家出2
「はぁ、はぁ、もう何で追いかけて来るの」
「おい、国枝美春!待てよ。逃げるな」
狭い道を通り、少しでも時間稼ぎしようと逃げていたので掴まっていない。しかし、あの時の怖いおじさん達とは違い、今回は声を聞く限り若い男。やはり若い男だからか、体力は有り余っている。一向に逃げ切れない。
「何で、いつまでも追いかけて来るの!?」
「国枝美春!逃げるな。勘違いしてんじゃねーよ」
曲がり角を行った先には、行き止まり。ついに男に腕を掴まってしまい、最後の悪足掻きに鞄を振り回した。声が潰れるのではないか、最大の大声を出す。
「いやぁぁぁ。近寄らないで、私はお金なんて借りてない。ナンパもお断りです!」
「お、おい。静かにしろよ。俺だって俺」
「俺、俺って、オレオレ詐欺には引っ掛からないんですからね」
「ちっげーよ俺、田中大。鈴垣高校で三年間クラスが一緒だった」
あまりにも騒ぎ近所迷惑のうえ、人に勘違いされては困ると、美春の口を押え羽交い絞めにする。第三者から見れば、こっちの方が勘違いするだろう。
「んっっ、んっー!」
「田中大。思い出した?」
うん。と、出来る限り首を何度も縦に頷く。田中は慌てて羽交い絞めにして、口を押えたものだから鼻も、さり気無く塞いでるとは気付かなかった。何度も美春が、首を縦に頷き漸く離してくれる。
「はっー。く、苦しかった」
「あっ、悪い。でも、お前も勘違いして逃げるから」
「ごめんね。てっきり、変な人かと・・・だいちゃん、なんだよね?」
「おー。って、俺は大だ。だいちゃんじゃねーよ」
さっきまでの大騒ぎは何だったのか、二人は和やかな雰囲気になった。
◇◇◇
一方で周吾の方は刑事に、あっちこっち指示して車で美春の事を探していた。携帯で、情報が送られて来る様で美春の行った所を、一歩遅れて追いかけていた。その度、見つけられないと刑事に八つ当たりをする。
「なあ、八つ当たり止めてくれない」
「ちっ・・情報が遅い。人工衛星でも乗っ取って・・」
「いやいや、それ犯罪だから。不破なら実行しそうで、怖いから止めて」
「だったら、今何処にいるか先回りしてメイド見つけろ」
「普通に無理だから」
使えない奴。と、刑事に再び運転させイライラする周吾。結果、どれも美春が去って行った後だった。最後に古びた公園で情報が途切れてしまい、余計に周吾をイラつかせた。きっと、細い道を使って走って逃げてしまった為に情報が途切れたのだろう。
◇◇◇
「国枝は、何であんな所にいたわけ?」
「えーっと色々あって家無しなの」
「は?家無しって、お前ホームレスだったのか?」
哀れむ顔で、田中は美春を見下ろす。そんなんじゃない事を、ちゃんと説明して今迄の経緯を話した。そして、田舎にでも帰ろうかと思っていたところだと。周吾の事は黙って。
「ふーん。内定取り消し、家追い出され、闇金に追いかけられる。ドラマみたいだな」
「笑い事じゃない」
「悪い悪い。じゃ、暫くは俺の家に泊まれよ。折角、田舎から出て来て勿体ない」
「でも・・・」
如何わしい事なんてしないと、約束してくれる。酷い事をする人間ではない事は、美春だって知っている。しかし、数日お世話になるのも気が引けてしまい、一晩だけお願いした。翌日になれば、田舎に戻ろうと決めて。何だかんだで、田中の世話になる事になった美春。結局、自分は人に迷惑を掛けるしか無いんだと、改めて思った。田中の家に一晩世話になると決まり、美春を自分の家に案内する田中。
「でも、だいちゃん雰囲気変わったね」
「そりゃあ俺だって、いつまでも田舎臭い格好は恥ずかしいだろ」
高校時代の時は、髪が短かった田中。東京に来てからは、髪を伸ばし始めたようで少し長めの髪を、後ろに流す様な感じになっていた。お互い高校時代の話に盛り上がり、さっきまでいた古びた公園に戻って来る。たまたま、美春が公園にいたのを田中が見つけた。バイクから降りて、夜の古びた公園にいるのは危ないと忠告しようとしてくれたらしい。しかし美春が逃げるものだから、バイクを置いて追いかけた羽目になった。勘違いした事に、素直に謝り田中からヘルメットを受け取った。
「まさか、これに乗るの?」
「これ言うな。此処から少し離れてるから歩いては無理」
「二人乗りしていいの?それに、無免許じゃ・・ないよね?」
たまに無免許の人もいると聞いた事があった。なので、半分だけ疑ってしまう美春に田中は免許証を出して証明をする。
「二人乗り大丈夫だから。ほらっ!免許証」
「本当だ。しかも、大型取得とは凄いね」
「まぁな。このバイクは普通自動二輪用のバイクだけどな」
「言われても分からないよ。とにかく安全運転でお願いします」
おー。田中が返事をして、美春がヘルメットを被るが、微妙だった事に田中から指摘されつつ、後ろに乗ろうとした。しかし、乗ろうとしただけで乗ろうとしない。
「早く乗れよ」
「だいちゃん私ね・・・」
「何だよ」
「どうやって乗るのかわからない」
初めて乗るものだから、どうやって乗れば良いのか分からない。それに身長が高いわけでも無いので、微妙に一人で乗るのにも苦労しそうだ。
「・・・わるい。お前、背が低かったな」
「今、小馬鹿にしたよね。低いからじゃないんだよ!初めて乗るから分からないだけ」
「あー、そうだな。うん・・初めてだからな」
「絶対思ってないよね?だいちゃん、酷い」
拗ねた美春に、ぷっと噴出して謝った後。田中は美春の脇に、手を入れる。
「何するの!変態だいちゃん」
「ば、馬鹿。俺はお前が乗れない言うから乗せてやろうと」
「え・・そうだったの?ごめんね、私勘違いして」
今度は美春が謝り、大人しく田中にバイクの後ろへ乗せてもらった。このままバイクが動くと思ったら、凄く怖くて降りると叫ぶ美春だった。腕を巻き付けろと田中の、お腹に抱きつく様にぎゅっとした。あまりにも、締め付けるので田中は『ぐえっー』苦しいと訴える。どうにか加減を知って、漸くバイクが動き出した。
暫く走って田中の家に辿り着いた。バイクから降りて、美春が思った第一印象。
「これ家なの?」
「今にも潰れそうだけど、家。此処しか借りれなかったんだよ!」
「なんで?」
「普通聞くか?」
知らない他人なら聞かないが、同級生の田中なら親しい気持ちもあり当然普通に聞いた。しかし、田中は何も言わない。仕方ないので、部屋に案内してもらう事にする。中に入れば、それなりに物が揃えられ暮らせそうな感じで安心する美春。部屋もボロボロ過ぎて、人が住めない状態だったらと考えてしまっていた。
「中は普通なんだね。でも、どうしてギターが沢山あるの?」
「バンドやってる。全然、人気ないけどな」
「もしかして、ギターばっか買ってお金ないとか?」
冗談で言ったはずだったが、どうやら当たってしまったようだ。美春の言葉に、田中は渋い顔をして項垂れてしまった。慌てて美春が、自分の方が家も無いのだから羨ましいと気を使う。
「気なんて使うな。実際、バイクも買って無駄使いしてるからな」
「お互い大変だね」
◇◇◇
「翔太郎様、美春様の居所がわかりました」
「何処にいた?」
「どうやら偶然、御友人にお会いしたようで。今は御友人宅にお世話になっています」
「友人・・・身元は調べたのか」
「田中大十八才。今はアルバイト生活しながら、無名のバンドでギター担当をしています」
美春とは同じ高校。それなりの親しさだった事、細かく報告している女性は翔太郎。いや、周吾の親友でもあり美春が良く知っている翔子の秘書だった。此処は会社、翔子は会社にいる時だけはずっと男言葉。そして、名前も本名で呼ばれている。周吾が、中々見つけられない状態でイライラしてる時。翔子はすでに、美春を見つけていた。周吾の美春探しを、邪魔していたのは実は翔子だった事は内緒だ。
「翔太郎様、意地悪ですね」
「だって、面白いじゃない。周吾の焦った顔が面白いわ」
「まだ、会社ですよ。言葉には気を付けて下さい」
「ちょっとぐらい、良いじゃない。ケチな秘書ね」
家出中は、交互に美春や周吾、翔子(翔太郎)の話をしてきます。紛らわしくて、すみません。




