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周吾の夜

すやすや寝てしまった周吾を無理やり起こすのが可哀そうで、暫く膝枕をして寝かしていた。もう、どれだけの時間が経ったのだろうか、空の色は薄っすら暗くなりかけてきている。この暑い季節暗くなるのも遅い、それが暗くなり掛けていると時間的に夜の七時前後だろうか。ずっと飲まず食わずでいた為美春の喉は乾き、お腹は小さい音からどんどん大きな激しい音に変わっていった。


涼しそうな顔で汗も流していない周吾だが、流石に起こした方が良いだろうと体を揺する。初めは優しく軽く揺する程度だったが、全く起きない。何回か声も掛け、強めに揺するがほんの少し反応するだけで眉間に皺を寄せる。美春の膝に埋める様に顔を動かすと、その動きで美春が『あっーく・・ぅぅ』と叫んだ。何事!?と思う程あまりに大きな声で叫んだので、その叫び声のお陰で周吾が目を覚ます。


「うるさい」

「しゅ、周吾さん」

「何泣いてるの」

「すみ、ません理由は後で話しますから早く退いて下さい」


理由が分からない周吾は、早く退いて尚且つ静かにと深刻な顔をする美春に不思議がる。とりあえず美春の言葉に従い、退けば直ぐに足をそっとさすり出すので深刻な顔をした理由が分かった。


「足痺れたんだ」

「うっー膝枕を長時間したら流石にやばいです・・・」


周吾が他にも何か言っていたが、足の痺れの方が重大で美春には聞こえなかった。次第に痺れが和らいできたので、揉みほぐし始める。漸く痛みが治まりほっとし、こんなにも痺れた感覚は初めての経験で後から笑いが出て止まらない。


「何笑ってるの?」

「だ、だって・・足が凄い痺れて・・凄いさ、けんで・・」


冷静になってきたら笑えてきてしょうがない。自分の大袈裟過ぎる大声に、足がどうにかなるのではないか数分前まで馬鹿な考えをしていた。それに周吾が冷静過ぎるから、余程大袈裟な態度をとっていたのだと頭の中で痺れ悶える自分を想像し、お馬鹿すぎる。散々笑い、久々に思いっきり笑った事でお腹がりそうになったのは内緒。


「時間も夜だろ早く立って帰るよ」

「あっはい」

「急いで、気を付けないと熊が出るんでしょ?」


その言葉に美春は一瞬動きを止めた。周吾が言っている熊とは多分動物の熊だろう、しかし田舎とはいえこの辺に熊は出没などしないうえ、此処の地域には生息していない。そんな事を看板に注意書きもしてないのに、何故周吾は熊と言うのか疑問だった。


「周吾さんこの地域に熊は出没どころか生息していませんよ」

「変なじいさんが言っていた」

「多分、亀三かめぞうさんです」


美春は亀三が、幼馴染の熊吉くまきちに昔ちょっと苛められた事をずっと六十年間根に持っていて嫌味を言う意味も含め、周吾のような知らない人間にいつも嘘を話すのだ。その度、熊は怖い熊は凶暴だと楽しんでいる亀三だった。名前も亀と熊、熊の方が強いイメージだと勝手に亀三はライバルとして対抗意識を燃やしている。結局何だかんだで仲良しな二人だが、熊吉の方がいつも大人の余裕で亀三は悔しがる。


「喧嘩するほど仲がいいか」

「そうですね何だかんだで亀三も熊吉さんの事好きみたいだし」


そんな話をしながら立ち上がり、帰る為歩き出そうとしたら左足がぐにゃり。痺れが治まったが感覚は麻痺していたようで、歩き出した瞬間思いっきり足の甲で地面を踏んだ。そのせいで足は骨が折れたのではないかと心配するほど、ぐきっとした音が一瞬聞こえる。派手に転んだのを目の前に見ていた周吾、突然の事だったので助ける事出来なかった。目を大きく開け、瞬きもしない周吾に美春は動く事も出来ずに手だけを周吾に向かって伸ばしていた。あまりの痛みに声も出ず、美春は必死に痛みが和らぐのを待つ。


「仕方ない」


必死に痛みが引くのを待つ美春だが、痛みは増すばかり。手だけは辛うじて何とか周吾に伸ばして、起こしてもらおうとしていたが周吾はそんな美春を面倒そうに見ていた。いや、美春だけが面倒そうに見えていただけだった。周吾が溜息を吐いて美春に近づけば、伸ばしていた手を掴むわけでもなく体を起き上がらせたと思えば、いきなり肩に担いでしまう。


「周吾さんこれって」

「米俵」

「米俵ではなくてですね担ぎ方と言いますか」

「米俵の担ぎでしょ」


ちょっとだけ美春はお姫様抱っこではないの?と実際されたら恥ずかしいが、残念に思う。周吾の親切心なんだろうけど、お腹が圧迫されて苦しい。降ろして欲しかったが、此処で暴れたら余計に足が痛むので、苦しさと足の痛み二重の痛みに我慢した。

(周吾さんごめんなさい。この担ぎ方有難迷惑です)


***


「周吾様、美春様」

「国枝どうしたその恰好」

「不破どうなってるの?」


航佑、田中、最後に刑事の平良が順に声を発して二人に駆け寄り、事情を聞いた田中は家に戻って足を冷やす物を準備しに走る。状況が呑み込めない平良は、情報を得ようと周吾に聞くが『何でいるの?』と冷たい一言で終わった。代わりに航佑が説明をしてくれたが、自分が何故呼ばれたのか全く関係ない事を知り項垂れた。そんな平良をほっといて三人は、田中の家に向かう。


「美春ちゃん足怪我したんだって!?」

「おばさん・・・」

「しかも新たなイケメンまで一緒じゃない」


足の心配より周吾の事が気になる田中母に空気読めよと、息子に言われ渋々美春の足の世話をする。イケメン好きのおばさんに苦笑しながら、足を冷やしてもらった。その日の夜、田舎に設備の整った大きな病院など無い事を知った周吾が帰ると言い出す。美春を東京の病院で診てもらう為、夜遅くなってでも帰ると我儘を言ったのだ。誰が何と言おうと帰るの一点張り美春が『今日は疲れました』と、明日帰る約束した事で漸く納得して田中家に世話になる事に。そして現在、用意された部屋でお世辞にも広い部屋とは言えない空間に男三人、暑苦しくいた。


「不破・・・俺なんかしたか」

「知らない仕事は?お前だけ帰れば・・むしろ狭いから帰って」

「酷くない?ねえ酷いよね?」

「私はいつでも周吾様の味方ですから」


平良の酷い仕打ちのされ様に問いかけられながらも航佑は、にこり周吾様の味方と平良の言葉を終わりにする。二人の何気ない言葉に、もう寝ると不貞寝した平良は全く寝ていなかったので直ぐに熟睡し始めた。


「狭い・・メイドがいない」

「我慢して下さい美春様の事反省していたのでしょう」

「少し」


やり過ぎた事は認めてもちょっと反省したと思う程度で、他人から言われると無性に認めたくない気持ちの周吾。先程の美春の感触を思い出し感じ、少しの間窓からの来る風に当たっていた。それでも、やはり美春の顔を一度見てからじゃないと落ち着いていられないのか、部屋を出て美春が寝ている場所へ。


軽く扉を叩いてみるが反応はなく、恐らく周吾と航佑以外は皆、寝ているだろう時間帯。そっと暗い部屋の中に美春を探し、近づく。すやすや呑気に眠っている美春に少しムッとしながら、やっと戻って来たと小さく起こさない様呟き頬に優しく口づける。


「これで我慢してやる」

ちょっとだけ反省していた周吾さん。そして今回もまた、美春さん周吾さんの行動に気付いていません。

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