4 夏合宿
鮮やかな瑠璃色の海に浮かぶ小さな島。鳥瞰で撮影された島の形は、羽を広げた鳥のようにも見える。
雲一つ無い真っ青な空の中央に、白抜きの斜め文字でタイトルが刷られていた。
――キッカケをつかもう!
青鳥島の夏合宿――
パンフレットを眺めたまま、理解が及ばない俺と白川に、根本遥は神妙な顔つきで語り始めた。
「あたしの引き籠もり生活が五年目を迎えて、さすがに親が危機感を募らせたみたいなの。
ファンタジーの世界にどっぷり浸かって、社会性を失ったまま孤独に歳を重ねていくんじゃないかとね。
ソレは、不登校や集団生活が苦手な子どもが通うフリースクールのパンフレットよ。この夏に、孤島の宿泊施設で二泊三日の合宿をするみたい。
参加者のほとんどはフリースクールの生徒たちだろうけど、外部からの体験入学も募集しているの」
「親はあなたをその合宿に参加させて、外の空気に触れさせたいわけね。まさかとは思うけど――その合宿に一を連れて行くつもり?」
白川が俺の予想を先回りして言った。
「フフフ。理解が早くて助かるわ。たった二、三日で一の引っ込み思案が治るとも思えないけど、いい刺激になるんじゃない?
あたしと一緒に参加してくれるなら、合宿に必要な費用はすべてうちの親が支払うと言ってるわ。どう? 友だちを助けると思って引き受けてくれない?」
根本遥はふんぞり返っていたゲーミングチェアから跳び降りて、俺の前でしおらしく正座した。
「一人で合宿に参加するのが心細いってこと? 根本さんは、とてもそんなタイプには見えないんだけど」
俺は返事をはぐらかして、遠回しに本音を探ってみた。
「フフフ。誘った理由は単純よ。一と一緒に合宿に行ったら楽しいと思ったから。それとも……あたしが何かよからぬ事を企んでいるとでも、思っているわけ?」
根本遥は白川に視線を移し、眉を上げて答えた。
「私は今でも、あなたが茶封筒じゃないかと疑っているわ。もし一を陥れるつもりなら――絶対に許さないから」
白川は根本遥を睨みつけ、静かに言った。
「随分と嫌われているようね。前にあたしのことを、もう恨んでないって言ってたのに。
あたしは以前、他人と関わるのが好きじゃないって言った。だけど、あんたたちは例外だと思った。なぜだか分かる?」
根本遥は俺と白川に順々に目を合わせて、毅然とした表情で言った。
俺と白川は黙り込んだ。ただでさえ難解な、根本遥の心の内が分かるわけがない。
「ふたりとも、周りの空気や他人に流されないところ。白川さんは言わずもがな。一は……冷静に状況を見極める力がある。消極的だけど、決して自分の信念を曲げたりしない感じ。そういうところが気に入ったの。
どう思われようが、あたしはあんたたちを友だちだと思ってる。陥れるような気は毛頭ないわ」
根本遥は真剣な眼差しで語った。それが彼女の本心なのか演技なのか……当然ながら俺には分からなかった。
「自活しているとはいえ、親にはまだ色々と世話になってるから、この合宿に参加して安心させたいの。
そして一には、あたしの同伴者として一緒に参加してほしい。合宿にはきっと色んな問題を抱えている人たちが来るだろうから、さすがのあたしでも少し不安なの」
根本遥は絨毯に頭を付けて頼み込んだ。これが本心なのか演技なのか、ますます分からなくなった。
俺は白川と視線を合わせ、どう判断すべきか途方に暮れた。
「私もその合宿に参加すると言ったら、どうする?」
白川はテーブルに両肘を立てて、両手を口元で組んだ。




