天才を約束された乳児達
〔1〕
深夜の事である。
インターネットの動画サイトで不気味な番組を視聴していた。深夜四時の頃合いである。私は、自宅の一室で、その奇妙な通販番組にすっかり心を掴まれてしまっていた。
ディスプレイの中では、白塗りのマスクをした男が、言葉巧みな宣伝文句を語り上げて、商品の説明をしている。マスクは眼球の周りだけが開いている為に、男の顔の特徴は全く掴む事が出来ぬ。
男の紹介している商品は、次の様なものであった。
【アルバート=アインシュタインの脳髄から抽出した遺伝子で形成されたクローン乳児】
全身に悪寒が走った。私は咽頭から遡って来る唾液を呑み込んだ後、画面の中で淡々と語る男の話に、耳を傾ける。――何を売ろうとしているのだ。この男は。
「こんばんは。今回の商品はこちらです」
男の視線の先には、机がある。漆黒で真四角の机の上には竹籠の中に入った乳児が一人いる。猿の様な赤ら顔をした赤ん坊だ。赤児は静かに瞼を閉じ、眠っているのだった。
「な……赤ん坊が、商品?」
私はパソコンの前で、呟く。
「皆さんも一度は、自分の子供が天才だったら……なんて願望を抱いた経験があるでしょう。高学歴社会が普遍化している社会に対抗するべく、我が社では、画期的な商品を開発致しました。皆さんもアインシュタイン博士は御存じでしょう。相対性理論を生み出した天才博士です。生前の彼は、その素晴らしい才能から、多くの学者達の研究対象として注目されてきました。そして、彼の死後も研究者達の意欲は、博士へと注がれてきたのです。偉大なるアインシュタイン博士の脳は、米国の研究施設で冷凍保存されました。その保存された脳髄から抽出された遺伝子から作られたのが、この乳児なのです」
男は意気揚揚と声を上げて、乳児を指差した。
すやすやと乳児は眠り続けている。
何故、こんなくだらない茶番劇が、情報網の中で繰り広げれているのであろう。これを私などでは無く公僕達が視聴していたら、この男はすぐにでも逮捕されるに違いない。
クローン人間の製成並びに、人身売買――愚行である。
それだけではなく、視聴者が、本当にモニター越しに映る乳児が博士の遺伝子から作られた赤子だと確認する術がある筈もないのだ。
馬鹿げているとしか思えなかった。
男は説明を続ける。
「――では、一体この乳児がどのようにして作られたのか? ここで説明したいと思います。 皆様はクローン技術についてご存知でしょうか。この技術はすでに実践されておりますが、人間を創り出された事は未だに公にはなっておりません。人が人らしく生きる為に、人間が人間を作りだす事は愚かな事だと綺麗事をおっしゃる大人達のせいで、クローン技術を用いた人間を生み出す事は、全世界で禁止されているのです。しかし、昨今では、クローン牛などの動物も製成され、いつの日かクローン人間が作られる日が到来するのではないかと、民衆の中でも囁かれ始めているのです。綺麗事を言っていては、世界は変わらない。堕落した人間達が蔓延る世の中には、一人でも多くの才能を持った人が必要なのです。救世主の様な天才達が。そこで私達、○○会社は、独自のルートで、アインシュタイン博士の遺伝子を入手し、ホノルル法〔1988年に若山照彦博士らによって立証されたクローン技術。体細胞を、核を除去した卵子に直接注入することにより細胞融合を行わずにクローン個体を作製する技術であり、これがクローン作成法の標準になっている〕を用いて、クローン人間を作ることに成功したのです。そして一足先に皆様にお届けしたく思い、こうやってお勧めしているのです」
男はそう言って、眠っている乳児の頭部を優しく撫でた。眠っている乳児は温かい毛布に包まれて穏やかな面相をしている。とても愛らしい寝顔である。
男が一通りの説明を終えると、画面の下にこの如何わしい会社の電話番号が現れた。
「家業の跡継ぎ問題に困っている貴方。未来の救世主を育てたいと考えている貴方。どうせ授かるなら頭の良い子供が欲しいと考えている貴方、是非こちらの番号までご連絡下さい。お電話お待ちしております」
そう言った後、通販番組はポツリと途絶え、インターネット放送は終わった。
もう一度再生しようとした私は、画面の真下にある再生ボタンをマウスポインタでクリックしたが、【この番組は、既に削除されています。】という表示が出たので、この番組は二度と再生する事が出来なかった。
もしかして、これは夢なのかもしれぬ。
ふいにそう思った。
ここのところ疲労困憊していたのだ。システムエンジニアの私は、ここ最近、新設された会社にシステムを導入するべく、連日連夜仕事場に拘束され、ほとんど寝る間を惜しんで仕事をしていた。家に帰ってきたのも五日ぶりでという事もあり、私は久し振りに趣味を楽しむべくパソコンの電源を付けて、インターネットサーフィンをしていたわけだが、その結果がこれだ。くだらない動画を見てしまった。
いや、夢か。
安堵したような溜息を洩らしたその時、私は手元に置かれた一枚のメモ用紙に視線を奪われた。
そこには、8桁の電話番号が記載されていた。
夢では無かったのだ。
私は、あの白いマスクの男の口の上手さにすっかり心を掴まれてしまい、あの電話番号を、メモしてしまったのだ。
自分自身の精神を疑う。
あれは、類希なる胡散臭い悪徳商法なのだ。間違っても電話してはならぬ。
しかし。
一言クレームを言ってやるのもいいのではないか。ふとそんな事を思った。くだらないバラエティ番組とも分類できぬような通販をしようとしているこの会社に、一視聴者の意見を、申してやろう。その時私は、奇妙な正義感に苛まれて、部屋の片隅にあるコードレス電話の受話器を握ってしまったのだった。
受話器を耳に当て、メモした番号を押す。
単調な電子音が五回鳴った後、先ほどディスプレイの中で法螺話を語っていた男の声がした。
「ご注文でしょうか」
抑楊の無い声音。人身売買をしているという自覚を微塵に感じさせないような穏やかな声音。背筋が凍りつくような感覚を覚えた。
「――何がご注文だ。さっき、アンタんところの会社が流した通販番組を見たけど、なんだいあれは? ふざけているのか? アインシュタインの遺伝子から作ったクローンだと? 視聴者を馬鹿にするのも大概にしておけよ」
憤った私は、声を荒げて言った。
しかし、男は動揺の一つもせずに、再び単調な声で、機械の如く正確な説明をし始める。額に冷たい汗がすぅ――と伝った。
「御客様は、あの乳児が偽物だとおっしゃりたいのですか」
「そうだ。嘘に決まっている。第一、視聴者が、あの赤ん坊の遺伝子が本当に天才のものか調べれる事は出来ないだろう。アンタのとこの悪徳業者は、口から出任せを言って、一部の馬鹿な視聴者から金をぼったくろうとしているんだ」
「お言葉ですが、御客様。あれは正真正銘、アインシュタイン博士のクローンですよ」
男はここで低い嗤い声を漏らした。
「俺は信じないぞ。じゃあ、一つ訊くが、俺がたった一度、あの番組を見ただけで、すぐにあの動画は削除されていた。アンタらは、あの動画がずっと流れていてはまずいと睨んで、一度だけのアップロードで削除することにしたんだ。そうしないと、もしあれが警察なんかの目に留まれば終わりになるから」
「違いますよ。御客様。貴方様はとんだ勘違いをされております。実は乳児は三人しか居ないのです。在庫が三点しか無いというのに、いつまでもあの番組を放送していては、視聴者の方にも多大なご迷惑を被る事になる。ですから、我々はたった一度だけあの番組を流して、その一度きり放送を見た数少ない視聴者の中からご縁のある御客様を絞ろうとしたのです」
「在庫が――三人だと?」
「はい」
「――アンタ、自分達が何をしようとしてるのか分かっているのか」
「御客様により良い商品をお届けする――それが我々の仕事です」
「ふざけるな。アンタは狂っている。乳児は人間だぞ。人間が人間を売るなんてどうかしている。それだけじゃない。――クローン人間の製成だって、駄目な筈だろう」
「駄目ではありませんよ。番組でも言いましたが、日本には今、救世主が必要なのです。アインシュタイン博士の様な、素晴らしい人材がね。この腐りきった母国を救うために我々は密かにあれを作ったのです。そして、あの赤子の育て親を探すのが、我々の使命です」
「たとえ、たとえそうだとしても、たった三人の天才が現れたところで、日本が変わるとでも思っているのか」
「今すぐには無理だと言う事はこちらも承知しております。しかし、現段階ではの話です。私達は今も、博士の遺伝子からクローン人間を作っています。完成すれば、再び私達はそれを御客様に提供するまでです」
「買う人間なんて居るのか?」
「ええ。先ほども一件電話がありましたよ。何でも有名企業の社長さんでして、後継者が居ないことを大層嘆いておられました。『これで、会社の未来は安泰だ』 なんておっしゃって、喜んでいましたよ」
「ば、馬鹿な……じゃあ、もし、その赤ん坊が大人になって天才にならなければ、アンタんとこの会社は間違いなく終わりだぞ」
「それはありえません。私達は自信を持って御客様に商品を提供しているのですから。御客様? 貴方は私達を、疑っているようですが、貴方も先ほどおっしゃった通り、あの乳児が大人になれば、全ての答えが分かるのです。もし、あの児らが、成長して才能の一つも開花しなければ、都合が悪いのは、私達――そんなリスクを背負ってまで、あの乳児達を販売するとお思いですか? 私達は確信しているのです。あの乳児達は天才だとね。その証拠にあの乳児達の脳は、一般的な乳児の脳より、1.5倍ほどの重さがあるのです。この意味――お分りですか」
ぐっ――と低い呻き声を洩らす。
私はこれ以上男に対抗するほどの知識を持ち合わせて居なかった。
「いくらだ……」
「はい?」
「赤ん坊の値段だよ。さっきの番組では言っていなかった」
「――三千万円です」
「さ……三千万」
「妥当なお値段でしょう。これで天才を跡継ぎに出来るのですから」
「……もういい。これ以上話していたら頭がおかしくなりそうだ。一つ言っておくが、俺は赤ん坊を買おうと思って電話したわけじゃない。クレームを言いたかっただけだ」
「そうですか。残念です」
男が落胆の声を洩らした後、私は受話器を置いた。
パソコンの画面は未だに点いたままだった。私は画面から漏れる微かな光を、醒めた目で睨み続けていた。私は未だに夢の中に居る気がした。
〔2〕
翌日、私は会社の同僚である山地と、居酒屋に訪れた。彼とはもうかれこれ五年の付き合いになる。短髪で、灰色のスーツを着た山地は大層酒好きな男で、居酒屋の暖簾を潜るとすぐにカウンター席に腰かけ、スキンヘッドの頭部に鉢巻きを捲いた店主に日本酒を頼んだ。私が山地を誘ったのには訳がある。それは、昨夜の不気味な番組の事について意見を求める為だ。山地は、システムエンジニアをする前に、通販の実演販売業に勤めていたらしく、彼にも売れない商品を話術で売っていた経験があったのだ。しかし売れっ子セールスマンだった彼は、ある日会社の同僚と酷い言い争いをした挙句に転職し、以前とは全く別の業界であるシステムエンジニアになったのだった。そんな彼ももう今年で三五歳になり、妻も居れば子もいるのだから、私と違って随分幸福な人生を送っているに違いない。
私は酒を啜り、大きな吐息を吐く。彼の横顔に昨夜の事を話した。
「――へぇ、面白い話だな。天才を約束された赤ん坊か。確かにそれが本当なら、世の中の金持ちはきっと、その商品に飛びつくだろうな」
山地は、煙草のヤニで黄ばんだ歯を見せて笑っていた。
「お前はどう思う? どう考えても悪徳商法としか思えないんだ。しかし証拠がない。昨日、俺はあの番組を不快に思って、クレームを言ってやったが、向こうは向こうなりの理念を持って商売をしているらしくて、言いくるめられてしまったよ。――けど、どうもまだ納得がいかなくてね。あの連中を野放しにしておいていいのかどうか」
「ほっとけばいいんだよ。悪党ってのはどこにでもいるものさ。何れ警察にばれて捕まるだろうに」
「しかし……」
「お前は変な正義感を持っているんだな。まぁ、気持ちは分からんでもないが」
山地はグラスに注がれた日本酒を一気に飲み干した。彼にとっては、酒も水も同じ扱いの様である。
「正義感とかじゃないんだが、あんなくだらない商法に引っかかっている奴が居ると思うと、どうも気分が悪くてね」
「へぇ、どんな奴が買うってんだ?」
「昨日の話だと、大企業の社長って言ってたな」
「――なるほどね。確かに社長クラスになる人間からしたら、後継者には優秀な人間を抜擢したいだろうな。――それが金で解決できるなら、早いもんだ。三千万で天才を買うか……世の中も変わっちまったな」
「人間が人間を作って売るなんてどうかしてるよ」
「まぁな。しかし、本当にそれが事実なら日本はこれから変わってくれるのかもな」
「そんな時代間違っている。考えてみろ。優秀なクローン人間だけで満ち溢れた世界が来てしまったら、それ以外の人間はどうすりゃいいってんだ? お前は天才達に軽蔑されてもいいってのかい?」
「まぁ、そんな時代が到来した頃には、俺達は死んでるだろうに。遠い先の話さ」
「兎に角、アイツらは絶対に詐欺まがいの事をしているに違いないんだ。俺は絶対にあいつ等の嘘を証明してみせる」
「物好きな奴だな。しかし……一体どうやって嘘を暴くっていうんだい? 言っておくが、そいつらの言ったクローン技術ってのは実際に存在している技術だ。お前は、その変な会社が売っている商品を否定している用だが、有り得ない事では無い事を頭に入れておいた方がいいぞ。アインシュタインの脳は、米国で冷凍保存されているという話は、すでにたいていの人間が知っている事だ。その話から踏まえて、そいつ等の言っている事は強ち間違っている事じゃない」
山地は、スーツのポケットから煙草を取り出し、吹かし始める。
私はそこからしばらくの間黙りこんだ。
「山地――力を貸してくれないか。お前なら、なんとか出来るだろう?」
「無茶言うなよ。さっきも言ったけど放っておけばいいんだよ」
「それが出来ないからこうやって意見を求めているんじゃないか。話術には話術……年収800万のセールスマンだったお前なら絶対にあいつ等なんかに言い負けるものか」
「おい。大きな声で人の年収言ってんじゃない」
友人は赤面顔で、私の口を塞いだ。
彼は周囲に居る会社員達に聴こえていまいかと、きょろきょろ店内を見回した後、苛立たしげに、頭髪をかきむしり、小さく顎を引くのだった。
どうやら協力してくれるらしい。
私はここで山地にある提案をすることにした。
悪徳商法で、莫大な金を得ようとするあの黒会社を倒す為にはそれなり知識がいる。
私は山地にクローン技術と遺伝子学、アインシュタインの脳の保存されていた場所について調査して貰うように依頼した。
それだけではまだ足りぬ。
私は更に提案を続ける。
「山地。こういう作戦はどうだい? 彼らの真似をするというのは?」
「マネ? 一体なんのさ?」
「俺達が彼らの会社の名前を使ってただの赤ん坊を、天才と謳って販売しているところを撮影した動画をネット上に流すんだ」
「そんな事して、なんになるんだ」
「いいか。奴らは番組を一回だけ流した後、すぐに動画を削除するんだ。そして購入者を絞りこむっていう手法で、詐欺を働いている。この手口を利用するすべは無いだろう」
「成程ね。奴らの会社が作った通販番組を俺達がそのまま真似して、普通の乳児を天才と謳って販売する動画を作ってインターネット上に流す。正し、削除はしないってことだな。そうすれば、いつかは警察の目に留まって、彼らは御用ってわけだ」
「中々、いい考えだとは思わないかい?」
「いい考えだとは思うが、それなら直接、警察に通報すればいい話だが」
「そんな話信じて貰えるものか。警察は事件が起こってからでしか動かない。だが、例の会社が公になる事はまずないだろう。だから俺達がなんとかするんだ」
「だが、赤ん坊はどうする?」
「山地……何か忘れていないか?」
彼は一寸の間、黙った後、双眼を大きく見開く。あっ――と何かを思い出すかの如く彼は口を大きく開いた。
「お前まさか、エミを利用しようってのか?」
山地が動揺の色を浮かべる。彼は三か月前に子宝を授かった。エミというのがそれだ。
「そのまさかだ。丁度昨夜見た赤ん坊も、お前んとこのエミちゃんの様な風貌だった」
「――エミを動画に……いやしかし……」
山地は苦渋している。
「ただ眠って貰うだけでいいんだ。後はお前は適当な話術を披露し、昨日メモしたあの会社の電話番号を流す。それであの会社はオジャンだ」
そう言って、私は友人の肩を叩く。全てはあの悪徳業社を豚箱に入れる為に。
山地は、それから渋渋納得して顎を引いたのだった。
◇◆
翌日、私は山地とエミを自宅に招いて、二日前に見たインターネット番組をそっくりそのままコピーしたかのような動画を撮影することに成功した。
私は友人に心底感謝した。
友人を自宅で見送った後、私は部屋の中で撮影した動画をパソコンで編集していた。夜も更けようというのに、電気も点ける事を忘れ、私は無我夢中で画面から漏れる仄かな光を見据えていた。画面の中で山地は、愛する娘を天才だと称し、自慢の語り口を披露している。彼の語り口に耳を傾けていると、本当にエミが、アインシュタインの遺伝子から作られた乳児だと錯覚してしまうほどである。
動画に電話番号が表示されるように編集した後、サイトに投稿し終えた私は、何かを成し遂げたかのような満足感に満たされていた。
全てが終わる。
そう確信した。
私は、パソコンの電源を落とし自宅のクローゼットに眠る鞄を取り出す。
全ての準備が整った。私は逃亡するのだ。この部屋を捨てて。
荷物を鞄に詰め込んだ私は、喉元から遡ってくる笑い声を必死に抑えながら、部屋を飛び出た。
〔3〕
三日後、銀行口座には見た事も無い数字が記載されていた。三千万という大金が私の口座に振り込まれている。これで、私は海外にでも逃亡することが出来る。
全ては策略だったのだ。
私はあの番組を見て、友人を利用しようと考えた。
山地の話術と娘を利用して、あの悪徳会社が作った番組をそっくりそのままコピーする。しかし、その撮影された動画に表示させるのは会社の電話番号ではなく私の電話番号だ。
そして、その動画を鵜呑みにした一部の視聴者からの電話を私の携帯へと繋ぎ、金の振込先を私の口座に指定するのだ。勿論こちらから商品を渡す事など決してしない。全てはあの会社を利用した企みである。いや、あの会社は本当は実在していないのだろう。
こうして私は莫大な金を手にすることが出来た。
金を手に入れた後は、あの動画を削除すればいいだけの事。
だが、動画を視聴したたった一握りの人間達が、私の様にこの手口を利用して金を手に入れようとするかもしれぬ。――無論、このトリックに気がつければの話だが。
それにしても、あの動画の発端は誰なのだろう。この悪夢の様な輪廻を生み出したのは誰なのだろう? 私はふいに疑問に思った。
所詮、私には関係のない事だ。
銀行を出て、人気のない公園の前を通り掛った時、私は空を見上げ、高らかに嗤った。〔了〕