15 オセロ
細長い板張りの廊下を歩くと、左側に医務室、右側に遊戯室のドアプレートが張ってあった。
秋月令子は遊戯室のドアを開け、連れて来た参加者たちに改めて言った。
「調べものと食事の後片付けが終わったらすぐに戻ります。それまでここで待機しておくこと。空腹な人は即席の非常食を用意しますから、あとで遠慮なく言ってくださいね」
遊戯室のドアが閉まると、真っ先に動き出したのは金田龍人だった。十畳ほどの部屋の奥に漫画や絵本が並んだ本棚があり、それを目ざとく見つけたようだ。
畳敷きの床には、あちこちにふっくらしたクッションが散在していて、カラーボックスに剣玉や木製の脳トレパズル、オセロや将棋、カードゲームなどが目に入った。
瀬野賢児は銀縁眼鏡を持ち上げ、慎重に辺りを物色し始めた。馳久美子はその様子を軽蔑の眼差しで睨みつけていた。
根本遥は側にあったクッションをつかんで、小さな座卓の前に座った。
「一、オセロはできる?」
「ルールは知ってる。家には無いけど」
金田龍人は本棚を独占するように、寝転んで漫画を読んでいる。瀬野賢児は胡座をかいて取り憑かれたようにルービックキューブを回している。馳久美子は少し気が晴れたのか、窓辺に座り、ぼんやりと窓の外を眺めていた。
いずれも対戦ゲームには興味が無いらしい。俺はカラーボックスからそっとオセロゲームを引き出して、クッションに埋もれるように座った根本遥の向かいに腰を下ろした。
座卓にオセロを載せると、根本遥は白い石を中央に並べながら小さな声で呟いた。
「あたしの悪い予感は当たったようね」
「まさかとは思うけど……根本さんの自作自演じゃないよね?」
俺は根本遥に倣って黒い石を斜めに置いた。確か黒が先手だったはず。
「フフフ。あたしが茶封筒だったら、もっと安全な場所で高みの見物をしたいところよ」
根本遥は時折参加者たちに目を配りながら話を続ける。
「あんたは船の上で手摺にもたれて眠っていたようだけど、あたしは甲板で眠ったフリをしながら参加者たちの様子を眺めていたの。
船が島に着く間、あたしとあんた以外の面々が、一度は船尾の方へ移動してた。誰がいつ移動したか――ちゃんとメモに残してあるから間違いないわ」
俺は根本遥の話を聞きながら挟んだ石を裏返す。
「まさか……すでに御当地弁当を消した犯人を知っているとか?」
俺は声のボリュームに気をつけながら根本遥に視線を合わせた。
「フフフ。怪しい動きをしていた奴はいるわ。そいつが犯人かどうかは、分からないけど」
根本遥はニヤリと笑い、挟んだ石を裏返していく。
俺は横目で参加者たちの様子を確認した。窓辺の馳久美子は肩肘をついたまま船を漕いでいる。瀬野賢児のルービックキューブは、ほぼ色が揃いかけている。金田龍人は開いた漫画を顔に載せたまま鼾をかいていた。
どこに石を置いても根本遥に角を取られる流れ。意識の半分を会話に持っていかれている所為か、勝負に身が入らない。これも根本遥の作戦だろうか。
「画鋲の事件に関しては、どう思う?」
「注意深く様子を見ていたけど、あたしの班に怪しいところは無かったわ。一の班はどう?」
「根本さんほど意識はしていなかったけど、怪しいところは無かったと思う。単純に消去法でいくと、容疑者は……二班の誰か?」
俺は半ば負けを意識しながら黒い石を置いた。
「フフフ。手っ取り早く犯人が見つかれば、気楽に過ごせるのにね。とにかく用心に越した事はないわ。あんただってこの合宿の参加者の一人よ。変な濡れ衣を着せられないように、気をつけておく事ね」




