って会計を済ます。先に、席を確保してから選ぼうとしたのだが、周吾が座ったまま動かない。
「どうかしました?」
「メニューは何処。客が来てるのに、店員は何故来ない」
「やだぁ周吾ったら、此処は好きな物を選んで自分達で運ぶのよ」
面倒くさい。又言う周吾に美春は、食べたい物を言ってくれれば運びます。と、言い選ぶだけ来てもらう為、周吾を立たせる。後ろから、周吾があれと、これと、それと選んでカードを渡しさっさと、席に戻っていった。手元にあるカードをよく見れば黒く、噂で限られた人しか持てないとされている通称ブラックカード。何故カードを渡されるのか分からない美春は、翔子に尋ねる。
「周吾ね、カードしか使った事ないの。此処が、現金だけしか使えないの知らないのよ」
「そ・・・そうですか」
「支払は、私がするから気にしないでね」
会計の時、自分の分だけでも払うと少し揉めたが結局、翔子が三人分支払った。
席に戻ると、周吾はじーっと座ってるだけで動かない。
「お待たせしました」
「・・・」
「周吾なんて無視して、食べましょ」
「え?は、はい」
不機嫌に見える周吾が気になるも、翔子の言葉に従う。カードは返すのだがやはり、いきつけの料亭にいけなかったのが不満で、怒ってるのだろうか・・・。気まずい思いをしながら、ご飯を食べる。三人の空間だけが、お葬式の様に暗く重苦しくなって耐えられなくなった時。
「もう、いい加減にしてよ周吾。美春ちゃんが、責任感じてるじゃない」
「翔子さん、落ち着いて下さい。私が、此処に行きたいって言ったのが悪いので」
「ほらっ、やっぱり勘違いしてる。これは、完全に周吾が悪いわ」
「勘違いって・・・」
翔子が、周吾に対して怒る。どうやら、料亭に行けなかったのを怒ってる訳でもないようだが、話が見えない。おろおろ、し始めた美春に翔子が呆れながら説明をしてくれた。
周吾の不機嫌な理由は、座っている椅子らしい。その椅子が固く、不機嫌だったようで美春も唖然してしまう。面倒くさがり屋で、椅子の固さに不満なんてまるで、子供だ。美春は、可笑しくて笑ってしまった。
「ほーら美春ちゃん呆れて、笑ってるじゃない」
「椅子が、固いのが悪い」
「周吾のお尻が、ひ弱だから固く感じるのよ」
「メイドは、いつまで笑ってるの?後で、お仕置きするよ」
今まで笑っていた美春は、黙る。更に二人が騒ぎ出して、目立ってきてしまったので慌てて止める。今度は、二人のいきつけ料亭に連れて行ってほしいとお願いしながら喧嘩を止めるも、翔子は怒りが消化しきれないようだ。
「大体、周吾は一人で外食するじゃない。一緒に来るのがそもそも、悪いわ」
「俺のメイドが、俺と食べず。翔太郎と食べてどうするの」
「人を怒らすのが天才だな。椅子が固くて嫌なら、家で寝てろ」
「っ痛」
翔子が再び、男言葉になると周吾が急に痛み出す。翔子が、周吾の足を思いっきり蹴ったようだ。二人は親友のはずだが、些細な事で良く喧嘩をする。美春は、溜息をついてほっとく事にした。喧嘩を止めようと、再び喧嘩するなら、勝手にやってればいい。最終的に、お店の方に怒られて喧嘩は終わったが、周吾の発言に一々反応する翔子。親友ではなく、犬猿の仲の間違いでは、無いかと美春は思う。
「二人とも、お店の方に又怒られますよ」
「だって、周吾が元は悪いじゃない」
「俺は、正直にいってるだけ」
「はぁー。喧嘩するならデリバリーでピザや、お寿司を頼んだ方が良かったんじないですか」
美春の発言に、周吾が驚く。デリバリーを知らないのかと逆に驚くが、翔子が周吾を馬鹿にしたら違うらしい。今まで住んでいたアパートに、宅配してもらってたのが驚いてるようで何故、驚くのか尋ねれば。
「メイドの、家に入るものなのかと思った」
「何をですか」
「あんな狭い家に、ピザとか寿司を用意する道具」
美春と、翔子は疑問に思う。デリバリーは知ってるようだが、何故家に持ってきてもらうのに狭いといけないのか?それに、道具とは何なのか。疑問だらけで、二人で訳が分からないと尋ねれば。
「ピザを焼くのに、石釜が必要。狭いと置けない。そんな金は、有るように見えない」
「不破さん、私の言ってるデリバリーは庶民でも頼めます。出来た状態で、やって来ます」
「周吾って、本当に馬鹿ね」
それ以降、黙ったまま食べ続ける周吾。話すのが面倒になったのか、恥ずかしくて黙ったのか、両方なのか分からないが無言になった。全員が、食べ終わりお店を出て車に向かう途中。
『今度、メイドの言うデリバリーを頼んで』と、周吾の一言で美春と翔子は、噴出して笑ってしまった。
周吾のイメージが崩壊してきてるような・・・世間知らずの周吾さんでした。