兄弟喧嘩作戦?
あれから一晩が経ち、鼻血を出した事によって、美春は恥ずかしく部屋に閉じこもっていた。朝になっても部屋から出て来ない美春に、周真は部屋の外で何度も呼んだが、ほっといての言葉で話は終わる。
「駄目、美春ちゃん頑固として出て来てくれない」
兄さんのせいだと、周吾を責めるが兄である周吾は、別の意味で反省した。
「全室に内側だけ鍵を取り付けるんじゃなかった」
「そういう問題じゃないでしょ」
周真のツッコみなど、聞いていなく美春をどうやって部屋から出そうか悩む。周真は、天の岩戸伝説みたいに二人で笑って楽しんだら、気になって出て来るんじゃない?と適当に言う。すると、周真に対して笑えと命じ、渋っていれば早く笑えと美春の部屋の前で、腕組みをして足でトントン地面を叩きイラついた。
「兄さん、二人しかいないけど一緒に笑った方が・・・」
「俺が笑うと思うか?笑えば問題ない。笑え」
冗談で言った話を、真に受けてさっさと実行しろと命令する周吾に後悔する周真。昔はこんな人じゃなかったのに、美春の影響は絶大と周真は心の中で悟った。ははっと笑ってみるが、周吾に声が小さいと言われ思いっきり笑ってみせるが、笑う要素が無い状況で本心から笑えなかった。
「兄さん、ごめん無理」
もうギブアップと白旗という手を上げ、周真は退散してしまった。弟のいい加減な態度に、チッと舌打ちして美春をどうやって部屋から出そうか、考える。考えても分からないので、暫く出て来ないのなら放置する事に決め、周吾は自分の部屋に戻り寝る事にした。ベットに横になり、深い溜息を吐けば眉間に皺が寄って取れないのを、人差し指で押さえ伸ばしほぐし、目を瞑った。
浅い睡眠をして、美春が部屋から出たか確認する。ドアを開けようとすれば、ガチャガチャ音がするだけで、開かなかった。周吾はいい加減にしろと、半分怒りながらドアを叩くが返事がない。
「後でお仕置きと、今直ぐ出て来てお仕置きされるのどっちがいい」
しーんと静寂だけがあり、何も応答しない美春に対し周吾は、舌打ちして壊す勢いでドアをしつこく蹴った。
「もう、ほっといて下さい。私の羞恥心を少しは理解して下さいよ!」
それから、いくら叩こうが蹴ろうが何も反応がなく周吾は疲れてしまった。
――――――――
「兄さん何してるわけ?」
呆れた顔で、周吾の行動を見ている周真。
「諦めて好きなだけ独りにさせてあげなよ。女の子が鼻血出したらそりゃ、恥ずかしいって」
美春の部屋の前で、周真のメイドが用意したご飯を置き、団扇で扇いで匂いを美春に嗅がせ様としている周吾に情けなく感じた。美春の恥ずかしさなど、一ミリも理解しようとしない周吾に美春ちゃん可哀そうと泣く真似をする周真。そんな周真が腹立たしく、団扇を飛ばし見事、おでこに当たって痛がっている周真をざまぁみろと鼻で笑った。
凄く悔しがる周真は、投げられた団扇を手に取り、背中を向けている周吾に向って投げた。しかし、寸前の所で避けられ周吾に足を蹴られ、返り討ちされる。蹴られた拍子に、地面に尻餅してしまい周吾の足が容赦なく周真の腹に乗っていた。
「兄さん、痛い」
「誰に向かって投げたのかな」
ニコリ笑う周吾は、目が笑っていない。ニコニコ笑いながら、周真の腹を面白そうに踏みつける姿は、鬼畜に近い。
「兄さんが、悪いんだろ!っ痛・・・笑いながら踏みつけるなんて悪趣味だ」
「ん?悪い弟に、躾してるだけ。何がいけない?」
「もう、八つ当たりは懲り懲りだ。そんなんだから、美春ちゃんが閉じ篭もるんだよ」
「どの口が言ってる?ここ?こっち?これ?何処の口塞がれたい?」
目が笑っていない周吾に、周真は完全に怒らせてしまったと危機を感じる。昔から面倒くさがりだったが一度、本気で怒ったら容赦なくやる。徹底的に相手を負かすまで止めない、そんな性格をしていた事を美春の事で忘れていた周真だった。更に面倒くさがり屋の癖に、やたらと強く一度も勝てたことが無かった。このままいけば、確実に肋骨を数本折られそうで、受け身を取るのが精一杯だ。
だが、昔と違い周真だって学習能力はある。受け身を取りつつ、周吾を負かそうと様子を窺っていた。しかし、中々隙を見せないので、これ以上は無理と降参も込めて周吾にある物があると、ほのめかした。
「下らないものなら、即刻死刑」
「実の弟殺さないで。兄さんにとって、価値が有る筈だよ」
立ち上がって、体制を整えたらポケットから一枚の写真を取り出す。それを周吾に、恐る恐る差し出し顔を窺った。これは、確実に周吾の心を掴むことは間違いないと確信しているが、少し緊張してしまう。
「何処で手に入れた?」
「平良さん情報から、独自に入手しました」
偉い人に、献上するかのようなポーズを取る。周真の考え通り、一枚の写真で周吾は心を掴まれ、許すと怒りが失せたようだ。助かったと、そっと胸を撫で下ろしたのも束の間、周吾は別の意味で怒りを露わにする。
「兄さん?」
「先に見たのがムカつく」
「今さっき許すって言ったのは忘れたのかな・・・」
「それはそれ、これは別」
一枚の写真をひらひら泳がせ、再び目が笑っていない笑顔で周真に近付く。一歩一歩、後退していき背中が壁に当たった所で、周吾の足が周真の左横を真っ直ぐ壁に向って伸びる。魔の手が差し掛け様とした時、ガチャと音がしたのを周吾は聞き見逃さなかった。一瞬で、ドアの隙間から美春を引きずって自分の胸に寄せたのだった。周真と、美春は同時に何があったのか理解が出来ていなく、少しだけ時間が止まったかのような光景になる。
「やっと出て来た」
「あの、その、お二人が喧嘩してる声がして私・・・ごめんなさい」
冷静になったのと、二人の兄弟喧嘩らしき声がして気になって開けてみた結果がこれだった。たかが、鼻血如きで閉じ篭もるのもいけないと反省して、抱き締められた状態で謝る。事情の知らない美春は、理解していなかったが、周真は助かったと、何度もお礼を言って抱きつこうとした。最後は周吾の容赦ない鉄拳が、周真の顔に綺麗に当たり、ごめんなさいと謝る。
「周真君、大丈夫?」
「美春ちゃん、今は近付かないでね」
「?」
「そんな奴、心配する価値も無い。近付くな黴菌がうつる」
美春が近付けば、周真が被害を被るので、手でこれ以上近付かないでの意味を合図して、美春から遠ざかる。不思議に思う美春は、周吾に黴菌がうつると背中に隠されてしまった。弟可愛さの照れ隠し?で、自分が周真を取ったと勘違いしていると思い、更に美春は勘違いした。
兄弟喧嘩も程々にしましょうね、二人の気持ちも知らないで美春の呑気発言に周吾は溜息を吐き、周真はこれ以上八つ当たりされない事を祈るばかり。そして、盛大に美春のお腹の音が鳴り、又も恥ずかしい思いをする事になった。
今回、周吾さん黒いです。知っている方は、知っているけど当初の設定周吾は鬼畜野郎でした。そして、そんな周吾に付き合ってくれる周真君・・・ありがとう!美春さん・・・今度はお腹の音ごめんよ・・・。