5 帰り道
「あんたみたいな魔性の女が二泊三日の孤島合宿に参加したら、参加者たちにどんな影響があるか想像も出来ないわ。フフフ――違う意味で面白いかもね」
根本遥の皮肉めいた返答に、白川は言葉を詰まらせた。小学校時代の苦い思い出が過ったのかも知れない。
「根本さんの言葉には一々棘がある。自分を強く見せるためか悪ぶるためか分からないけど――そこが一番、社会性に欠けているところだと思う」
俺が指摘すると、根本遥は虚を突かれたような顔をして押し黙った。白川は表情を少し和らげて、根本遥に目を向けた。
「要するに、私に合宿に参加してほしくないって言いたいの?」
「……茶化した言い方をして悪かったわ。その通りよ。この合宿で、知らない者同士が自分の悩みを打ち明けあって、打開策を探ったり、自分を見つめ直したりするグループワークがあるの。
完璧美少女にも深刻な悩みはあると思うけど、あんたの存在自体が場を乱す原因になるとは思わない?」
根本遥は大きく息を吐いて頬杖をついた。
「一はどう思う?」
白川は両手を口元で組んだまま、視線を俺に向けた。
「根本さんの意見は……正しいと思う」
俺が正直な感想を言うと、白川はテーブルに突っ伏した。
話を打ち切るように、ピンポーンと呼び出し音が鳴った。振り返ると、入口の壁際に設置されたインターホンのモニターに、穏やかそうな女性が映っていた。
根本遥は通話ボタンを押して応答した。
「もう友だちの二人は来ているわ。紹介するから中に入って。鍵を掛けるのを忘れないでね」
俺と白川が居住まいを正して待ち構えていると、小柄な女性がいそいそと入って来た。根本遥に柔らかさを加えたような顔をしていた。
「遥の母です。今日は遠いところわざわざ足を運んでくれてありがとう。あなたが遥の親友の、佐藤くんね! それと、あなたは……あの白川さん?! 遥の言った通り、息を呑むような美少女になっちゃって! いえ、昔からその片鱗はあったけど」
根本遥の母親は入り口に立ったまま、一気にまくし立てた。
呆気にとられている俺と白川を横目に、根本遥はゲーミングチェアに戻り、きしみ音を鳴らして腰を下ろした。
「あたしのママよ。その合宿の説明会に行って来たらしいから、何か質問があったら遠慮なく訊いてみて。とにかくあたしは一が一緒じゃないと、この合宿には参加しないから」
根本遥は果汁100%の缶ジュースを、わざとらしく音を鳴らして開け、ぐびぐびと喉に流し込んだ。
根本遥の母親は縋るような表情で、俺の顔を見つめた。
俺は感情に流されず、冷静に思考を巡らせた。この夏休み――目的の無い虚しい日々を過ごすよりは、合宿に参加した方がきっと充実感があるはず。また、この合宿に参加することで、引っ込み思案な性格が克服できるかも……という淡い期待。
そして根本遥の、どこか屈折した心の闇に迫れるような――そんな気がした。
「この合宿に参加しようと思います。詳しい話を聞かせてください」
俺は根本遥の母親に、意を決して答えた。
帰る道すがら、白川が少し芝居がかった口調で言った。
「本当に……私を置き去りにして、根本遥と合宿に行くつもり?」
俺は勇気を出して白川の掌に触れた。お互いに意思を確かめ合って、しっかりと手を繋いだ。
「合宿は七月の末。それまでに、戻ってからの予定を一緒に話し合おう」
「OK。夏休みの宿題も、できるだけ消化しながらね!」
繋いだ左手から、白川の弾んだ気持ちが伝わってきた。俺は胸をなでおろすと同時に、心がぽっと暖かくなった。




