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第四話


テストが……


あったんで(ry



命ちゃんの笑顔、可愛かったな……。そんなことを思い出していた。オレは何だか気持ちが軽やかだった。


「アンタ、なにニヤニヤしてんのよ」


後ろから頭を叩かれた。振り向くとそこにはよく見知った顔の少女がいた。彼女とは随分昔からの知り合いで、いわゆる『幼なじみ』である。

そんな幼なじみにオレは反論する。


「ニヤニヤなんかしてないって」


「嘘付き。変態オーラが出てた」


「酷い言い種!!」


まあ、いつもこんな感じだから気にしない。ちなみに、彼女の名前は神崎遥香(かんざきはるか)

最早、幼なじみというより腐れ縁と言った方がマシかもしれない。家族ぐるみでの付き合いもあるので、結構遊びに来たりする。


「あー、そういや今日父さんと母さんが帰ってくるけど、ウチ来る?」


オレの両親は共働きで、家にいることはあまりない。しかし、今日は休みのようだ。帰ってきた時はみんなでパーティーみたいなことをする。


「あ、それいいね。行くよ」


「決まりだね」


と、その時。

グッドなタイミングで命ちゃんが現れた。

むしろ空気を読んでいたとしか思えない。


「あ、命ちゃん」


「何ですか? 先輩」


今日、親が帰ってくること、パーティーを開くことを話した。親についての話をした時、彼女の顔に影が指したが……、すぐにいつもの調子に戻った。

……気のせいだったのか?


「で、来る?」


「……暇ですし、行きます」


「決まりだね」


これで来るのは、二人だ。秀明は……、まあ、いいか。

誰も得しないし。



☆ ☆ ☆ ☆ ☆



「ここが……先輩の家ですか?」


「ん、そだよ」


ちなみに、遥香は一旦家に戻ってから来るようだ。

オレはポケットから鍵を取り出し、鍵穴に差し込み、開ける。


「ただいま〜」


「おかえり、翔くん。……って!! 大変!!」


母さんの陽子が出てきた。その母親が眼を見開いてオレと命ちゃんを……、まあ驚いていらっしゃる。


「な、なんだよ」


「翔くんが女の子連れてきたわよ!!」


家の奥の方に叫ぶ母さん。

すると奥から父親である達也がバタバタと音を立てて形相を変えて……、要は驚いていらっしゃる。


「なぁに!? 女だとぅ!?」


「あなた、赤飯用意して!!」


や、やかましい……。

こんな両親でゴメンナサイ。近所名物にもなってます。もちろん、騒音的な意味で。


「……まあ、こんな両親だけど、よろしく頼むよ」


「は、はぁ……」


命ちゃんもだいぶびっくり、いや、引いていた。まあ、そうだろうな。息子のオレすらあのテンションついていけないからな……。


「しかし、めでたいなぁ……。翔一が友達を連れてくるなんてなぁ」


父さんは涙ぐんでいる。まさに男泣き。


「しかも、女の子よ。あなた」


母さんも涙ぐんでいる。

そんなに珍しいでしょうか。オレに友達がいることが。


「って、女ぁ!?」


いきなり大声を出す父さん。それ以前にさっき「女だとぅ!?」とか言っていたような……。

いや、突っ込んだら負けだ。


「……凄い、家族ですね」


「……うん」


オレたちは大きくため息をついた。



☆ ☆ ☆ ☆ ☆



異様な風景、いや、むしろ何だか怖かった。

家族って、こんなのを言うんだろうか?

楽しく笑いあって、学校であったことを話して、じゃれあったりしてみたり……。今、目の前でそれが繰り広げられている。

先輩も、彼の両親も、神崎先輩もみんな楽しそうだった。

……何でだろう? 本当に怖い。


「ちょっと、父さん!! 何でオレの生姜焼きを取るんだよ!!」


「そこに生姜焼きがあるからだ!!」


「理由になってないし!!」


「まあまあ、あなた。わたしのもあげるから」


「おぉ〜、ありがたやありがたや〜」


「じゃあ、あたしは翔一にあげようかな」


「おっ、いいのか。サンキュー」


「それを俺が貰う!!」


「ちょ、取っていくな!!」


「こうして、無限ループが始まるのであった……」


「変なナレーションを入れんな!!」


……生姜焼きでここまで盛り上がるものなのか……。

でも、本当に楽しそう。

だからこそ、怖い。


「ん、どうした。命ちゃん」


気付いたら、私は立っていた。みんなの視線が集まる。

どうしよう……。


「そ、そういえば私、これから用事があるんでした!! お先に失礼します」


「そうか……。じゃ、またな」


屈託なく笑う先輩に少しだけ罪悪感を抱く。

……ごめんなさい。

自分の家族は、こんなに温かくない。こんなの、私は知らない。

怖いよ……。

私はその場から逃げるように走り去った。



☆ ☆ ☆ ☆ ☆



「これは追いかけるべきね」


遥香が頷きながら言った。


「ここで追いかけない奴は男じゃねぇ」


父さんもなんか言っている。

……まあ、その言葉の意味に気付かないほど、オレはニブチンではない。


「あー、そういや学校に教科書忘れた」


我ながら棒読み過ぎる。


「そう、いってらっしゃい」


母さんは笑顔でそう言った。

オレは命ちゃんを追いかけるべく、外に出た。

オレももう少し上手い嘘を言えればなぁ……。

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