家出3
あれから一週間。美春は、ずるずると田中の家に居候をしていた。田中に泊めてもらった日、翌日には田舎に帰る予定だったが、親しい同級生だったとはいえ、少し心配で中々眠れずにいた。漸く眠れた頃には、朝方になっていて、目が覚めた時には夕方近くになっていた。慌てて家を出ようとしたが、田中は外出中。古い家だが、勝手に出て行く事も出来ずに、美春は田中を待った。結局、帰ってきた時間帯が遅かったので、美春は再び泊めてもらい過ごす。一週間の内半分を、同じような事で過ごしたら申し訳なくなってしまった。なので、お礼も兼ねて家の掃除やご飯の準備を率先した。
「国枝、悪いな」
「私の方こそ、泊めてくれてありがとう」
「おお、何時までも居て良いからな」
「だいちゃん、ありがとう・・でも明日田舎に帰るよ」
自己満足だったが、田中にも少しはお礼が出来た。思わぬ予定だったが、このままだと田舎に戻る気持ちが薄れてしまう。
「帰るって・・・いや、もう少し居ても」
「甘やかさないでね。決めた事なの」
寝るねと、一言いい、美春は無理やり布団に入り、目をつぶった。そんな中、田中だけが慌てている。そして、まだ眠っていない美春に話しかけ何処かに出て行った。
◇◇◇
「お前ら、揃いも揃って何やってんの」
「申し訳ありません」
「一週間・・・一週間だ。あいつがいなくなって」
周吾は歯痒い気持ちで御剣兄弟に、八つ当たりをしてしまう。あれから一週間経ち今は、周吾の実家にいる。周吾は美春の情報を何も掴めていなかった。掴めなかったと言うより翔子の邪魔で、情報が回ってこないのだ。そんな事も知らず周吾は御剣兄弟の他に実家にて、父親に仕えている使用人も巻き込んでいた。しかし、父親である周大に文句を言われ今は御剣兄弟だけ、美春探しに協力している。
「周吾様、一つ気になる事があります」
「あいつの事以外は聞きたくない」
「美春様の情報が全く掴めないのがそもそも可笑しくありませんか?」
「確かに少々変ですね。不破家の情報網を使って何も収穫が無いのは変です」
周吾の秘書で双子の弟航佑が、疑問に思った事を口にする。兄の航平も続いて口にする。
「誰かが邪魔しているって事か」
「可能性は大きいです」
航佑が周吾の言葉に返事をする。
「一人しかいない。翔太郎だ」
「堀影様がですか?何故その様な事を」
「面白がっているんだろう」
次に航平が口にして周吾は、屈辱だと独り言をいう。一人用のソファに座り溜息を吐き、疲れた様子の周吾に御剣兄弟は心配をした。今夜は泊るだけを伝え二人を部屋から出す。独りになって眠ろうとするが眠れない。周吾は美春がいない一週間、ほとんど寝ていなかった。美春と出会うまで睡眠不足だろうと、ご飯を一日食べなくても平気だった周吾。だが、美春を半ば無理矢理お仕置きという理由で抱き枕をし、たった一回一緒に寝ただけなのに周吾は深く眠れたのだ。体が嫌でも美春を恋しがっている。いやらしい意味ではないにしろ、周吾の身体は限界にきていた。
◇◇◇
「不味いですよ」
「何が不味いのよ」
「あいつです。国枝田舎に明日の朝帰るって」
「まあ一週間が限界よね」
あれから田中は外に出て翔子に連絡を取った。今は何処にでもあるファミレスで二人は話していた。翔子の呑気な発言に田中は、苛立っている。何故そんなに苛立っているかは、翔子によって嘘の情報を植え付けられていたからだ。
「国枝が変な男に掴まるかもしれないから俺の所で身を潜めてるんですよ」
「あら、そうだったわね」
「あーっ田舎に帰ったら待ち伏せされて誘拐されるかもしれないんです」
「もしかして田中君は美春ちゃんの事好きなの?」
ニヤニヤ顔で翔子は田中を見る。そんな翔子が面白がっているのにも関わらず田中は、真面目に話す。正に熱血男に近いと翔子は途中で、つまらないと独り言をこぼしていた。
「好きです高校三年間ずっと一緒だったんです。嫌いなわけないじゃないですか!」
「それって・・・ちなみに恋愛感情は」
「ない!」
「そっ、そうなの・・・」
即答する田中に翔子は拍子抜けした。周吾との三角関係になるのではないかと、期待していたが友情のような感情しかない田中に落胆。田中が熱心に美春の心配をしているが実際、周りから見れば美春は家出してるだけで変な男に狙われてはいない。周吾に気に入られてしまった事は事実だが。時間は経ってしまってるがそろそろ、周吾も気付くに違いない。此処で実は全部ウソと告白してもつまらない翔子は、何か楽しくならないかを考える。
「・・・そうだわ!美春ちゃんが帰るなら田中君も一緒に帰ったら?」
「俺も田舎に帰れと?」
「一時的にね。美春ちゃんの護衛も兼ねて里帰りしてみたら」
「親にも一度顔見せろって言われてますが・・・」
「じゃあ決まりね早速準備しなくちゃ」
何を考えているのかわからない田中に、翔子は鼻歌を歌ってる。準備とは何だ?と尋ねても、秘密しか言われない。やたら楽しくしている翔子に田中は怪訝な顔をする。取り合えず翔子に言われたように、自分も実家に帰る事に決めた。
翌日美春は予定通り田舎に帰る為、早起きしていた。しかし、同じように田中も早起きして準備している事に驚く。
「だいちゃん何しているの?」
「俺も実家に帰るから」
「えっと・・・何で?」
「親に一回顔見せろ言われてんだ。俺もついでに行く」
「そうなんだ」
まだ納得していない美春を田中は、バイクで行くから乗せて行ってやると言う。初めは断るが電車賃浮くだろと、今の美春は金銭面に厳しい状況。誘惑に負けてしまい田中のバイクで帰る事にした。全ての準備を終え、二人はバイクに乗るところだった。
「周吾様もう少しで到着します」
「・・・」
秘書の航佑が周吾に伝えるが、周吾はずっと外の景色を眺めている。昨晩の内に、翔子に電話をして美春の居所を聞いた。やっと会えると、内心浮かれていたが一瞬で終わる。
「あれ美春様でしょうか?誰かと一緒のようですね」
「誰?」
「男性のようですが・・・」
周吾達が少し離れた所から見ていたのは、丁度美春達がバイクに乗るところだった。挙句、美春が田中に抱き上げられてバイクに乗る瞬間。田中もバイクに跨り、その後ろで抱きつく美春に周吾はイライラする。ほんの数十秒の違いで、美春達は去って行ってしまう。周吾は何も出来ず見ていた。
「周吾様・・・」
「追え絶対に見失うな」
「承知しました」
航佑に二人の後を追わせ、周吾は何処かに電話を掛ける。掛けた相手はこの間から巻き込んでいる刑事だった。刑事に『今から来い。携帯に位置情報を送る』それだけ伝え、勝手に切ってしまう。勿論刑事は訳が分からないので、無視する。しかし、一分おきに周吾の位置情報を知らせるメールが来る。
「ったく・・俺の貴重な休みをどうしてくれる」
刑事は下着姿だけで寝ていたのを、適当に着替え仕度する。この男、周吾の幼馴染で平良浩二は貴重な休みを、周吾によって無駄に終わる羽目になった。
家出2から更新が遅くなりました。田中君、お人好し過ぎます。そして、刑事さんも周吾さんに色々振り回されてます。