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21:晩鐘を鳴らす影

 時計は見ていた。指輪時計は見ていた。一人の男に作られて、一人の女に贈られた。男がどれだけの情熱を愛を、その指輪に込めたかを知っている。


(ソネットには、嘘を言ってしまった)


 でもその方が良い。指輪時計はそう思う。何も彼女の株を下げる必要はない。あの人にはいつまでも綺麗なままでいて欲しい。彼女の姿をした自分が、彼女の評価を下げるわけにはいかないのだから。だから彼女の娘の前では、良い母親の顔をしていたい。それがあの人の望みだろうから。


(そう……私は嘘を吐いた。私が愛しているのは……)


 時計工などではない。思い人は、この姿を借りた歌姫。赤いドレスの美しい人。ある時点での指輪時計は、時計工クワルツ=パーペチュアルの分身と言っても良い。時計工が時計作りに注いだ感情を注ぎ込まれて、指輪時計は生を受けた。

 美しい彼女に最も相応しい時計だと自分を誇り自負していた。それは美しい歌姫が……落ちぶれて貧困と病に苦しめられた時でさえ。自分は彼女に似合う時計であるし、彼女は今でも美しいと指輪時計は主のことを誇っていた。

 これまで美しさと歌だけを武器に、歌だけ歌って生きてきた。そんな歌姫が娘と共に生きていくのはなかなか難しいことで……今更、子連れの女に貢ぐ男など居ない。素晴らしい名声を誇った彼女も、母になることで……歌姫としての価値を失ったのだ。やがては生活のために、身を飾る宝石やドレスを彼女は売った。


(それでもあの人は、私を手放さなかった)


 それはまだ、時計工を愛していると言うこと。だけど身につけなくなった。借金取りに見つかれば、持って行かれてしまうから。

 指輪時計はそれを愛と考えた。時計工への愛、そして宝物である指輪時計への愛であると。


(そうだ。あの人は私のことも愛してくれていた)


 愛していても、一緒には暮らせない男。その男から贈られた時計は、何時しか歌姫には愛する人に見えていたのではないだろうか?少なくとも愛の証だ。二人がまだ思い合っている証拠。それが自分なのだと時計は思う。

 私は歌姫ソヌリを愛する男に作られた。しかし、ここで時計工と指輪時計は分かれたのだ。妻と離れ、息子を溺愛した時計工と……息子と離れ、娘と妻の傍にいる指輪時計とに。元は一人の男が、時計に心を分け与えた。愛情込めて作り上げた時計には、心が、魂が宿った。それが指輪時計の生のはじまり。


 最初から彼女が愛おしい。それでもソヌリの傍にいることで、ますます彼女が好きになる。

 その内に私は、彼女と同じ物になりたいと思うようになった。彼女の何から何まで愛しいのだ。時計塔からあの歌が聞こえた時、頭の中に思い浮かんだのは愛しい歌姫の姿。気が付くと私は彼女になっていた。ただ一つ違うことは、私には顔がない。私の顔は文字盤だ。

 指輪時計ははぁと、静かに吐息を漏らす。


(あの人に、会いたい。もう会えないのなら、あの人になりたい)


 それは歌姫ソネットの心に近い。時間泥棒に恋をした彼女は、彼がもう死んでいることを知り……叶わぬ恋なのだと悟った。だから彼女は彼になった。なろうとしたのだ。叶わぬ恋を前に、それをどう受け入れて進んでいくか。これはそういうことなのだ。


(あの人を愛し、あの人を演じる内に私の愛は広がった)


 あの人の心残りを私が果たす。あの人が愛する者を愛して、あの人が憎む物を憎もう。

 身体を手にした指輪時計は、そう考えたのだ。その結果……解ってしまったことがある。


(私は、置いていかれた)


 歌姫ソヌリは入水の時、指輪時計を置いていった。共に壊して死後の世界に連れて行ってはくれなかった。その理由は何故?答えは簡単。

 ソヌリはまだクワルツを愛していた。それでも、クロシェットを死なせる原因を作ったクワルツを許せなかった。そんな男から貰った物を身につけたくないと思った。未練がましく死の淵まで……思い合った証を持ち出せなかった。そのくらい、ソヌリはクワルツを怨んだのだ。


 「私は……私は」


 私は誰なんだろう。あの男によって作られた。あの男が愛した人を愛している。それでもその人を愛しその人になりきることで、私はあの男に対して妙な感情を覚える。私はソヌリなのか、私はクワルツなのか。この姿になってから、より一層解らなくなる。……もっとも、どちらにせよ言えること。それは時間泥棒達が愛しいと言うこと。


(可愛いソネット、可愛いクロシェット……)


 あの子達が不幸になった原因は何?それはうだつの上がらないクワルツの所為ではあるが、決定打となった出来事は……クワルツの死。


(そう、どちらにしても許せない)


 ピエスドールと、トゥール。あの二人は絶対に許せない。そのために、そのために……一つ仕事をしに行こう。

 阿鼻叫喚の街の中、誰かが落としたヴェールで顔を隠す。そうして指輪時計が向かっていくのは教会だった。


 *


(気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪いっ!おかしいわ、こんなの!)


 嗚呼、気持ち悪い。少女は身を掻きむしる。

 歌姫と時間泥棒の恋。歌はそれを賛美する。歌の力に魅せられて、人は彼らを祝福した。


(気持ち悪いわ、あいつらみんなっ!)


 確かに歌声だけなら綺麗だった。それでも旋律がおぞましい言葉を肯定するような働きを持ってはならない。歪な言葉は何時如何なる時も歪んでいるのだ。

 実の兄妹で愛し合った、歌姫と時間泥棒。女同士でありながら仲睦まじい金貸し女王とあの歌姫。常識的に考えて、あり得ない。主だってそんなことを認めては下さらない。今の時代に必要なのは信仰なのだ。人を救うのは金ではない。信仰なのだ。そのために私はこの街に遣わされた。


(それなのに、どうして)


 裁判場、処刑広場から押し寄せる人間。不満をぶつける宛が見つかった。金の魔力に魅入られた者による暴動が起きたのだ。教会を悪と言う金の亡者共に踏み荒らされた教会は、いつかを思い起こす物悲しさ。

 金貸し女王の招いた騒ぎ、そのどさくさで……人々が教会の装飾品やら備蓄やら、何やら持ち出し逃げる。人を憐れみ続けた女司祭も、流石に庇いきれない。人の本質は悪だと息を吐く。


 「静かになさい。神の家を汚すつもりですか」


 少女は天を指差した。私は天に祝福されている。一任されている使命がある。守るべきものがある。天文時計と引き替えに、神から与えられた知識。それは《雀の矢羽》。その知識と材料は、恐ろしいほど莫大な金を生む物だった。

 手に入れて作り出して、それを売る。大富豪が買い占める。もっと良い物を作る、そして売る。大富豪が買い占める。それを他の奴らに売られたら、困るから。革命が起こってしまうから。だから大富豪でさえ、教会の顔色は窺わなければならない。そう、金貸し女王を敵にしたところで、この街は、教会は崩れない!教会とピエスドールの繋がりを絶つことなど出来ないのだ。それを癒着とは呼ばせない。教会は弱きを守るために、交渉で経済で渡り合っているのだから。

 時間泥棒のこめかみを、その手を撃ち抜いた鉛玉。それを発射させる装置。それは本来、この街にはない。まだ、発明されていなかった。


(この時代に銃を持ち込んだのは私)


 外を知らないこの街では、いずれ資源は枯渇する。この街で産業革命が起こらないのはそういう理由。この土地の資源はもう尽きかけているのだ。鉱山も炭坑ももはや掘り尽くした。故に時代は平均的な歴史より遅れ、停滞してしまった。それなのに人々の生活が続いているのは何故か?誰かが供給しているから。それは誰?そう、私よ。生活に必要な金属は、嗜好品の宝石が何処から来るか知っている?それは外から輸入しているとでも思っているの?ふん、馬鹿な奴ら。


 「“悔い改めなさい、斯くも罪深き悪魔の子”」


 鉱物、鉱石、何でもいいわ。銀でも銅でも鉄でも良いの。ルビーもサファイア、ダイアモンドもエメラルド。黄金以外の物なら……そう、何時でも!どの位でも私は瞬時に呼び出せる。けれどそれを滅多に作らないことで、希少価値を付与。貴重な品を金持ちに売り、金を得る。その金で貧しい人々を救う。これで街の平和が築けると、そう思ったのに。理想と現実は食い違うばかり。悪は悪として残り、街は歪に回り続ける。何もないところから突然女司祭が両手に構えた銃に、人々は気付かない。それが発砲されてようやく意識が此方に向いた。


 「……良いでしょう。金に傅く悪人よ、欲しいのなら持って行きなさい。ただしお前も今日から盗人です。何時の日にか悔い改め、神に許しを乞うまで……罪を背負って生きるのです!」


 ここで咎めたところで教会に対するイメージが、更に悪くなるだけ。恩を売りつつ罪悪感を植え付けるのが一番だろう。教会の者にまで気概を加えようとする輩もいたからその牽制だ。今の暴走を放置しておけば、修道士達が襲われかねない。


 「“祈り、働け!そして……死ねっ!”」


 詠唱と言うにはやや物騒。けれど詠唱なのだから仕方がない。これはそういう定義なのだ。

 先程のが、“雀の矢羽”の召喚言葉。今回のが、武装用の銃の大量召喚詠唱だ。

 召喚された銃達は、雀の矢羽に次々と飲み込まれ、巨大な黒い翼のようになる。一部の鉄が溶かされ組み合わされたその翼は、誰も逃さないと言うように愚か者共を凝視している。


 「おおお!聖女様!聖女様!」

 「主からの贈り物だわ!」


 今回女司祭が召喚した銃は修道士達の手にも現れ、自分たちが羊ではないことを人に伝える。

 そして、今度こそ人々は見た。この娘は何もないところから武器を取り出した。あの歌姫達よりよほど恐ろしい。あの翼、まるで悪魔じゃないか。しかしそれを口にすれば……集中砲火を受けるのは自分。教会と女司祭への恐怖から、人々は我先にと逃げだした。



 「“止めどなく流れていく 生は泡沫の夢”……、ふぅ。やっと終わりましたか」


 武器を消す詠唱を終えると、恐る恐る司祭の傍に修道士達が集まった。散らかった教会を


 「聖女様、どうしましょう……教会が」

 「掃除は明日にしましょう。大丈夫です。これ以上悪いことは起きませんよ、安心なさい。教会には私がついています」


 暴動におびえる修道士を宥め、少女は優しく微笑んだ。強がりだがそれをそうと気付く者は傍には居らず、皆が聖女の精神力を讃えるばかり。そんな賛美の声を受け止めきれず、女司祭は人から離れた。

 何時からだろう。弱音も吐けなくなった。吐く相手も聞いてくれる人も居ない。そんな人は……自分を拾ってくれたシスターと、それから……


 「主よ……」


 少女は天に思いを馳せる。もう日が暮れかかった街時計。どうしたらここに永遠を築けるのかが解らない。


(これからどうしたものかしら)


 女司祭は肩を落とす。自分は正論を言ったつもりだ。何一つ間違ったことは言っていない。それなのに何故、報われないのか。


(世の中お金?いいえ、違うわ!)


 そんなはずがないと、少女は首を振る。


 「主よ……我らを憐れみ下さい」


 私は神を知っている。外の世界を私は知っている。外には全てがあり、そこには何もなかった。唯全知全能の神だけがそこにいた。

 その人は私の時計が欲しいと言った。別の街にその時計は必要なのだと言ってくださった。代わりに彼は、私にこの街を立て直すための力をくれた。


 「何……?」


 遠くから、鐘の音がする。あの時計塔はもう使われていないのに。歌姫が懲りずに鐘を鳴らしに行った?いいや、変だ。もっと近くからも聞こえる。少し遅れて、教会の鐘も鳴っている。夕刻を告げる回数を超えても、教会の鐘が止まらない。


 「一体誰が……?」


 鐘に呼ばれるように、女司祭は階段を上った。鐘を鳴らせる場所まで来たが、そこには誰もいない。今日は風が強いのか?そう思ったが、風の音など聞こえない。金色の鐘は一人で揺れている。誰にも紐を引かれることなく、鳴っている。


 「きゃあっ……!」


 突如起こった突風に、女司祭は目を伏せる。その最中、鐘が止まった。何故だろう。鐘が鳴っていたときよりも、今の静寂の方が何故か恐ろしく思える。


 《約束》

 《うん、約束》


 それは幻聴。夕暮れに差し込む光が見せる幻影。音が起こした遠い記憶だ。

 幼い子供達が笑う声。二つの黒い影が手を放す。またねと二人は手を振った。長い髪をリボンで結った小さな少女。その姿に女司祭は覚えがある。昔、お気に入りだったブラウスとスカート。


(え?あれは……私?)


 それなら手を振るあの子は誰?帽子を被った男の子。別れ際、女の子は彼から何かを貰った。


 《うわぁ!凄い!凄い!綺麗!綺麗!》

 《誕生日だって、聞いたから》


 貰ったのは首飾り。それは十二宮と時間を刻んだ星時計。指し示す針は十字架で、飾りとしても……美しい。父は腕時計しか作らない。それでも時計はこんなにも、自由で変幻自在で……何でもありだったのか。好きな物を時計にすればいい。時計に組み込めばいい。それが、発明と言う物なのだ。彼からの贈り物に……その女の子は思った。私も時計を作ってみたいって。


 《ありがとう!今度は私が……いつか貴方に時計を贈るから》


 負けたくないと思ったの。お父様が貴方のお父さんを好敵手と認めるように、私も貴方を生涯のライバルだとその時思った。父様が貴方の父さんに勝てないのなら、私が貴方を打ち負かす!その逆なら返り討ちにしてあげる!親の無念を子が晴らすのよ!それってとても胸が高鳴る。私が針になる。世界が文字盤になりぐるぐると回り始めた。二人で腕の良い時計工になろう。そして生涯競い合って素晴らしい時計を作っていこうと……


(そうだ、私は……)


 女司祭は懐を探る。そこから、古びた十字架時計が見つかった。それは星時計。シスターの形見に貰った時計。いつも懐かしかった。彼女が傍にいてくれるような気がして。けれど違う。私はこの時計を一度……無くしたのだ。


(奪われたんだ、父様に)


 父と不仲になった理由の一つがそれだった。私が虚ろになった原因の一つでもある。だけど随分と昔のことだから忘れていた。ああ、でも思い出した!覚えてる!何も無いところから何かは生まれない。これを見て、私はヒントを貰い……天文時計を作ったんだ。それは私の才能じゃない。この子の、力。私は勝負する前から、彼に敗北していた。解っていたのかもしれない。だから記憶の中の少女は笑っている。自分の上を行く存在に、魅せられた目をして……


(父様の望み通りに、じゃない)


 可愛く綺麗に着飾って、彼を私の虜にする。そしていずれ世に名を残す時計工の妻として、じゃない。共に時計を作り、彼に並び立つ時計工として……もっと彼に近付きたいと思った。時計の力で彼を魅了させたかった。貴方の時計から感じた、このわくわくする気持ち。悔しいから倍にして返してやりたかった。そうだ。好きだったんだと思う。顔も名前も思い出せない、友達のことを。

(時計工になろう……か)


 女司祭は今の自分を省みて、自嘲の笑みを浮かべる。幼い日の夢と、現実の食い違いに呆れてしまったのだ。

 私は何をしているの?どうしてこんな事になったの?何かを忘れている。そんな気がしてならない。何時から?どこから?何を忘れている?どうして私は人を哀れんだ?教会に身を寄せた?それは、悲しいことがあったから。あの子が、殺されたから。でも、あの子って誰?あの子は……彼だ。この幻影の彼だ。それだけは解る。

 でも、逆光のため彼の顔が見えない。思い出せない。今もそう。目の前の景色が、いつかの誰かに重なった。鐘の音。もう一度だけそれは響いた。その音に、心臓が震える。すぐそばで大きな音を聞いたから……その振動が伝わって?


(違う……)


 どくんと、心臓が鳴る。私の中の時計が鳴る。それが怖くて脅えるように、縋るように眼を細める。夕日に照らされた影が、唇だけで笑みを作った。その唇が何かを言った。辛うじて見える唇の動き。それは……


(“ステラ”?)


 言葉の推測を立てたところで、彼らが再び喋り出す。


 《ばいばい、アストラ》

 《また遊ぼうね!あ……でも、今度からはステラって呼んでね!みんなそう呼んでくれるの》


 もう友達なんだからと、女の子ははにかんだ。彼とはライバルだけど友達なのだ。二人は父親達から時計作りを禁じられている。でもそれは恋と同じ。禁じられれば禁じられるほど、情熱とは燃え上がる物。


 《解った。約束する》

 《うん、約束ね!そうだ……貴方の愛称は?》

 《愛称?……無いと思う。だって頑張って略しても精々クロトだろ?女神様の名前なんて嫌だよ。僕男だもん》


 その言い草には女司祭も呆れてしまった。だから自然と微笑を浮かべてしまう。そして唇が開き、彼を呼ぶ。


 《もう!クロシェットったら》(もう、クロシェットったら)


 過去の自分と今の自分の声が重なる。飛び出た言葉に驚いた。その名は、あの歌姫が口にした……憎き時間泥棒の物。


 「クロシェット!?」


 始めて自分で口にして、その単語がすんなりと溶け込んだ。何度も口にしたことがあるような、口がその形を覚えている。彼の名前を形作ることを。

 クロシェット=パーペチュアル。それが時間泥棒の名前。その名を聞いて、女司祭はぞっとした。


(クロシェット……貴方が時間泥棒だったなんて)


 そうだ、思い出した。昔一緒に遊んだ幼なじみ。父の親友の子供の彼が……確かそんな名前だった。何度か父親に連れられて、屋敷に遊びに来たことがある。名前を聞いて思い出した。父とその人はある時を境に疎遠になって……それっきり。


(父様は、彼のことを褒めていた)


 彼のような跡継ぎが欲しかったって。別に彼が嫌いとかそういうわけじゃないけれど、嫌な気持ちになったのはよく覚えている。

 工房を見た彼は、自分の家とは違うとはしゃいだ。彼は時計が好きらしい。それに気をよくした父は、彼に時計作りを教えようとした。だけどそこで、彼の父親が大声を上げたんだ。

 「この子は僕のようにはさせない」って。

 時間泥棒。奴がそう名乗ってからという物、感じていた違和感、恐ろしさ。それが解った。


(私がこの街時計に来た、理由は……)


 救い主を守るため。その名を騙る奴が許せないと思ったけれど……彼は本当に時間泥棒だったんだ。あの人が待ち望んだ人だったんだ。この影は亡霊。私が死なせた時間泥棒。


(私は、何て事を……)


 守ろうと思えば守れたのに。約束を、自分を守るあまり……彼を見殺しにした。彼の死に安堵した。そんな目で見ないで。昔みたいに私に笑いかけないで!

 涙を流し女司祭は啜り泣く。影は女司祭に近づいて、すっとその手を伸ばした。首でも締める気なのだろうか?そう思って顔を上げれば……何かが見えた。


 「ステラ……」


 私の名前を呼んだのは、落ち着いた様子の男の声。息を呑みながら彼を見つめる。彼は金髪。目深帽子。すらりと伸びた身長は、死んだ時間泥棒よりも大きい。少年ではなく青年だ。何年か後の彼の姿だ。彼は約束通り、私を愛称で呼ぶ。呼ばれて幻は消え……今ある影が振り向いた。夕焼けが燃え、彼の正体を暴く。


 「神、様……?」


 顔がそっくり。声がそっくり。彼の顔から二人の男を思い出し、女司祭は青ざめ震え出す。約束を守るばかりに、大変なことを忘れていた。恐ろしいことをしてしまった。彼は本当に……神様の、子供だったのだ。腰を抜かした女司祭に青年は優しく手を差し伸べて、笑う。笑ったその顔に……今度は顔がなかった。見えたのは鐘。そこに映る自分自身の顔。鏡にキスするように鐘に口付けられた。その刹那、もう一度だけ……ゴーンと響く音が聞こえた。何処かで、晩鐘の鳴る音が。

指輪時計と巫女回。

女司祭ちゃんの掘り下げです。


ネタに困ったら彼女用に作ってなんか広がりすぎた歌から拾えばいいさ。

マザーグースの駒鳥の歌から設定したイメージで描いた絵とか歌詞だったんだけど金貸し女王がああなった以上、何でも有りだな。時間革命で色々変わったんだ事情が。


クロシェットと女司祭の幼なじみ設定を表に出したかっただけの回。

意外と彼、女の子とフラグ立ててたんだね(笑)

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