8 七名の参加者
バスは徐々に速度を落として、一つ目のサービスエリアに入って行く。俺の肩にもたれかかったまま眠っていた根本遥が、気だるそうに瞼を開けた。
「皆さん、お疲れ様でした。一回目の休憩です。この後、次のサービスエリアまでまた一時間ほど掛かりますから、しっかりと出すものを出しておくこと。そして水分を取り過ぎないように注意すること。それでは二十分後にここで点呼を取りますので、遅れないように元の座席に戻って来てくださいね!」
ドアが開き、秋月令子が降りると、参加者たちは無言でバスを降りていく。息の詰まるような車内から一刻も早く解放されたかったのかも知れない。
「がま口を持って行く?」
俺は根本遥に通路を譲り、首に下げていたがま口を手に取った。
「家のジュースをいくつか持って来たから今はいらない。中のお金は必要経費だから、むしろあんたが自腹で払うのはやめてね」
根本遥は俺に目を合わせた後、参加者たちの座席を確認しながらゆっくりと前に進んだ。
ふうっと溜息を吐き出すと、隣りにいた男性職員の田中忠が俺の背中を軽く叩いた。
「君は根本さんの付き添いだったかな? 参加者のみんなはいろんな問題を抱えている子たちだから、一緒にいると少なからずショックを受けると思う。
だけど、この合宿は誰もが参加できるわけじゃない。ここでの貴重な体験が、いつかきっと君の役に立つ時が来ると思うんだ」
要するに、面倒な事を乗り越えれば、その経験が後々活きてくる――と言いたいのだろう。
俺は憂鬱になりそうな気分を必死にかき消して、早足でバスを降りた。
トイレを済ませた後、人気の無い日陰の縁石に腰を下ろした。休憩の残り時間はあと少しだが、目的のバスは目に見える範囲にある。
俺はできる限り緊張を解してから、白川に電話を掛けた。
『私よ。今、どの辺り?』
「一つ目の休憩で【紀ノ川サービスエリア】に着いた。もうすぐ集合時間だから長くは話せないけど、ここを出て、また一時間後に二度目の休憩がある」
『体調は大丈夫?』
「問題なし。根本遥の様子は今のところ、いつもと変わり無し……かな」
『連絡してくれてありがとう。次の休憩でも連絡は取れそう?』
「たぶん。だけど港に着くとスマホは回収されるみたいだから、返却されるまでしばらく連絡は取れないと思う」
『OK。くれぐれも気をつけてね。それじゃあ、またあとで』
バスの中で、気づかないうちにずっと気を張っていたのかも知れない。白川の声を聞いた途端に、不思議と体が軽くなったような気がした。
「それでは点呼を取ります。呼ばれた人は返事をするか、手を上げてください」
金田龍人くん――
「は~い」
ワンテンポ遅れて気の無い返事が聞こえた。姿は見えないが、声の位置からスマホのゲームに夢中だった金髪少年だろう。
曽我部太くん――
返事は無いが、巨漢の男子がゆっくりと太い腕を上げた。
馳久美子さん――
こちらも返事は無く、マスクをした少女が窓の外を眺めたまま手を上げた。
瀬野賢児くん――
「はい」
ぼそりと小さな声が、先頭左側の座席から聞こえた。乗車する時に少し目が合った、銀縁眼鏡の賢そうな少年だろう。
布引真子さん――
二つ前の右座席から、縮こまった右手が上がった。
根本遥さん――
根本遥は返事をせず、食べかけの棒状スナックを掲げた。
佐藤一くん――
俺も目立ちたくなかったので、そっと手を上げることにした。
「以上七名、参加者全員が揃いました。田中先生もちゃんと後ろにいますね? OK。それでは運転手さん、出発してください」
秋月令子がガイド席に座ると、プシュッと音を響かせてドアが閉まり、再びバスが動き出した。




