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食事と客

思いっきり叫んだ事で、お腹の音がぐーっとなる。

勿論、音を鳴らした張本人は美春だった。時計を見れば、買い物を色々したが一括払いで直ぐに終わってしまった為。家を出てからは、それ程時間が経っていないが、昼過ぎに出掛けて昼食を食べていなかった。美春のお腹が、我慢出来ずに知らせてくれた。


「周吾さんキスは無かった事にするので、何か食べませんか?」

「昼食忘れてた。でも、キスは無かった事にしたら許さない」


本当に食べる事を忘れていたようで、周吾のお腹は何とも無いのか美春は驚く。挙句、キスした事を無かった事にして、許してあげようとしたら、無かった事にするのは許さないと逆に怒られる。聞かなかったことにして、何か食べようと話しかけた。


「お腹空きました。何か食べましょう」

「・・・俺が決める」

「お任せします」


高いお店は避けて欲しいと、心の中で祈った。それでもお昼を食べれると、お腹を満たせれる事が出来ると、美春は喜んだ。ちょっとだけ車を走らせると、予想していたのが的中。明らかに自分が入れるような、お店では無かった。物凄く高そうな、イタリアンのお店だ。


何となく、店の中に入る客を観察すると、立派な服装でちゃんとした格好だ。

周吾のおかげで、身に着けている物は恥ずかしくないだろう。だが、美春のような一般人が入ったらバレて、美春だけ追い出されないか心配だ。


店の中に入る前に、店員が一人外に立っていた。周吾の顔を見て、直ぐに頭を下げてドアを開けてくれた。一緒にいた美春に対しても、物凄い低姿勢で頭を下げ恐縮してしまう。周吾達が入る前に数人、入って行くのを見たが、美春のような明らかに一般人は断られて、中に入れさせてもらえてなかった。身なりの良い人でさえ、会員カード?か何か証明する物を提示して、漸く中に入って行った。


周吾の場合顔パスなのか、何も言わず中に入って行く。益々、周吾はどんな人物なのか気になってしまう。中に通してもらうと、他の人達と一緒の場所とは違い、奥の個室に通された。持っていた鞄は、店員の人が預かってくれて、椅子を引いてくれると直ぐに個室から出て行った。出て行く時にメニュー表を貰ったが、日本語では無かったので読めない。


周吾にお任せでお願いする。メニュ表も見ないで店員に、コース料理と注文していた。お昼にイタリアンの、コース料理など贅沢な気がする。自分達だけ個室なので、これならマナーを知らなくても大丈夫かもしれないと、美春はほっとした。だからといって、多少はマナーを理解をしないといけないので、じっと周吾を観察する。なるべく出来る限り、周吾の真似をしようとした。


「そんなに見つめて、キスして欲しいの」

「ち・が・い・ま・す。こんな所、初めてだからマナーとか知らなくて」

「マナーなんて気にしなくても、好きなように食べればいい」

「でも・・・」


周吾はマナーを知っているだろうから、そんな事言えるのだ。恥を掻くのは美春であって、周吾ではない。もしかしたら、一緒にいる周吾でさえ恥を掻くかもしれないのだ。個室でも、何処で誰が見ているか分からない。ムッとした態度で、周吾を睨んだ。


「なら、俺の膝の上で食べさせてあげる」

「丁重にお断りさせていただきます」


自分の膝をポンと叩き、こっちにおいでと、手招きする。周吾のいい加減な態度に、マナーが守れなくても知らないと、開き直る事にする。暫く待てば、店員が前菜などを運んでくる。パスタ主菜と、次々にタイミング良く運んで出してくれた。とても、美味しく頂けたが店員が来る度に緊張して、やはり気になってしまうので、気付かれない様に周吾の仕草を、見様見真似した。


しかし途中で明らかに、これは違うでしょ。と、ちゃんとしたマナーでは無い事は素人でも分かった。気付いた時には、周吾が目の前で笑いを堪えていた。そんなに表情には出ていないが、絶対笑いを我慢している。からかわれた事には、少しショックだったが、忘れるような美味しい料理を食べた事によってお腹が満たされ、幸せな気持ちの方が大きかった。


「凄く美味しかったです」

「気に入ったんなら、又一緒に来ればいい」

「有り難いですが、私には気疲れしちゃいます」

「個室なら問題ない」


そう周吾が言った後、店員を呼び出しカード差し出して会計を済ます。こんな高い所の支払いなど、無理な話だが、奢ってもらうのが申し訳ない気持ちでいっぱいだ。


「周吾さん、こんな高いお店ご馳走様でした。高かったですよね・・・」

「俺がメイド一人も奢れないほどお金に困って見える?」

「いえ。でも今日だけで、いっぱいお金使わせちゃっって」

「気にしなくていい。お金持ってる人間には、使わせればいい」


何処かで聞いたような発言。誰だったかまでは、思い出せない美春だが、お金持ちの考え方は一般人には理解し難い部分が多い。周吾は、ウジウジいつまでも話している美春をほっといて、置いて行ってしまった。慌ててその後を追いかけるが、慣れない靴で小走りした結果。思いっきり、お店の中で転んでしまう。挙句、転んだ場所が他のお客もいる場所だった為、皆の注目の的になってしたった。


周りから、こそこそ聞こえる声。

『あんな貧乏そうな子、なんでこんな場所にいるの?』『あんな安っぽい服装で場違いだ』それぞれ聞こえてくる、声に美春は恥ずかしくて悲しかった。泣きそうになりながら、歯を食いしばって手も、爪で傷つくぐらいまで握りしめた。ずっと座っていられないし、周吾に置いて行かれるのも嫌なので早々に、立とうとしたが誰かに抱き締められ、動けなくなる。誰?と、言わなくても直ぐに分かった。昨日の夜、抱き締められた感覚が覚えている。


「慌てすぎ」

「周吾さん、ごめんなさい」

「なんで謝るの。手も傷つくから止めなさい」


周吾に恥を掻かせてしまったのもあり、謝ろうと口にした事によって我慢していた涙が出てきてしまう。手もきつく握りしめていて、うっすら血が滲んでしまっているのに気付かなかった。


「今、暴言吐いたやつ出入り禁止。今直ぐ追い出して」

「今直ぐにですか?・・・」

「そう。それとも、君が代わりにクビになって出て行く?」

「申し訳ありません。直ぐに」


周吾の命令通り、美春に対して発言した者は、食事中であろうと何であろうと追い出された。自分達が何故、追い出されなければいけないのか理解できないのか、周吾の前に来て反論する。


「ちょっと、何様のつもり!私達を追い出して」

「そうだ!君みたいな若造が偉そうに」

二人の、男女が物凄く怒っている。一緒にいる、家族は、夫や妻の行動にたじたじだった。


「あなた方は、この店に相応しくない」

「そんな事あなたが決める事じゃないわ」

「あーそうだ。此処のオーナーが言うなら素直に出て行ってやる」

「では、お引き取りを。二度とこの店に来ない様に」


『さあ、どうぞ』笑顔で、外に続くドアの方を見る。何言ってるんだ?と、周吾に怒っていた二人が、意味が分からないと唖然としている。周吾も説明する気が無いようで、代わりにお店の責任者らしき人が代弁してくれた。


「こちらが、オーナーの不破周吾様でございます」

「えっ!?」

「お前みたいな若僧が?」

二人は周吾がオーナーと知って、かなり驚いている。勿論、美春だってそうだ。


「あなた方は、本当に見る目がない。それに、俺のものを侮辱した」

「どういう意味なの?」

「先程この服装に対し、安物の服と言った。これだけで、見る目が無い」

「そんな小娘が着る服、安物だ」


男が、周吾の見立てた物を安物と言う。美春は、価値など分からないので誰かが安物と言えばそうなんだろうと思うが、周吾の選んだ物は、確実に想像以上の金額なはずだ。


「確かに俺にとっては安物だ。だが、あなた方の着ている服こそ、これより安物だ」

「なに?これは、有名なブランド物でオーダーメイドの一点物だ」

「私の服だって、有名なデザイナーが作ったものよ」

「はっ・・・偽者とも分からない奴に、この店の味が分かるか」


本物そっくりに作られた偽者だと、周吾は言う。二人は、信じられるはずも無く騒いでいたが、周吾の細かい本物と、偽者の説明をされて黙り込んでしまった。その場を出て行こうとしないので、強制的に店の者に外に連れて行かれる。店の責任者は、他の客に謝り何事も無かったかのように、その場は終わった。

周吾さん、お客さんになんて態度(笑)

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