第一章 一節 英雄召喚?
その日、燃えさかる炎の中・・・・・・
信じていたモノが次々に失われていった・・・・・・
鳴りやまぬ喧躁、天をも焦がす業火のうねり・・・・・・
何処かで泣き叫んでいる子供の声が聞こえる・・・・・・
その声は世界に響き悲しみに満ちていた・・・・・・
大地は見る間に炎に飲み込まれ空も紅く染め上げられ・・・・・・
今にも焼け落ちてくるように見えた・・・・・・
様々なモノが焼け崩れ滅び死んでいく・・・・・・
時が過ぎるにつれ生者の苦行の声は死者の沈黙へ・・・・・・
ただ静かに・・・・・・終りに向かう・・・・・・
今・・・世界が終焉を迎える・・・・・・
そこで眼が覚めた、視界に映るものは何も無くただ暗闇だけが眼前に広がっていた。
「・・・夢・・・・・・っ!」
そして眼が覚めると同時に身体中に痛みが走る、身体を動かそうとすれば痛みは強まり声が漏れる。怪我をしているせいで身体の自由がきかないと思ったがどうやらそれだけではないらしい・・・。
「なんだ・・・・・・これ?」
暗くて形状はわからなかったが、重く冷たい何かが手首と足首に取り付けられていた。 少年は自由のきかない両手を支えにゆっくりと立上がった、とりあえず自分の置かれた状況を確認する・・・・・・五体満足で生きている事だけは確かだった。
(暗くて何も見えない・・・・・・けど、手当はされてるみたいだし命までは取られるような場所じゃないって考えて良さそうだな)
少年は手の伝わる包帯の感触を確かめながら暗闇の中で周りを見る。ここが何処知ることはできなかったが人の気配を感じ声を掛けてみることにした。
「誰かいるんだろ? ここは何処なんだ」
少年は返事が返ってくるのを持ったが返ってくる事はなく、その代わりのように少年の眼に眩い光が飛び込んでくる。
「っ?」
少年は思わず眼を閉じた、暗闇に慣れきっていた眼が光に慣れるのを待ちながら開く。「起きたか」
少年の前に立っていたのは鎧に身を包んだ兵士だった、ランタンのようなものを手にしておりその光が少年とその周りを照らしていた。少年と兵士の間には鉄で出来た棒が幾つも並びそれは石の天井と床に深々と埋め込まれていた・・・・・・つまり少年がいるのは牢屋だった。
「質問して良いか?」
「駄目だ、今からお前を連れて行かなければならないのだ」
「連れて行く?」
何処にと聞きたかったが質問は受け付けないと聞いたばかりだ、今は大人しく従った方が良いだろう。
兵士は牢屋の鍵を外しゆっくりと鉄格子の扉を開ける。
「出ろ」
少年は頷き足を進めるが途中で止まる、足枷には鎖が付いておりその先には大きな鉄球が付けられてい。大きさにすれば1メートルはあるだろうか・・・試しに動いてみるが重量があり亀と同じ様な速度で動くことしかできなかった。
「こんな重いのが付いてたら思うように歩けない、外してくれないか?」
こんな身体に重りを付けられては動く事もままならない・・・・・・。
「・・・・・・本当に歩けないのか?」
兜を被っているため兵士の表情はわからないが何処か疑っているような声だった、怪我をしている人間がこんな重い物を引きずって歩くことなど出来るはずがないのは見ればわかると思うのだが・・・。
「ちっ・・・」
兵士は苛つきを隠そうともせず舌打ちをしながら少年に歩み寄り両手の手錠と両足の足枷の鍵を外した。
「ふぅ・・・」
少年はほっとしたように息を吐く。こんなものを付けられていては動くこともままならない、眼を凝らしても何も見えないのでは不安しかなかった。少年は自分の両手を掲げ指を見た。
右手には薬指を除きそれ以外の指に鎖がついていた、鎖は手首のリストバンドのようなものまで繋がっており左手首にも同じ様な物がついていたが鎖は無かった。
(傷が治るまでは無理そうだな・・・・・・はあ・・・)
何処か落胆した様子の少年に構わず兵士は牢屋の出入り口へと歩き出した。少年も慌てて兵士の後を追った、こんな気味の悪いところに置いて行かれてもどうすれば良いかわからなくなる。
兵士と少年は牢屋から離れしばらく歩いた、普通なら牢屋に入っていた人間が後ろからちゃんとついてきているか確認するために様子くらいは見ると思うのだがさっきから後方にいる自分の様子を見ていない。むしろ、見ようとしていない・・・と言った方が正しいような気がした。
「ここ何処だ? 俺を何処に連れて行く気だ」
少年は何度か兵士に話し掛けるもののまったく答えてくれる気配はない、肩をすくめながら周りを見ることにした。
室内のしかも廊下であろうその場所は人が歩くだけの通路とは思えないほどの豪奢な装飾が施されていた、足下には踏み心地のよい赤い絨毯に窓には色鮮やかなガラスが埋め込まれている物もる。壁にはさまざなな形の刀剣の類や壁のすぐ側には目の前にいる兵士が身につけている鎧よりも重量感と威厳を宿した鎧がいくつか飾られていた。
(・・・ここは城か、何でこんな所にいるんだ?)
少年は自由になった両腕を組んだ、今こうやって出歩く事が出来るのなら何か悪事をして掴まったと言うわけではないだろう。しかし眼の前を歩く兵士の態度を考えると歓迎はされていないのは確かだった。
(・・・ん?)
少年はふいに足を止めた、少年の視線の先には大きな鏡がありその鏡に自分の姿が映し出されていたのだ。
髪は銀髪で瞳は深い紫・・・・・身体は小柄で顔つきも幼さが残る子供っぽい容姿。その雰囲気にはあまり合わない紫と黒を基調とした民族衣装を思わせる服、着ていた服は所々土埃で汚れていたが軽く払えば取れる程度だった。そんな中、鏡に映る自分の姿で一際目立っていたのは血が滲んだ包帯だった。
額と首に包帯が巻かれており服の袖を捲っても包帯が巻かれていた、応急処置程度とは言え手当をされている・・・つまり少年がこうして生かされているのは何か理由があっての事だろう。少年の額の包帯に滲んだ赤い模様は少しずつ広がっていた、少年の負った怪我はかなり酷いものだったのだと伺える。
「何をしている! さっさと来ないか!!」
「あっああ! 今行く」
少年は兵士との距離が思ったよりも離れていることに気付き慌てて駆寄った、最初は自分を持っていてくれたのだと思ったがどうやら目的地に着いたようだった。
少年と兵士の前には重厚な造りの大きな扉があった。
「・・・無駄にでかいな」
「ここから先は謁見の間になる、今のような私語は慎んでもらおうか?」
「わかったよ」
兵士が扉に手を触れたとき、その重厚な扉は思いのほかすんなりと開いた。
「入れ」
少年は兵士に促されるまま謁見の間に足を踏み入れた、天井は高く先程まで歩いていた廊下とは違い落ち着いた雰囲気の造りで部屋の奥には玉座と思われる椅子が置かれておりその上に王と思われる人物が座っていた、この部屋には不釣り合いなほどの煌びやかな装飾が施された玉座ではあったがそれに身を委ねる王は上に立つ者の風格と威厳を宿していた。
そしてその部屋の中にはすでに先客がいたようで白いローブに身を包んでいた5人の少女達とその後ろには自分より背が高い4人の男達が立っていた。。
「お前の主の元まで行け」
「主?」
少年は首を傾げる。
「主って・・・」
少年が兵士に疑問を投げかける前に一人に少女が少年に駆寄ってきた、その少女だけが誰も連れていなかった。
「すみません、私があなたを呼び出しました!」
「・・・・・・・・・」
少年は駆寄ってきた少女を見て言葉を失った・・・。
身長は自分よりも少し低いくらいだろうか、薄く茶色がかったまっすぐな艶やかな長い髪。細くくっきりとした眉。多少切れ長気味だがハッキリとした蒼い瞳に、通った鼻梁に薄い桜色の唇・・・それらを際だたせるよな真っ白な肌。
まるで絵画から抜け出たような美少女だった・・・・・・、少年が息を飲んで見つめていると少女が心配そうにこちらの顔を覗き込んできた。
「大丈夫ですか?」
「は、はい! 大丈夫です!?」
少年は背筋を伸ばし姿勢を正した、何が大丈夫なのかを聞かれたがわからずに反射的に返事をしてしまった。
「よかった、傷の方は応急処置をしたんですけど気になって・・・」
「これ・・・あんたが?」
少年は額の包帯をそっと触った、少女の美貌に動揺したせいなのか傷の痛みはあまり感じ無くなっていたが確かに完治しているわけではないので治療するに越したことはない。
「はい、時間が無かったので応急処置程度で・・・でも儀式が終われば後は特に何もないのですぐに治しますね」
「儀式?」
少年は儀式と言う言葉に首を傾げる。こんな開けた場所で何の儀式をするのかと少女に聞こうとした時、背後にいた兵士から声が上がる。
「アドレット様、時間も押していますので戻っていただけませんか?」
兵士の声は少年に向けるような敵意の込められて物ではなく親しみが込められた物だった、確かにこの少女に声を荒げる男はいないだろ。
「わかりました。行きましょう・・・・・・えっと、名前はありますか? 『英雄の書』にも載っていなかったので・・・教えていただければ嬉しいです」
少年は聞き慣れない書物の題名に首を傾げたが名前はちゃんとあるので答えることにした。
「ゼノだ」
「ゼノさんですね! 私の事はフィオって呼んで下さい!」
「よろしく、フィオ」
フィオは右手を差し出す、ゼノは差し出された手を握り返す。その手に伝わってくる感触はとても柔らかく少し力を入れれば折れてしまいそうだった。
「じゃあ、付いてきて下さい」
フィオはゼノと一緒に他の少女達が並んで立っている場所まで戻った、ゼノの隣にいるのは大柄のな男で殆ど身体を出しているような服装なのだが見えている肉体は筋肉の鎧を身に纏っている様で一般人が殴ったり蹴ったりしてもびくともしないだろう、他の男達も筋肉質ではあるもののここまで誇示してはいなかった。
ゼノは興味津々で男達を見ていたが後から来たゼノには何の興味も示していないようでただジッと前を見て立っていた。
(・・・さっき言ってた儀式と何か関係があるのか・・・)
とりあえずゼノも前を見ることにした、それを待っていたかのように玉座の側に立っていた兵士が静まりかえった場に声を響き渡らせる。
「これより『従者契約』と〈アーレア・フェーデ〉の代表決定御前試合の説明を始める、まず初めに巫女の方々は英雄との契約のため水晶に映った部位に契約の儀式を行って下さい」
兵士の声に従い巫女と呼ばれた少女達は目の前にある水晶の前に順番に移動する、あの水晶に何か映っているようだが少女達の背に隠れて見えなかった。しばらくして少女達が自分達に向き直る、もちろんフィオも巫女の一人なのでゼノに向き直るのだが・・・何故か頬が朱く眼を伏せてこちらを見てくれなかった。
他の少女達もフィオと同じように頬を朱くしていたがその中で一番左端の少女だけが堂々と目の前にいる男を見ていた。
「契約って・・・」
「これからゼノさんには私の従者・・・つまり使い魔となる契約をしてもらうことになります」
「使い魔・・・俺が!? 何で?」
「えっと、事情を説明するには時間が無くてですね。それに契約しないと御前試合にも参加できなくて・・・」
フィオは少し困ったように周りを見る、ここで初めて気付いたが兵士達から強い怒気が込められた視線を感じた。フィオを困らせている事に腹を立てているのだろうか・・・。
「わかった、事情は後で説明してくれればいいから・・・とりあえず契約ってのをしよう」
「は、はい!!」
フィオは笑顔を見せてくれたがすぐに顔を伏せた、さっきよりも赤くなった気がするのは気のせいだろうか・・・。
「じゃあ、その・・・眼を瞑っていただけますか?」
「それだけで良いのか?」
「・・・後は私が・・・キス、しますから・・・」
今度は見間違いではなく耳まで赤くなっていた。
「・・・大丈夫か?」
今度はゼノが挙動不審なフィオに聞く形になった、ゼノでなくても心配になるうろたえぶりだった。それに『キス』という言葉は知らなかった、それが契約に必要な物なのだろうか・・・ゼノは首を傾げる。
「・・・はい、覚悟を決めました!」
「じゃあ・・・眼を瞑れば良いんだよな」
フィオのあの慌てた様子ではきっと『キス』というものは難しい詠唱でもあるのだろう・・・自分が見ていたら緊張して唱えられないのかもしれないと思い眼を瞑りただじっと待つことにした。自分が不安がっていてはフィオも儀式に集中できないだろう。
「い・・・いきますね?」
ゼノはフィオの言葉に黙って頷く、すると頬をあの柔らかい手で包み込まれた。
「・・・ごめんなさい」
フィオの声は小さく呟いたものだったが何故か近い所から発せられたように聞こえその言葉にも疑問を感じ問いかけようとした瞬間・・・唇に暖かく柔らかな物が当てられた。
「・・・ぅ・・・ん・・・」
「・・・・・・ん?」
ゼノは眉を寄せる。こんな感触は体験したことがなかった、唇に当てられているものはしっとりと濡れていてそれでいて暖かく包み込むような柔らかさを持っておりそして微かに振るえていた・・・ゼノは唇に当てられている物が何なのか確かめるためにそっと眼を開けた。
そこでゼノの眼は大きく見開かれ同時に身体が硬直してしまった・・・何故ならゼノの唇に当てられていたものはフィオの唇だったからだ。
(・・・何でこんな状況に!? 『キス』っていう契約をするんじゃ・・・・・・!)
そしてゼノはここで初めて理解した、『キス』と言う行動がなんなのか・・・。
唇と唇の接触、公序良俗に反するような、人前ではすべきではないようなアレ・・・つまりフィオの言った『キス』とは結局の所・・・・・・
(接吻のことか!!)
キスが接吻の事だと理解した時、フィオのあの様子や兵士達からの突き刺さるような視線の数々・・・全てが説明できた。兵士達にとってはこんな美少女の唇を奪う・・・と言うより奪ってもらうなど同じ男である自分でも夢のような状況で、彼女にしてみればこの行為自体躊躇いだらけでしかもこんな由緒正しき場所で接吻・・・キスするなど恥ずかしいに決まっている。
ゼノは慌てて離れようとしたがフィオに顔を固定されているので動こうにも動けなかった、たいして強い力で押えられているわけではないが身体が硬直して思うように動かないのが原因だろう。
フィオから意識を逸らそうと周りの様子を見たが他の少女達も男達にキスをしていたがその部位にゼノはさらに眼を見開く。
遠い順に、額、頬、肩、右手の甲・・・そして唇。
(何で、俺だけ唇なんだよ!!)
ゼノは心の中でこの幸福感いっぱいでありながらも理不尽に思える状況に困惑するしかなかった。
「・・・・・・・・・」
口が塞がれているため鼻で呼吸をするのだがフィオの髪や肌から香る甘く優しい匂いがゼノの動揺を更に大きくさせる。
(いつまでこうしてれば良いんだ!?)
ゼノの顔もフィオと同じように赤くなる、キスの意味を理解したことでこの状況から一刻も早く脱したかった。フィオとキスをするのが嫌なわけではないむしろ喜んで良い状況であるがこの馬の骨かもわからない正体不明な男と思われていると自分とではあまりにもフィオが可哀想だった。
そんなゼノの願いが届いたのかやっとフィオが唇を離してくれた、触れていた温もりが消えた事に安堵を感じたが恥ずかしさのあまり互いに顔を見ることができないでいた。
「・・・あの、その・・・ですね」
「・・・・・・・・・」
気まずい空気が漂う中、二人の足下に魔法陣が浮かび上がり二人の身体を淡い光が包んだ。
「なんだ!?」
「これはキ・・・契約がうまくいった証です、契約の証になる魔具を錬成するための魔法陣です」
フィオの言葉を体現するようにゼノとフィオの間に小さな光が生まれその中から指輪が姿を現した、フィオはそっと指輪を手に取り優しく握りしめた。それと同時に魔法陣は消え二人を包んでいた光も消えたのだった。
「指輪?」
「はい、指輪の内側に契約印が刻まれてます。これを指に填めれば契約完了です」
「指に・・・・・・」
二人はふと左手の薬指を見てしまった、それがどういう意味なのかを知っているため変に意識してしまう。
「とりあえず薬指以外の指に填めれば良いんじゃないか!?」
「そうですね!!」
フィオは慌てて左の中指に指輪を填める、とにかくこれで契約は無事? 完了した。フィオが指輪を填めるのを見届けた兵士は咳払いをして本題である〈アーレア・フェーデ〉の説明に入った。
「契約も無事終了したようですので本題に入らせていただきます。今回、我が中立国フリーデンは他の四大国全てから申し込まれた〈アーレア・フェーデ〉に向け代表者を決めるために御前試合を行うことに致しました」
〈アーレア・フェーデ〉とは数百年前に考案された戦争の在り方の一つだった。この世界に存在する国同士が戦争ではなく国が選んだ『代表者』達による戦いで国の未来を決める決闘である。
この世界には大きく分けて五つの国が存在し東西南北を四つの国に囲まれその中心に有るのがこの中立国フリーデンである、各国の軍事力は拮抗しており戦争をしかけた国は疲弊し次の戦局では必ず敗北する・・・先に戦争をしかけた時点で結果が決まってしまうのだ。そうなれば自国には多大な被害とわかりきっている敗北しか残されていない。
そのため各国は被害を最小限に尚かつ迅速に他の国の領土を略奪するためだけにこの〈アーレア・フェーデ〉を確立したのだ。
「前回は勝ち抜いた者どうしが戦いその勝者が代表になる形式でしたが、今回は召喚された四人の英雄達と一人の平民による総当り戦です。その成績上位の二名を代表者と決定します」
ゼノは周りを見る。隣にいる大男もそうだが他の三人もこの説明を受けていると言う事は、この時点でかなりの実力を持った者達だと言う事がわかる。説明が終わった瞬間から空気が重く張り詰めている、この重圧を放っているのはゼノ以外の男達だった。
ゼノとは違いこの〈アーレア・フェーデ〉を理解しそれぞれが何をすべきなのか・・・それがわかっているからこそ動揺は微塵も感じられなかった。
「説明は以上です、王様・・・お言葉を」
「うむ」
王は玉座から立上がり少女達に声を掛けた。
「君達のような若者にこの国の未来を託す力なき王を許してくれ」
その一声はフィオ達への謝罪だった、確かの王の魔力はここにいるどの少女よりも小さいものだったが民の上に立つものの言葉とは思えなかった。
「だが、君達がこの世に呼び戻してくれた英雄達がこの国をこの国に住む全ての民を救うと信じている。来るべき決闘に向け互いを磨き上げ必ず勝利してくれ!」
フィオ達は王の言葉を聞き漏らさないよう真剣な眼差しを向けた、その眼には確かな信頼が込められていた。
「私からは以上だ・・・・・・フィオリーゼ・アドレットよ」
「はい、王様!」
王はフィオに声を掛ける、その声はまるで我が子に掛けるような声・・・優しく気遣うような、そんな声だった。
「君は治癒魔法しか使えない身でよく志願してくれた、だが少しでも無理だと感じたら棄権してくれて構わない。こちらの都合で巻き込んだようなものだからな」
そんな王の言葉にフィオは首を振った。
「これは私が自分で決めたことです、お気になさらないで下さい!」
フィオの眼は揺るがない決意を宿し言葉には最後まで戦い抜くという覚悟が感じられた。
「・・・そうか、なら全力を尽くしてくれ」
「はい!」
王は小さく微笑むと奥の部屋に下がっていった、護衛の兵士もそれに続いていく。
「それでは説明を終わります、巫女の方々は召喚した英雄の方々とお帰り下さい。日程は後ほど文書でお知らせいたします」
その声が部屋に広がると先程までの重苦しい感じは消えた、とりあえずは一段落したのだろう。
「ゼノさん、こっちへ」
フィオはゼノの手を掴み謁見の間を足早に出て行った。先程の廊下を歩き城の中庭へとでた、そこには手入れの行き届いた庭園があり様々な樹木が植えられ泉の水は透き通っており青空を映し出すほどだった。
「綺麗な所だな」
「ここなら落ち着いてお話が出来ます」
フィオはゼノの正面に立ちドレスの裾をつまむようにローブをつまみ上げる。そして眼がくらむような笑顔をゼノに見せた。
「改めて自己紹介させていただきますね、私はフィオリーゼ・アドレットと言います。『英雄召喚』の儀式であなたを呼びだした巫女の一人です」
「俺は、ゼノ・テオブロマ・・・・・・まあ、英雄なんて呼ばれたことはないな」
謁見の間にいた他の男達なら英雄と呼ばれるほどの風格は持っているだろう。それにさっきの説明でだいたいの事情は分かった。
「ところで・・・巫女ってのは魔術師とは違うのか?」
「いえ、同じ魔術師ではあるんですがその中でも特に魔力が高い魔術師なんです。あとは女性である事が絶対条件ですね」
「男じゃ駄目なのか?」
高い魔力を持つものなら男の中にもいるはずだ、別に女でなくても良いと思うのだが。
「男性の殆どが『英雄の書』に名を刻むために自身の鍛錬に時間を費やしますね、例え英雄になれなくてもそれなりの役職に就くことは出来ますから」
「なるほど・・・で、『英雄召喚』ってのは死んだ人間を呼び出すのか?」
ゼノは一番疑問に感じていた事を口にする。英雄の称号はほとんどが過去・・・つまり長い歴史に名を残すような偉業を成し遂げた者達に贈られるもの、それだけでここが未来の世界だと言う事は何となくだがわかった。
しかし、ゼノは英雄と呼ばれた事は一度もないし深い傷を負ってはいたものの死んだわけでもない。そうなるとどうやって呼び出されたのか疑問が残る。
「基本的にはそうなんですけど・・・ゼノさんは怪我をしていただけで死んではいません。正規の英雄では無いのは確かみたいですけど、召喚できる英雄はこちらから指定出来ないので詳しい事まではわからないんです・・・」
フィオは申し訳なさそうに頭を下げた、ゼノは慌てて両手を振った。
「謝らないでくれ! 好奇心で聞いたことだからさ、それよりまだ聞きたいことがあるんだけど!?」
「何ですか?」
「えっと・・・」
話を逸らすために言い出したものの素直に聞かれるとなかなか出てこないものである。ゼノは腕を組みながら思考する。
「そういえばさ、王様とは仲良いのか?」
「何でですか?」
「いや、人の上に立つ立場の人間が個人であんなにフィオの事を心配するかなと思ってな」
「そうですね、私と仲が良いと言うよりは父と親交があると言った方が正しいと思いますね」
「父親?」
ゼノの疑問は尤もで、一個人が王という位に立つ者と親交があることが信じられないのだ。上司と部下のような関係であるならばその子供であるフィオの事は気に掛けるかもしれないが我が子のように心配するとい言うのはなかなかある事ではない。
「はい。私の父は王様が幼少の頃から付き人として召し抱えられていたそうで同世代の友人は父だけだったみたいです、それで二人は子供の頃から親交を深め今では親友だと聞きました」
「そっか・・・それでフィオの事を心配してたのか」
「父が言うには王様にとっても私は娘同然なのだそうです、それはとても光栄なことだと私自身そう思っています」
フィオは謁見の間があった方向を静かに見つめた、信頼を込めた瞳は何の曇りのない心からのものだった。
ゼノはそんな彼女の姿に見とれたしまった、謁見の間でもそうだったがフィオは立っているだけで絵になった。栗色の髪は優しく放たれている太陽の光を帯び美しい輝きを放っていた。
「ところでゼノさん」
「えっ? ああ、何だフィオ!?」
惚けていたためフィオの声に驚いたゼノは慌てて返事をした。
「その怪我はどうしたんですか? ゼノさんを召喚した時にはもう傷だらけだったんです、いったい何が・・・・・・」
フィオが問いかけていた時、ゼノの額から血が流れ落ちる。鼻筋を通り顎に伝った血はそのまま地面に吸い込まれるように滴った。
「あれ? 血が流れてきたな」
ゼノの額の包帯は血によって赤く染め上げられていた。包帯の吸水率の限界を超えた様だ。
「すみません! 急いで治しますから!!」
「いや、そんなに慌てなくて・・・もっ!」
ゼノは声を詰まらせた、何故なら儀式の時のように顔を固定され額の傷を見つめるフィオの顔が近かったからだ。その距離は儀式の時とさほど変わらない・・・息が触れあう程の距離だった。
「じっとしてて下さいね」
治癒の魔法をかけゼノに動かないようにお願いをするフィオ。目の前で喋られては黙って頷くしかないがフィオにこの危ない状況を理解していないのかと突っ込みたいところだが出来そうにない、言ってしまえば気まずくなるのはわかりきっていた。
そんなゼノの心配をよそにフィオは治癒に集中するがゼノの額から流れる血は止まる気配はなかった、出血量こそ大したものではないが明らかに魔法が効いていなかった。
「どうして・・・もしかしてレジストしてますか?」
「そうじゃないんだ、俺・・・魔法が効きにくい体質で攻撃魔法とかだけじゃなくて治癒魔法とかも弾いちゃうんだ。ごめんな、せっかく治してくれようとしてるのに」
「気にしないでさい、それより顔が真っ赤です。大丈夫ですか?」
「大丈夫だ、でも・・・そのもう少し離れてくれるとありがたいんだけど・・・」
「離れる? 何でです?」
フィオは本当に気付いていないらしくゼノの瞳を見つめてくる。見つめられている恥ずかしさで顔が熱を持ち熱くなるのを感じたゼノは視線を外した。
「だって・・・これじゃさっきの二の舞に・・・」
「さっきの? ・・・・・・っ!」
ゼノの言葉で状況を理解したのかフィオは慌てて手を離した。フィオの顔もゼノと同じように赤くなっていた。
「すみません気がつかなくて!!」
「・・・まあ、その・・・・・・悪かったな」
「悪かったって・・・何ですか?」
ゼノは俯きながら何とか声を絞り出した、恥ずかしさのあまり直視できない。
「好きでもない男と・・・キス・・・させちゃっただろ? しかもフィオが呼びたかった英雄でもないし・・・・・・とにかく悪かったよ」
ゼノは静かに頭を下げた、どんな無茶な要求をされても従う覚悟は出来ていた。だがゼノが予想していたものとはまったく反対の反応が返ってきた。
「それは私が言うべき言葉じゃないですか?」
「へっ?」
「普通に考えれば私が無理矢理ゼノさんを呼んで・・・キスしたんですから、私が謝らなきゃいけませんよ?」
ゼノはフィオの言葉を頭の中で反復する。確かに自分の意思で呼んでもらったわけではないし、儀式の方もちゃんとした説明があったわけではない。まあ、『キス』について説明があれば断固拒否・・・いや、儀式をしないと〈アーレア・フェーデ〉に参加出来ないという時点で自分に選択肢はなかったのかもしれないが・・・・・・。
「それでも、悪かった・・・ごめんな」
それでも年頃の女の子にとって唇を重ねるという行為は覚悟が必要であるはずだ。ゼノはもう一度、頭を深々と下げた。
「気にしないで下さい! その・・・儀式は避けて通れませんでしたし、それに何処にキス・・・するかは私達では決められませんから」
「こう言うのもおかしいけど・・・お互い被害者って事でいいか?」
「意味合いが違う気がしますけど・・・そうしておきましょうか」
二人は頬を朱く染めながらも小さく笑った、ギクシャクした空気は消え今は降り注ぐ太陽の光と同じように暖かい雰囲気を醸し出していた。
しかし、傷の治癒が済んでいないため頭を上げたときまた血が流れ落ちてきた。
「あっ! 途中でしたね」
フィオは慌ててローブの中から透明な小瓶をを取り出す、中には緑色の液体が入っていた。
「なんだそれ?」
「魔法薬です、ゼノさんみたいに外から魔法が効きにくい人のために魔法を込めた聖水で身体の中から魔法を掛ける為に使う物です」
フィオは小瓶の栓を外しゼノに手渡す。
「私が作った特製の魔法薬です。飲んでみて下さい、これなら怪我も治ると思いますから」
「へぇ、フィオが作ったのか・・・」
ゼノはフィオから受け取った魔法薬を一気に飲み干した、量も少なく見た目ほど苦くなかったので安心した。
「どうですか?」
「何か身体がポカポカしてきた」
「よかったです、しばらくすれば治ると思いますよ」
ゼノは身体を軽く動かしてみる、先程まで感じていた痛みが嘘のように消え額からの出血も止まっていた。試しに腕に巻かれていた包帯を外してみると傷が塞がっており傷跡らしきものも消えかけていた、この様子なら跡も残らないだろう。
「すげぇ!! 傷が塞がってるし痛みも消えたぞ!?」
少し乱暴に身体を動かしてみてもまったく痛みを感じなかった、これなら少しくらいの戦闘なら問題はなさそうだった。
「ありがとな、フィオ! 助かったよ!!」
ゼノは満面の笑みを向けてフィオの手を握った。
「どういたしまして・・・あれ? ゼノさんその左手の・・・」
フィオは自分の手を握っているゼノの左手に違和感を感じた、召喚した時から右手の指に鎖がついていたのは知っていたが左手には何もついていなかったはず・・・しかし、今は親指だけだがいつの間にか鎖がついていた。
「その鎖は・・・」
フィオは両手についている鎖は何なのかをゼノに聞こうとした時、背後から笑い声が聞こえてきた。
そこにはフィオ以外の巫女とその使い魔となった英雄達が並んでこちらに歩いてきていた、その中から背の高い少女が前にでる。儀式の時、フィオや他の少女が顔を朱に染めていた中・・・平然とした態度を見せていた少女だった。
ゼノは前に出た少女を見る。自分よりも背の高い少女は肩の辺りまで伸びた赤い髪をかき上げ意志の強さを表している金色の瞳をこちらに向けカンに障る笑みを見せていた。
「こんな所で油を売ってるなんてずいぶん余裕ね、アドレット」
「リューネさん・・・こんにちは」
フィオの表情が曇ったのをゼノは見逃さなかった。
(あんまり良い奴だとはいえないみたいだな)
ゼノはフィオの前に立った、リューネとの距離はあるのだが身長差があるため少し見上げる形になる。
「あら、何かしら?」
「別に・・・これでもフィオの使い魔だからな、主を守るのは当然だろ? 」
「・・・ゼノさん」
フィオはゼノが間に入ってくれたことで少しだけ余裕が出来たようだった。
「確かに英雄には見えないわね、まあ・・・落ちこぼれには丁度良いでしょうけど」
リューネの不愉快な笑みがいっそう強まる。
「落ちこぼれ? 誰がだ」
「決まってるじゃない、あなたの後ろにいるご主人様よ」
リューネはゼノの後ろにいるフィオを指さした、他の少女も馬鹿にするように小さく笑う。
「治癒魔法以外の魔法がまったく使えない魔術師なんて見た事も聞いたこともない、まして魔術師としての教育を受けている子供でも攻撃魔法、補助魔法その他にも魔術師として基本的な魔法が使えるのよ。・・・ねっ、落ちこぼれでしょ?」
リューネは鼻で笑いながら話を続ける、ゼノの後ろにいるフィオの表情がどんどん暗くなっていく。
「自分の父親が王様と旧知の仲ってだけで巫女に選ばれたのだからそこは羨ましいわ。何の苦労もなく巫女と名乗れるのだから・・・まあ、王様も治癒魔法しか使えない事を知っているからあなたに辞退させよとしたみたいだけど」
リューネは笑いを堪えているのか涙を浮かべていた、その態度に我慢しきれなくなったゼノが静かに言い放つ。
「その口を閉じろ」
ゼノは額の包帯をむしり取った、
「人の傷を治せるやつが落ちこぼれなわけないだろ。お前達みたいに人を傷つける力を身につけて喜んでいるような人間に比べれば傷ついた人間の痛みと苦しみを癒してやれるフィオの方がよっぽど優秀だろうが!」
ゼノの言葉にリューネは後ずさる。ついさっきまで子供のような外見の男が、研ぎ澄まされた刃のような眼光を向けている。英雄でもない人間が眼光と言葉だけで身体が沈むような錯覚を感じさせる程の威圧感を放っているのだ。
「傷を治すにはまず人の身体の構造や仕組みを学ばなきゃならない、症状にあった魔法を使わなきゃ何の意味もない事ぐらい知ってるだろ? それがどれだけ大変な事かも・・・攻撃魔法を放つように誰にでも出来る事じゃない、人を助ける事の方がずっと難しいんだ。俺からしてみればお前達の方が落ちこぼれなんだよ!」
「・・・ゼノさん」
フィオは驚いたような瞳でゼノを見つめた、ゼノの言葉から嘘が感じられなかったからだ。今までも同じ様なことを言って励ましてくれた者達はいたがその言葉には気遣いが感じられていたからだ・・・でもゼノの言葉からそれが感じられなかった。
本当に心の底からそう思っていると・・・ゼノの背中がそう言っているように見えた。
ゼノの言葉にリューネは苛立ちを堪え歯を食いしばる、他の少女達もばつが悪そうにゼノから視線を逸らす。
「わかったか? わかったらとっと謝れ、高飛車女」
ゼノはリューネを睨み付けるがリューネが謝罪を口にする前に彼女の背後にいた男がゼノと同じように前に歩み出る。リューネも長身であるのだがこの男も背が高く体型も屈強だった。
「そこまでだ、少年」
ゼノとは違い体格の良い黒縁の眼鏡を掛けた男。男としては長い髪をなびかせていたが凛とした表情・・・いかにも生真面目そうな雰囲気を醸し出していた。
「主の非礼は謝罪しよう・・・だが、さっきの言葉は主への侮辱だ。訂正してもらおうか?」
「あんたじゃなく、そこの高飛車女が謝ったらな」
ゼノはあえてリューネを指さす、馬鹿にした本人が謝らなければ意味がない。
「それは主への侮辱だと言ったはずだが? どうやら口で言ってもわからぬらしい!」
男は左腕を掲げる。それと同時に左手には巨大な大剣が姿を現しその切っ先はゼノに向けられたいた。
「あの剣は! まさか、あの方は・・・!」
フィオは悲鳴に似た声を上げる、どうやらレヴァントと彼が手にしている身の丈を超える黒い刃を携えた大剣を知っているよいうだった。
「知ってるのか?」
「はい。あの方はレヴァント・マグス・・・『英雄の書』に載っている方々の中で最も古い英雄で、伝説にしか伝えられていない神獣である竜を狩り『竜殺し』の称号を与えられかつてこのフリーデンで最強の魔術師と謳われた方です!」
「そうか」
ゼノはそれだけ答えレヴァントへ歩み寄ろうとする、フィオは慌ててゼノの腕を掴み止めに入る。
「私は大丈夫ですから、リューネさんに謝りましょう! じゃないとゼノさんが酷い目に遭わされてしまいます!!」
フィオは今にも泣き出しそうな眼でゼノを見つめる。
ゼノは小さく笑いフィオの頭を撫でる、フィオが自分の事を本気で心配してくれているのがわかる。自分の腕を必死に掴み先に行かせまいとしている・・・。
そんなフィオを安心させるように話しかける。
「大丈夫だ、英雄だか『竜殺し』だが知らないけどよ・・・俺は負けない。だから少し離れてな?」
ゼノはフィオの手を優しく振りほどく、ゼノの眼には迷いも恐怖も微塵も感じられなかった。
「覚悟は良いか、少年!」
「何の覚悟だよ? 俺よりあんたの方が覚悟決めとけ!」
「・・・その不遜、後悔するがいい!!」
レヴァントの魔力が一気に跳ね上がる、その魔力は周りの木々が揺らめき葉が舞う程の衝撃を放っていた。それに共鳴するようにレヴァントが手にしている大剣からも魔力が感じられる、反対にゼノからは何の魔力も感じられない。
ゼノは無言で両手を構える。
「あたしのレヴァント相手に素手で戦う気? 主が落ちこぼれならその使い魔も実力の差を理解できない馬鹿って事ね!」
「ほんとに嫌な女だな、お前」
「褒め言葉として受け取っておくべきかしら?」
「そうしろ、お前にはお似合いだ」
「・・・口が減らないわね、レヴァント・・・死なない程度に痛めつけてやりなさい」
「承知!」
レヴァントは大剣を振り上げ上段に構え、ゼノは腰を落とす。
「行くぞ、少年!」
「来な・・・レヴァント」
二人が刃と拳を交えようとした時、庭園に制止の声が響く。
「そこまで!!」
ゼノとレヴァントは警戒しながらも構えを解きフィオとリューネ達と一緒に声の主に眼を向けた。
「お父様!?」
「グレイブ様!」
そこにいたのはグレイブ・アドレット・・・フィオの父にして『大騎士』の位を持つ魔術師だった。
「ここでの戦闘は許可されていないよ・・・何事だい?」
グレイブはゼノとレヴァントの間に割り込む様に立つ。
「召喚した英雄のお披露目と言うだけのことです・・・何か問題でも?」
リューネは何もなかったように笑いかけてくる、どう見ても作り笑いだったがここで言い争いになるのはまずいと判断しての行動だろう。
「本当かい、フィオ?」
「はい・・・何も、問題はありませんでした」
フィオも争うつもりは無いので大人しくリューネの話しに調子を合わせる、問題になれば参加資格を失う可能性もあるのだろう。
「・・・そうか、ならもう帰りなさい。あと念のために言っておくが今から御前試合まで一切の私闘を禁ずる・・・・・・異論は無いね?」
「わかりました」
「はい」
フィオ達はグレイブの指示に従った。
「レヴァント様と・・・君も良いね?」
「承知した」
「・・・ああ」
二人も従ったがゼノは渋々承諾したという表情を見せていた、グレイブはゼノの不満を感じていたがこの場を収める事を優先した。
「では解散!」
リューネ達は城内へ戻りゼノとフィオ、そしてグレイブがその場に残った。
「・・・また、何か言われたのかい?」
グレイブはフィオの頭をそっと撫でた。その姿は先程までの有無を言わせぬ迫力を持った魔術師の姿ではなく何処にでもいるような父親の姿を見せていた。
「・・・大丈夫です、今日は・・・。その・・・庇っていただいたので・・・・・・」
フィオは頬を朱く染めゼノを見つめた、肝心のゼノはまだ不満が残っているようでリューネ達が入っていった入り口を睨むように見ていたのでフィオの言葉と視線には気付いていたなかった。
「ほお・・・」
グレイブはフィオの表情に驚いたがすぐに笑みを溢した。
「あの子がフィオの召喚した名が記されていない英雄かい?」
「はい」
グレイブはフィオの頭から手を離し今度はゼノの頭に手を置いた。
「なんだ?」
「君、名前は?」
グレイブはゼノの頭を優しく撫でる、フィオにしたように。ゼノは特に嫌がる素振りは見せなかった。
「ゼノだ、フィオに呼ばれて来たんだけど・・・英雄じゃないぜ?」
「知っているよ、君達の事は国の未来を左右することだからね」
「話が早くて助かる」
「『英雄の書』に書かれていない君が何故呼ばれたのかは私にもわからないが・・・君の面倒は私達が見よう」
「・・・やっぱ、俺がいた時代には戻れないって事か」
「残念だけど、そういう事だね」
ゼノは気付かれないよう空を見上げる、深紫の瞳に映ったのは雲一つ無い青空だった。
(・・・アレも機能してるみたいだし、心配ないか・・・)
ゼノは小さく息を吐く。
「まあ、積もる話もあるだろうけど、まずはフィオと一緒に家に来るといい。ここにいるよりも寛げるのは保証する」
「・・・そうだな、俺も少し休みたい」
ゼノが怒りを収めてくれた事を感じグレイブは満足したのかゼノの頭から手を離した。
「お父様は?」
「私は王様に話がある、先に帰ってくれてかまわないよ」
「わかりました」
グレイブは手を振り城の中へと姿を消した。
「じゃあ、お家に案内しますから行きましょう!」
「ああ、世話になる。よろしくな!!」
「はい!」
フィオは満面の笑みで微笑み、ゼノもつられるように笑みを返す。
まだ、この時代の事はわからない。それは眼が覚めた時と同じで何も見えない暗闇中を歩かされている事と同意であったが不思議とそんな不安は無かった・・・・・・。
投稿落選した作品ですが良かった呼んでみてください。
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