26 容疑者
馳久美子は記憶を辿り、面談が始まるまでの自身の行動を振り返った。
俺と根本遥が砂浜へ出掛けた後、馳久美子は胃腸薬をもらうため、津田美子と一緒に医務室に向かう。その時、金田龍人は食堂に残ってカップ麺を頼んでいた。瀬野賢児は食堂を離れ、医務室の向かいの遊戯室に入って行ったという。
医務室に入ると、二つのベッドがレールカーテンで仕切られていて、眠っている曽我部太と布引真子の様子は分からなかった。
医務室で胃腸薬を飲んだ後、食堂へ戻ると、金田龍人がズルズルとカップ麺を啜っていた。側にいた秋月令子に、何か胃腸に優しい物を腹に入れておきたいと要望すると、粉末のコーンスープを作って出してくれた。
秋月令子はこの後田中忠と面談の準備があるというので、医務室の中の仮眠室を借りて休むか、遊戯室で時間を潰すように言われた。
「むさ苦しいデブと陰気なヒッキーの近くで寝るのはゴメンだし、ムカつく銀縁眼鏡と一緒なのはもっと嫌だから」
馳久美子は眉間に皺を寄せて舌打ちをした。
結局、馳久美子はコーンスープを飲んだ後、女子の参加者たちが泊まる【寝室B】の二段ベッドで休むことにした。
「フフフ。金田龍人が寝ていた【寝室A】のすぐ隣りの部屋じゃない。女子トイレへも、廊下を一直線に走ればすぐに行けるわね?」
根本遥はオセロの石を指で玩びながら馳久美子に視線を向けた。
「フッ、笑える。わたしを疑ってるの? いくら早く帰りたいからって、そんなリスクのある騒動を起こすと思う?
まぁ面白いから迷探偵の推理を言ってみて。地味なあんたの彼氏にも、ちゃんと分かるようにね」
馳久美子は不敵な笑いを浮かべて、俺の顔をチラリと見た。
「フフフ。あたしは可能性を確認しただけ。まだ金田龍人の容態は明らかになってない。もしこれが誰かの仕業だったとしたら――犯人は、彼を瀕死の状態にして、女子トイレに監禁したという事。誰にも気づかれないようにね」
根本遥は馳久美子の表情を窺いながら、石を元の場所に戻した。
馳久美子は根本遥の指摘に眉ひとつ動かさず、クッションに背中をあずけた。
「チッ、銀縁眼鏡のチビよりは慎重ね。で、わたしの他にも容疑者はいるわけ?」
根本遥はジャージのポケットからペットボトルの緑茶を取り出して、ぐっと喉に流し込んだ。
「職員なら犯行中に誰かに見られても、うまく誤魔化せるはず。だけど津田美子は金田龍人を蘇生させたから、外していいと思う。
あとは、ずっと医務室にいる、曽我部太と布引真子。見つからないように医務室を抜け出す事ができれば、二人とも犯行は可能。あんたに比べれば、難易度は高いけどね」
「アイツは?」
馳久美子はチッと舌打ちをして、親指を瀬野賢児へ向けた。当の本人は、自分が噂されている気配を感じたのか、目を擦ってゆっくりと上体を起こした。
根本遥は瀬野賢児の様子を窺いながら、声のトーンを落として答えた。
「この宿舎には、ほとんどの部屋に窓がある。内側からクレセント錠を外しておけば、誰でも外を通って別の部屋に移動できるんじゃない?
もし犯人が窓を通路として使っていたとしたら、曽我部太は大柄で目立つし、ちょっと厳しいかもね」
「偉そうに名探偵を気取ってるようだけど、わたしから見れば、あんたたちだって怪しいわ。ずっと砂浜にいたっていう事を証明できるわけ?」
馳久美子はクッションに身体を埋めたまま、わざと瀬野賢児に聞こえるような声で言った。




