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二人っきり

(何で周吾さんから逃げちゃうの)

そんな自分の行動に、理解が出来ず戸惑いを感じる。美春は心臓が破裂するのではないか?そのぐらい、周吾との突然の再開に驚いていた。折角、会いに行こうと決めていたはずだったのに、突然の事で逃げ出してしまった。きっと、あんな逃げ方をすれば怒ってるだろうし、自分が情けなく思う。


その頃、周吾は美春を追いかけていた。追いかけていたとは、少し違い走るのが面倒でのんびり歩いていた。そんな周吾に、航佑はじれったさを感じ走って下さい。そう、お願いするが言う事を聞かない。途中田中が現れ、車が邪魔だと航佑だけ引き返す。周吾に美春を叱らず、優しく、ちゃんと連れて帰って来るよう念入りに話す。聞いているのか分からないまま、航佑は渋々戻った。


「圏外・・・ありえない」


現在の位置情報を確認しようと、携帯を見れば圏外の場所に来てしまったようだ。周吾は最悪と、呟き一旦引き返す事にした。闇雲に探すよりかは、来た道を戻った方が賢明だと思ったからだ。だが、来た道を戻っているはずが見た事も無い場所に、いる気がしてきた。周りは似たような景色、周吾は完全に迷子になってしまった。もう一度、携帯を見るが圏外のままで、周りには誰もいない。どうしたものか、途方に暮れかかっていた時。


「他所の人かい?もしかして迷子に」

「・・・いや、散歩で休憩中だ気にするな」

「そうかぁ、熊が出没するから気つけな」


ははっと笑いながら去っていく、おじいさん。周吾は、迷子と言われた事が無性に嫌でつい、散歩等と嘘を言ってしまった。二十九の自分が迷子と言われるのも、思うのも信じたくなかったからだ。携帯は圏外、このままじっとしていても埒が明かない。来た道を戻ろうとしていたが、現状そうもいかないので圏外脱出の為、適当に歩き出す。一応、さっきのおじいさんの言葉に気を付けながら。


「たっぷりお仕置きしてやる」


美春を探しつつ、圏外脱出をこころみる。


◇◇◇


「周吾さん達どうしてるかな怒って帰った・・よね?」


未だうじうじ溜息を吐きながら、周吾達の事を考えて体操座りしながら、林の中にいた。ふと自分の手を見つめる美春、小さい指輪に違和感が無くて返すのを忘れていた。ピンキーリングを周吾の家から出て気付き、なんとなく外す事が出来なかった。指輪も返さなくてはいけない、だから一度は会わないといけないのに、あんな逃げ方ししまったら怖くなる。本当は愛想尽かしていたとか、美春を探していたのは指輪を返せと怒ってたのかもしれないなど。住む世界が違うと、自分から周吾達と離れたのに周吾に嫌われてしまったのではないか気になってしまう。矛盾しているのが分かってるのに、周吾が気になり気持ちが乱れて段々周吾に対して臆病になる。怒って嫌われて帰ったと思ったら、涙が滲んできた。勝手な想像なのに、想像したら涙が流れるなど身勝手な証拠。余計に落ち込んでしまう。誰も見ていないと思い、汚く鼻を啜ると後ろから声がする。


「ちっ何で圏外のまま。ここ何処?メイドもいな・・・いた」

「っ!・・・どうして」

「メイドの分際で面倒な事させるな」

「ご、ごめんなさい。今はまだ話せません」


ごめんなさいと、再び叫び逃げる美春に周吾は今度は逃がさない。そう小さく言葉にし、同じように走る。田舎育ちで、足腰鍛えられてる美春でも流石に成人男性には敵わない。あっという間に掴まってしまった。


「離してください」

「嫌」

「い、嫌でもお願いですまだ、心の準備が」

「何の準備?十分待ったこれ以上は待たない」


逃がすものかと、後ろから抱き締め美春を拘束する。拘束される事により美春も抵抗して暴れ、周吾の足を思いっきり踏んでしまう。その拍子に周吾から逃げる事が出来、慌てて林の奥に逃げ込んだ。思いのほか、足が痛く動けなかった周吾は美春を目で追う。林の中に隠れられては探しようがない、だから周吾は本気の本気で走り美春を追いかけた。足元が危なっかしいが美春より周吾の方が当たり前に足が速いので、簡単に捕まえる事が出来た。最初は抵抗していた美春も周吾が静かに黙って抱き締め、呼吸の音だけを聞いていたら段々と、大人しくなっていく。


「ごめんなさい」

「それは何に謝ってるのあの男と一緒にいた事?」

「えっと紙切れ一枚でお別れした事と足踏んでしまった事。あと指輪返すの忘れてました」

「出て行く事許可してないし足は大目に見る。指輪はメイドの物でしょ」

「私のじゃ・・・周吾さんと私じゃ住む世界が違います」


優しく話すので怒っているのかが分からない。兎に角周吾に指輪を返そうと、小指にはめていた指輪を外そうとした。だが、周吾がそれを止める。


「ねぇ言ったよね外したらお仕置きだって」

「それは・・・」

「お仕置きされたいって事?」

「違います!や、やめて下さい耳元で話さないでくすぐっったい」


くすくす笑う周吾に又からかわれた。美春がちょっとだけ怒ると、周吾によってお互い向き合う形になった。周吾の胸に顔を寄せられ今度は抱き合う形になる。


「俺がお金持ってるから嫌なの?」


抱き合う形になり少し黙っていた周吾が口にする。二人の住む世界がどう違うのかを理由を聞くが、美春は違うと答える。実は住む世界が違うと思ったが、どう答えれば良いのか美春自身分かっていなかった。住む世界とは何なのか?お金を持っているか持っていないか?それとも周吾自身が一般常識じゃ通用しないからなのか?改めて思うと美春が理由を理解していなかった事に気付く。


「俺がもし・・全部いや何でもない」


続きを言わなかった事に少し気になったが、美春もそれ以上聞こうとはしなかった。


「周吾さん、ごめんなさい」

「ん・・さっきも聞いた。何回も謝る必要はない」

「だって沢山迷惑かけてしまいました」

「あの男は迷惑まさかとは思うけど恋人言ったら相手殺すよ」

「違います!・・・ひゃ、あはは・・い・や止めて下さい」


突如美春の横腹をくすぐり始めた。くすぐったくて大笑いするが、中々その手を止めてくれない。しつこい程くすぐるものだから、感覚が麻痺してしまい笑い過ぎて力が入らない。


「しゅう・・ごさん笑い過ぎて力が」

「お仕置き」

「あの・・さっぱり意味が」

「俺から逃げてあの男といた。でも指輪外してなかったからこれで我慢する」


本当はたっぷりお仕置きしたかったけどと、考えたくもない言葉を口にする。恐ろしいお仕置きをされなくて良かったと、外さなくて良かったと力尽きて美春は地面に膝をつく。美春の目線と同じにする為、周吾は屈むと美春の顔を覗きこんだ。


「もう満足でしょ早く帰るよ」

「何処に?」

「決まってる俺達の家」


美春の左手をしっかり握り進もうとする。暫く進み、立ち止まった周吾に不思議そうに尋ねる。


「道・・疲れたからメイドが案内して命令」

「道案内ですか?それならこの道を・・・って周吾さん!?」


急に美春の背中にもたれる周吾に、又からかわれていると周吾を思いっきり突き飛ばす。しかし周吾の腕が強く抱き締められると思ったら、簡単に周吾は地面に倒れる。


「えっ!なんで?ちょっと、しっかりして下さい」


慌てて周吾の傍に寄るがぐったりしている。まさか打ち所が悪かったのではないか、美春は心配してあちこち周吾の体を確認した。血は出ていなかったが、内出血していたら怖い。携帯で救急車呼ぼうにも、圏外のままだった為、周吾を残し圏内の場所まで移動しようとした。


「うるさい。何とも無いから、少し寝かせて」

「周吾さん!?本当に大丈夫ですか痛い所は」

「・・・」

「しゅう・・ご・・さん?寝て、る」


良く耳を澄ませば寝息が聞こえ、顔色も決して悪いわけでは無かったので美春は安心する。


「周吾さんお休みなさい。そして、ありがとうございます」


寝てしまった周吾に伝わる事はないが、迎えに来てくれた事に感謝する。ちょっと、幼く感じる寝顔に美春は温かい気持ちになった。

周吾さんと美春さんの二人っきり。絡めているでしょうか・・・

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