18 答え合わせ
根本遥は秋月令子に砂浜へ行く事を告げ、俺を連れて行くので、面談開始前には宿舎に戻ると約束した。
「あんたに話しておきたい事があるの。一緒について来て」
すれ違いざまにボソリと言った根本遥に従い、俺は腰を上げた。
根本遥は玄関隅の傘立てに雑に置かれた蝙蝠傘を引き抜いて建物の外へ出た。
空は薄曇りで日差しが強いわけでもなく、雨もすぐには降りそうにない。傘を広げた根本遥の心境に疑問を抱きながらも、歩き始めた彼女の後ろをついて行く。
肌寒いほど日陰になった雑木林の小道を抜けると、石積の階段の向こうに白い砂浜と瑠璃色の海が見える。階段を降りると、穏やかな波の音が聞こえてきた。
「内緒話は階段から離れていた方がいいわ。あの桟橋までついて来て」
根本遥は辺りに人気が無いのを確認しながら淡々と歩いて行く。海を見に行くと言いながら、風景にはほとんど興味が無さそうだ。
桟橋に並んで座ると、根本遥は広げたままの蝙蝠傘を俺に渡した。
「フフフ。端から見ると相合い傘に見えるかも。だけど、実際は手元を隠すためよ」
根本遥はジャージのポケットから、小さな黒い板を取り出した。
「何? それ……」
思考が追いつかず混乱していると、根本遥は右足の靴を脱いでインソールを引っ張り出した。
「フフフ。コレを出したら分かるでしょ?」
靴の中から有線イヤホンが出てきた。俺が答える前に、根本遥は黒い板にイヤホンジャックを差し込んだ。
「食堂から遊戯室に移動する前に、テーブルの裏にコレを仕込んでおいたのよ。
あの状況で、鍋の中に画鋲が残ってない可能性は低い。職員たちは事を荒立てないように、本当の事を隠すんじゃないかと思ったの」
俺が呆気に取られていると、根本遥は片方のイヤホンを俺に渡して目配せをした。
「さっきのやり取りで、あたしにはあらかた見当はついてる。秋月令子は無理に平静を装っていたけど、田中忠は露骨にあんたと馳久美子に視線を向けていた。
恐らく画鋲は、一班の鍋から見つかったのよ。その答え合わせを今から確かめてみようってわけ」
俺がイヤホンを片耳に入れると、根本遥は周囲に目を走らせた後、黒い板を操作した。
『ガチャ』
『参加者たちを遊戯室で待機させました。調査の間、津田先生に参加者たちの対応をお願いして来ましたので』
『よし。それじゃ、チャッチャと調べようか。あまり待たせると変な誤解を生むかも知れないからな』
……そんな会話のやり取りがあった後、根本遥の予想通り、すぐに一班の鍋の中から二つの画鋲が見つかった。他の二つの鍋と炊飯器、食べかけのカレー、鞄の中からは何も見つからなかった。
『一班を仕切っていたのは秋月先生でしたよね? 佐藤と馳に、何か怪しい動きはありませんでしたか?』
『特に目につくような事はありませんでした。ただ……他の班の参加者たちにも多少意識は向いていたかも知れません。鍋から目を離した事は、何度もあったと思います』
『……とにかく画鋲は一班の鍋から見つかった。その事実を覆すことはできない。佐藤と馳の二人。どちらかが犯人だとすると、心の闇は相当深いような気がするな』
『私は、参加者たちに事実をそのまま伝えることが正解だとは思えません。今日から三日間、寝食を共にしなきゃいけないんです――』
根本遥はふうっと息を吐き出して、唐突に音声を切った。
「あとは聴くまでもないわ。一、あんたは間違いなく田中忠に疑われている。面談の順番を最初に設定したのも……そういう事じゃない?」




