23:永遠の敗者
変な夢を見た。でもそれは夢じゃない。確かにあった会話なのだと時間泥棒は考える。目覚めるままにぼうっと見つめる先には覗き込む顔。可憐な少女の顔が綻んだ。
「起きた?クロシェット」
「……マキナ?俺……どのくらい寝てた?」
「嫌ねクロシェット、そんなこと私達には関係ない事よ」
窓の外。夕日はまだ燃えている。そうだ。この街は夕暮れの街……煉獄に飲み込まれたのだ。
「ねぇクロシェット。私達の街を見て歩かない?新しい仲間に挨拶をしに行きましょう」
「なんだか嬉しそうだね、マキナ」
「いや……なんだかこういうのって良いなぁって」
「こういうの?」
嬉しそうに笑う鳩時計。その理由を考えた時、少年は自分の姿を省み叫ぶ。
「ひ、膝枕!?」
「目覚まし時計って憧れてたの!」
鳩時計の柔らかな太腿に頭を乗せられている、その事実に時間泥棒は顔を耳まで紅潮させるが、鳩時計はうっとりと別のことを口にした。
「え……?」
「いや、あのね、だってね……ほら、私が誰かの寝顔を見守って、目覚める瞬間を見つめるのって目覚まし時計みたいじゃない?今の私はクッククスアーじゃなくてデスペルタドールなんだわ!」
他者の存在で自己を認識する、することができる幸福を、鳩時計は熱く語る。そんな調子の鳩時計は、本物の女の子のようで時間泥棒も苦笑し相づちを打った。
「そうか、いいなそういうの」
「でしょ!?流石私のクロシェット!話が分かる!!」
「僕も、いや俺も……いつも街を起こしてばかりで、誰かに起こして貰うのってなかったから、何だか嬉しいよ」
「クロシェット……」
「ギルド街でも行こうか?彼処は時計がいっぱいある。君の仲間の鳩時計もいるかもしれない」
「浮気は駄目よクロシェットー!!」
「はいはい」
「あー、流した!絶対流したー!!くすん……私の駒鳥は私が想っているより私を想ってくれていないのね」
「そ、そうは言ってないだろ」
「じゃあ……ちょうだい」
「はい?」
「何か、目に見える形が欲しいなぁ。私と貴方の永遠を形にした物が」
「え、えっと……」
鳩時計の流し目は此方を誘っているように色っぽい。少女に迫られ少年は、しどろもどろになる程動揺し出す。すっかり鳩時計のペースだ。
(確かにずっと一緒にいるとは言ったけど……)
今更ながらプロポーズと大差ない約束だと気付き、時間泥棒は絶句する。鳩時計が嫌いなわけでは勿論ないし、明るく楽しい彼女と一緒なら、これから過ごす時間が幸せな物になるだろうことは確実。断る理由はない。そう思うのに、胸の奥が軋むのだ。酷く、申し訳ないような気分になるのは何故だろう。そう思うこと自体、烏滸がましい……許されないのだから、思わなければいいのに。感じるのは、何とも形容しがたい感情だ。
少年の顔色が変わったことに気付いた鳩時計は、悲しそうに目を伏せてから、にっこりとぎこちない笑顔を作る。
「あのねクロシェット、私は時計でしょ?だから出来ないことが二つあるの」
「……マキナ?」
「一つは子孫を残すこと。当然よね、私人間じゃないもの。愛することは出来ても形は何も残せない。時計だもんね、仕方ないわ」
無理に明るく語ろうとする彼女の姿は痛々しい。言葉が態度が挙動一つ一つが全身で、私を愛してと訴えかけてくる。
「もう一つはね……何だと思う?」
「ま、マキナっ!」
「ほら、私の時計……おかしくなるんだよ。こうして貴方に触られると」
掴まれた手を胸まで運び、鳩時計は自身の鼓動を聞かせて笑う。
「私は時計。だけど私には生きた心がある。だからもう一つは……誰でも愛せる訳じゃないってことなの。自信もってよクロシェット。私は貴方を愛しているの。貴方が好き……」
「マキナ……」
「貴方は?」
今度は自分の手を伸ばし、少年の心臓のあった場所に鳩時計は触れる。両目一杯に涙を浮かべて詰め寄る少女に、時間泥棒の時計も狂い出す。胸の秒針はカチコチと、激しく鼓動を刻む……はずだった。
「あ、そうだった。貴方の心臓……ここにはまだないのね。取り返しに行かないと」
「えっ……俺はもう時計になったんじゃなかったの?」
「貴方の心臓は、金時計。あれが裏返ることはないから金貨卿を殺すには、ちょっと段階を踏む必要があるわね。そのためにもギルド街に行くのは確かに有りだわ。それじゃ出掛けましょクロシェット!」
「うわ、うん!」
鳩時計に手を引かれるまま、時間泥棒は時計塔の階段を駆け下りる。
「階段、壊れてるね」
「あら?老朽化してるって本当だったのね。でも私達時計には関係ないわね。さ、掴まって」
鳩時計は少年を抱き上げると、近場の窓から翼を広げ羽ばたいた。
「ねぇクロシェット。ギルド街って色んなギルドがあるんでしょ?私行ったことないから気になるわ」
「俺もあんまり詳しくは無いけど、案内くらいなら出来ると思う。どこに行きたい?……って俺達買い物出来るの?」
「ここは煉獄化したから問題ないわ。時計達への挨拶と時間潰しに色々立ち寄りましょう!」
人間が機械になり働き、時計が自由に暮らす街。裏返った世界での新しい人生は、割と普通の生活。それでも時計は病気もなければ金銭も必要ない。欲しい物は欲しいだけ人間に作らせればいい。誰も傷付かないし、泣かない世界。自由と永遠が約束された街。
(どうしてもっと早く、こうならなかったんだろうか)
父さんも母さんも僕も時計だったら、あんな事にはならなかったのに。幸せな街にあり、それでも寂しさを覚えるのは……もう二度と、死んでしまった両親には会えないからか。二人は時計ではない。こうして生き返ることもない。その寂しさを埋めるように、この子を愛しても良いのだろうか?少年は自らに問いかける。
その傍ら、鳩時計はほっと安堵の息を吐いていた。あの場に留まるのは得策ではない。いつ歌姫が戻ってくるか。
(人間なんかには追い着かれないけど、クロシェットの心臓を先に奪われたら事だわ。そうなったら一度は会わなきゃならなくなる。あの子が生きている内に)
出来ることなら時間泥棒と歌姫を引き合わせたくない。少なくとも私への愛がそれを上回るまでは会わせられない。どうすればもっと愛して貰えるか。鳩時計も考えて、ある店の前に舞い降りる。
「クロシェット、洋服見ない?」
「服?」
「私が貴方の分も見てあげる!それ普段着なのかもしれないけど、何時までも死装束じゃ困るでしょ?」
*
(な、なんだ……なんなんだこれは)
時計工トゥールは突然のことに腰を抜かし、唯呆然とそれを見ていた。ギルドの中から時計が消えた。盗難事件かを思い辺りを探させれば怪しい奴らが見つかった。連中は一見人のよう。それでも顔が文字盤というふざけた出で立ち。
「ふざけた仮面付けやがって!うちの商品を何処に隠した!」
とそれを剥がそうとした従業員。彼はその文字盤人間に頭突き……いや、あれは違う。あれはキスだ。キスをされた。
「お、おい!しっかりしろ!」
倒れた従業員はそのまま動かない。代わりに文字盤人間は、文字盤を剥がしたわけでもないのにそこに今度は顔がある。
「トゥール親方!あ、あああああ!あれ、見て下さい!」
「何?……うわぁっっ!!」
時計工は、抱え起こした従業員を放り出す。何故なら彼の顔に今度は文字盤。微動だにしないまま、殺されたようにだらりと手足を投げ出して彼は倒れ伏す。
「ぎゃあああああ!」
「うわああああああああ!」
「助けて!誰かっ!!」
扉から窓から、あるものは間違えクローゼットへ。あまりのことに従業員達は散り散りに、逃げだしていく。その後ろを文字盤顔の人間達が追いかけていく。動かなかったのが幸いだったのか、時計工だけがその場に残された。
窓の外を窺えば、あちこちから悲鳴。今と同じ現象が起こっているのか、微動だにしない文字盤を移された人々がギルド街中に幾人も倒れているのが見える。
(そ、そうだ!あいつらは……)
状況が飲み込めていないが、危機感だけはある。不安になったのは家族のことだ。家には妻と娘がいる。彼女たちにも危険が迫っているかも知れない。恐る恐る扉に手をかけると、そこにはにたにたと笑う者が居る。今は人の顔をした、一番最初の文字盤人間。それの顔を良く見てみると、それは家で待っているはずの妻の顔。
「貴方のお屋敷には沢山時計がありますからね。早く帰った方が良いですよ。奥様とステラお嬢様のためにも」
「お、お前は何者だ!?」
「私は貴方の時計です。ご主人様は聡明ですもの、手っ取り早い説明のために先程の方に口付けました」
指を差されて気が付いた。手首に巻いていた腕時計が消えている。
「おい」
「時計をお連れにならないと、今の街は危険です。さ、私とご一緒に」
自称腕時計と腕を組み、街を進んでみて解るが、こうしていると他の時計が襲って来ない。道すがら小声で聞いたが、あの文字盤人間共は皆時計であるらしい。
「端的に申し上げますと、トゥール様。貴方は命を狙われています」
「俺が?誰に?」
そんなヘマはしない。ちゃんと後腐れなく終わらせて来たと答えれば、腕時計はくすくす笑い首を横へと振ってみせる。
「ええ。ですからこのような形になったのでしょう。貴方を殺したがっているのは時間泥棒。クロシェット君……いえ、クロシェット=パーペチュアル様と申す方です」
「クロシェット……パーペチュアル?」
その何は聞き覚えがある。苗字はもう嫌になるくらい……何度も聞いた友人の姓だ。それに……その子の名前は。
「クロシェット、だと!?」
友人を殺した後、何処を探しても見つからなかった少年の名だ。まさか彼が時間泥棒だったなんて。亡骸の顔をみたはずだ。仕留める協力もしたはずだ。それなのに、俺はこの手で……
「ふっ……はははははっ!!」
見誤るとは。己が求めた宝を、この手で壊してしまっていたとは。
「トゥール様、あまり大声を出すと気付かれてしまいます」
「ええい!これが笑わずにいられるものか!!」
半ば錯乱した意識の中、時計工は思い出していた。時間泥棒を捕らえた夜のこと……
*
(時計の価値も解らぬ俗物が)
しかし時間泥棒を捕らえ、金時計を取り戻すまでこの男とは手が切れない。いや、それからだって。この男は街一番の富豪であり、大のお得意様なのだ。
「クロノメーカー、お前の時計の様子を見てくれ」
「はい」
「今回の時計もなかなかの物だが、夜間は使えないのが問題だな」
「日光時計はお気に召しませんでしたか?夜間は月の光、曇りの日はぜんまいでカバーできるよう取り図りましたが」
「それでは永久機関とは呼べないよ。太陽がなくなったらお前の時計はお終いだ。ああ、あの金時計は……まだ私の手に戻らぬものか忌々しい時間泥棒め」
「はっ、その件はその手のギルドにも手配をしておきました。まもなく……貴方の御手にあれは、必ずや戻って参ります」
「ふむ、期待しておるぞ」
あの晩、俺は大富豪の屋敷にいた。あの日も時計の点検を頼まれたのだ。晩餐に歓待され、部屋まで用意して頂いた。酔いも回ってきたし、ありがたくその申し出を受けることにしたのだ。
「ほぅ……また増えましたね、ピエスドール様」
「解るかクロノメーカー」
大富豪は最高の時計を欲しがるが、新しい時計を手に入れるとこれまでの時計は壊してしまう。だから屋敷に時計は常に一つしかない。ならば、その広い屋敷に何を飾るか。面白いことにそれは銃。ピエスドールは武器の収集を趣味としているらしい。
「街の治安を、あの時計を取り戻すためにも武器は必要。今回の働きの例だ、好きな物を譲ろう。それで、腕の方はどうなのだ?」
「可もなく、不可もなくと言ったところで」
「なるほど、それなりにやれるようだな。それは良い。その内狩りにでも付き合ってもらおうか」
「御意。それまで腕を磨いておきます」
「はっはっは、それは楽しみだ」
与えられた客室に戻ってしばらく。夜も更け、街に静けさが戻った時間。突然屋敷内に火が灯るよう、声が上がった。
「何事だ?」
「時間泥棒だ!!撃て!撃てっ!!」
警備兵が盗人に発砲したのか、しかし興奮のためかどいつも狙いが定まらない。
「っち……貸せ」
目の前で時間泥棒を逃したと知れば、大富豪に何年嫌味を言われるか。警備兵から銃を奪って、俺は舌打ちながらに引き金を引く。破裂音の後、遠くで金貨の散らばる音。
時間泥棒が金貨を盗むか?唯のこそ泥ではないのか?訝しみながらも少しずらしてまた発砲。向こうでこそ泥が倒れる音。どうやら足に当たったようだ。
銃を構えてその場に急ぐがもういない。この足の速さは本物か。時間泥棒が盗みに入るとは。
(いや、しかし)
逃亡者の居場所を教えるように金貨と血痕が屋敷の外まで続いている。あの足では遠くまで逃げられないだろう。急げば急ぐほど、負担がかかって動けなくなる。
「時間泥棒はこっちだ!ぐずぐずするなよ!」
警備兵を引き連れて、俺は道しるべを辿る。金貨の袋……その中身の半分以上が零れたことにも気付いていないのか。痛みを押し殺し、ただ何処かへとその子供は歩いていく。足からダラダラと鮮血を流しながらも踏ん張って、地面を蹴って前へと進む。
「だが、こちらも商売なんだ」
もう一発。もう片方の足を狙った。勿論外さない。薄暗い路地裏とは言え距離は縮めた。相手の姿は見えている。
一発くれてやれば、悲鳴も上げずに彼はそのばにすっ転ぶ。こうなれば兵士達も気が強くなり、手柄を我先にと俺を追い越し走り出す。
「ようやく捕まえたぞ時間泥棒!」
「よくも今まで俺達を馬鹿にしてくれたな!」
「お前を逃した所為で俺の親友があの男に殺されたんだっ!」
優先すべきは時計、生死は問わない。日頃の怨みを晴らすべく、彼らは彼を殴る蹴る。それでも彼は金時計を離さない。私刑は次第にエスカレート。骨を折る、腕を撃つ。いやそれ以上のことをした。それを言うには、筆舌尽くしがたい。流石に私も時間泥棒を哀れんだくらいだ。胸を射られて血を流す様は、さながら駒鳥のよう。しかし急所は外したのか、まだ息がある。だが、もう意識を手放す寸前なのか、周りの景色もよく見えていない様子。此方の顔も彼にはにんしきできていないだろう。
「っち、お前らそこをどけ」
いつまで経っても時計を取り戻せない兵士共に手柄をやるのも癪だと俺は前へと進み出る。不思議と誰もそれを咎めなかった。彼らは恐怖していたのだ。あまりに無力で小さな少年。しかしどんな暴力にも時計を渡さぬ彼の底知れぬその精神に。
俺自身、彼の顔を直視できなかった。その二つの瞳からは禍々しいほどの殺意を感じる。それが彼の途切れそうな意識をここに繋いでいるのだ。彼は無力、それなのに……目を合わせたら殺されそうな気がする。そう思ったのは俺だけではないだろう。
「悪く思うな、あの方を敵に回したお前が悪いのだ」
少年の額に押し付けた銃。一思いに楽にしてやろうとその引き金を引いた。それだけで時間泥棒は、呆気なく事切れる。これまで抗ってきたこと全てが無駄になるくらい……そう、本当に呆気なかった。鬼のように足が速くても、化け物じゃない。唯の人間だったのだ。ちゃんと人の手で殺せる人間だった。それを理解し俺もようやく、正面から彼と目を合わせることが出来る。見開かれた二つの目。頭から流れ落ちる血に、彼の瞳が赤く染まった。
血の涙を流すよう、その子は俺を、世界を睨み付けていた。
「……何?」
俺がぞっとしたのはその表情ではない。彼の左手を見て。事切れた時間泥棒。それでも彼は金時計を離さなかった。唯の人間がここまで悪意に抗ったのだ。その事実が俺は恐ろしかった。死体に手を加える事なんて恐ろしくて出来なかったが、兵士達は違うらしい。時間泥棒という脅威が去った今、恐ろしいのは大富豪。彼の機嫌を損ねて処刑される方が怖いようで、辺りの民家から鋸や斧を持ってくる。
「死後硬直する前に、腕を切り落とすんだ!そうすりゃいくら何でも手放すだろう!最悪腕ごと持って行けばいい!」
勢いよく振り上げられた凶器。それが少年の腕に何度か打ち下ろされる。何度目でそれは彼の手から離れただろう。覚えていない。それでもあの、打ち付けられる凶器の音が耳にこびり付いて離れない。
(だが、これでようやく……)
ピエスドールのご機嫌伺いも必要ない。俺は俺の仕事に打ち込める。人捜しギルドだけでは埒があかない。クロシェット少年を捜すために、大富豪も兵を貸してくれるという。これで彼は追い詰めたも同然だ。天涯孤独となった少年をうちの養子として迎えよう。そしてゆくゆくはうちの娘と結婚させて、俺の後を継がせるのだ。
肩の荷が下りた気がした。友人を殺してでも求めた才能に、もう手が触れている。もう少しでそれは俺の手の中に落ちてくる。
(まもなくだ、俺は……歴史に名を残す男になるのだ)
心を震わせたところで、兵士が俺の肩を叩いた。どいつもこいつも泣きそうな顔。再び時間泥棒を恐れ出したのか?
「トゥール様ぁ、まだこれ取れません」
「まったく、貸してみろ」
もう一度少年の亡骸を振り返る。今度は安らかな気持ちでそれを見送ることが出来た。それでも少年はまだ此方を睨んでいる。
(悪く思うな、元は時間を盗んだ貴様が悪い)
せめてもの情けに俺は彼の目を伏せてやる。それ以上のことなど出来ない。義理もない。同じような人間が現れぬよう、見せしめが必要だ。時間泥棒の末路は街の人間全ての知るところにならなければ。そのために、これらの暴行は必要なことだったのだ。そう自らに言い聞かせた時だ。ゆっくりと少年の手が開く。力なく伸びた掌から、光り輝く金時計が転がり落ちた。
嗚呼、なんと美しい時計だ。改めてそう思う。一度はあの日、あいつの工房で見たのに。夜が明け顔を出した朝日を受けて、金時計は光り輝く。太陽の力など必要とせず、それでも永遠の時を刻みながら……事切れた少年の手を離れ、カチコチと……尚も鼓動を刻み続ける。手柄を得ようと集まった兵士共も、時計の美しさに見惚れ、あまりの神々しさに萎縮して、誰も手を伸ばせない。そうだ。この時計は俺を待っていた。朝日を反射し光る時計を手に取った俺は、友の名を口にしていた。
「クワルツ……」
お前の時計は美しいな。本当に……あのお前が、よくもここまで。こんな素晴らしい時計を作り上げたものだ。お前には敵わない。お前を殺してしまった以上、お前に俺が勝てる日は来ない。お前は永遠の勝者だ。俺は永遠の敗者だ。そう思うと悔しさ以上に悲しくて、なんだか無性に寂しくて……俺は朝日を背に受け涙した。
(クロシェットは、俺に任せておけ)
この朝日に誓おう。俺は自分の名声のためだけじゃない。お前への贖罪に、俺はあの子を慈しもう。お前の代わりに……心の底からそう思うよ。そう、思ったんだ。
(そう、思ったのに)
父ちゃんのライバル回。今回は自分の求めた者を、自分の手で殺してしまったことに気付かない、愚かな男のお話でした。
彼のことも歌にしたいんだけどね(新しい男ボカロ買わないと作れないorz)。




