16 隠し場所
「それにしても……犯人は、どうやって画鋲なんかを持ち込んだんだろう? 初めから食べ物の中に入れるつもりだったのかな?」
俺は根本遥の反応を窺いながら黒い石を置いた。捲れる石は僅かに二つ。
俺が挟んだ石を裏返すと、根本遥は予想通りの場所に白い石を置いてニヤリと笑った。
「フフフ。あんたはどう思う?」
「……参加者たちは船に乗る前に、身体検査と持ち物チェックを受けた。合宿に必要のない物を持っていれば、必ず理由を聞かれるはず。それでも持ち込めたという事は――うまくチェックをすり抜けたのかな?
もしくは……チェックを受けていない三人の職員のうちの誰か。考えたくもない話だけど」
俺が話している間にも、根本遥は黒い石を次々と白に塗り替えていく。
「合宿で面倒な事になれば、職員たちがその責任を負う羽目になる。そう考えると、悪知恵を働かせた参加者の内の誰かが、チェックをすり抜けてカレーの中に画鋲を入れた。今のところは、そう考えてもいいんじゃない?」
根本遥は全ての石を捲り終えると、参加者たちに目を向けた。
馳久美子は窓枠に突っ伏して眠っているように見える。瀬野賢児はいつの間にか壁にもたれて漫画を読んでいた。金田龍人は相変わらず本棚の前で鼾をかいている。
「どうやってチェックをすり抜けたのか――持ち物チェックを事前に知っていた根本さんなら、分かるような気がしたんだけど」
黒い石を置く場所は無く、根本遥が続けて白い石を置いた。残り少なくなっていた黒い石が、容赦なく真っ白に塗り潰されていく。
「あたしと同じ方法で、チェックをすり抜けたのかもね」
「同じ方法って――まさか根本さん、何か変な物を隠し持って来たとか?!」
俺は両手で口を覆い隠し、小声で確認した。
「フフフ。隠し場所のヒントは画鋲の形。薄くて小さい物なら問題ないわ」
根本遥はオセロ盤に並んだ石を几帳面に数えて石置き場に戻す。俺もつられて残った石を元の場所に戻した。
だんだんと彼女のペースに乗せられているような気がするが、彼女の行動が世間ずれしている事に間違いはない。俺はこの妙な空気感に馴れ過ぎて深入りしないように、心の中で自分を戒めた。
ノックの音がした後、そっとドアが開いた。
「調べものと後片付けが終わりました。皆さんにその結果と、今後の予定について話し合いたいと思います。曽我部くんと布引さんは医務室で眠っているようなので、みんなで話し合った事を後で伝えるようにします。
漫画の本とオセロは元の場所に戻してくださいね。それでは食堂へ行きましょう」
秋月令子の表情からは、今後の成り行きを読み取ることはできなかった。
参加者たちは一様に硬い表情を浮かべながら秋月令子の後ろについて行く。
職員も参加者たちも、立て続けに気味の悪い事件が起こったこの状況で、予定通りのカリキュラムをすんなりと熟せるとは思えない。
食堂に入ると、テーブルの上にはペットボトルの緑茶が人数分並べられ、奥の席に難しい顔をした田中忠と、両手に顎を乗せた津田美子が座っていた。
参加者たちは指示を受け、カレーを食べていた時と同じ席に座る。秋月令子は軽く会釈をした後、二人の職員に挟まれる形で中央の席に座った。
「ペットボトルのお茶は安全ですから遠慮なくどうぞ。お話が済んだ後、すぐに食べられるカップ麺を用意しますので、希望する人は申し出てください。
それではまず調べものの結果を、田中先生に伝えていただきます」
秋月令子が目配せをすると、田中忠はふうっと長めの息を吐き出して立ち上がった。




