14 食堂にて
「津田先生、曽我部の手当をお願いします。他の皆はカレーを食べずにそのまま待機。もし口の中に違和感があったり、少しでも気分が悪い者は申し出てくれ。この後、曽我部と一緒に津田先生の診察を受けてもらう」
唖然とする参加者たちに、田中忠が落ち着いた対応で指示を出した。
津田美子は曽我部太の口の中をボールペンで開け、ペンライトをつけて確認した。
「画鋲が喉を通った形跡は無いな。口の上と歯茎から血が出ているけど、脱脂綿を咥えておけば痛みもすぐに治まるよ」
曽我部太の両肩を津田美子と田中忠の二人が担いで奥のドアへと連れて行く。気分が悪いと名乗り出た布引真子が、後ろについて食堂を出ていった。
さすがにこの状況で、食べかけのカレーライスを食べる者はいなかった。
根本遥はメモ帳を眺めるフリをしながら、チラチラと参加者たちの様子を観察している。
金田龍人は蒼白な顔をして、自分がよそったカレーライスをスプーンで穿っていた。
「島に着いて早々、いえ、船に乗っている時からその予兆はあったんですが、大変な事になりましたね……」
秋月令子は力無くテーブルに両肘を載せ、頭を抱えた。
「カレーの中に画鋲を入れた奴は、自分の班のカレーに画鋲が入っている事を知っている。故に、慎重に食べなければならないはず――。したがって、犯人は食べ残しの多い奴だ。爺さんの名にかけて!」
銀縁眼鏡をキラリと光らせた瀬野賢児が勝ち誇った顔をして、馳久美子の残したカレーを指さした。確かに、ほとんど食べていないようにも見える。
馳久美子はわざとらしく背伸びをした後、瀬野賢児を睨みつけてチッと舌打ちをした。
「瀬野くん、何の裏付けも無く犯人を決めつけてはいけません。曽我部くんは一杯目のカレーを食べた時は何ともなかったんです。
問題は、おかわりをした二杯目。彼は全ての鍋からたっぷりのカレーをご飯の穴の中に流し込んでいました。恐らく、鍋の底に沈んでいた画鋲を不運にもすくい上げ、ご飯の中に埋め込んでしまったんです」
秋月令子は疲れた表情を浮かべながらも、事件の状況を冷静に説明し、瀬野賢児の軽率な判断を窘めた。
「それじゃあ、鍋の中にまだ画鋲が残ってるかも知れない。その鍋でカレーを作った班の中に、犯人がいるって事だよな!」
金田龍人がスプーンを秋月令子に突きつけて言った。
「……この後、田中先生と二人で、しっかりと鍋の中と皆さんの食べていたカレーを調べます。結果はきちんと伝えますので、それまでは憶測で人を判断するような事は、決してしないでください」
秋月令子は食堂に残った参加者たちに、念を押すように言った。
奥のドアが開き、ひと仕事終えたような顔つきで田中忠が戻って来た。
「曽我部は口の中を消毒して止血が済んだ。もちろん命に別状はない。今は落ち着いて医務室のベッドで休んでいる。
布引も船旅の疲れとショックな事が重なって気分が悪くなったようだ。二人とも側に津田先生がついているから心配はない」
「ひとまず無事で良かったです。私もあとで様子を見に行きますので」
秋月令子と田中忠は小声で話し合った後、食堂に残った参加者たちに告げた。
「私と田中先生はこの後食堂で、鍋の中と炊飯器とカレー、そしてみんなの荷物の中を調べます。その間、みんなは遊戯室で時間を潰していてください。調べが済むまで、部屋から外出することは禁止とします。
トイレなど必要があれば向かいの部屋が医務室になっていますから、津田先生に許可を取ってから外出するようにしてくださいね」
田中忠が食堂に残り、参加者たちは秋月令子に続いて食堂を出た。馳久美子は瀬野賢児から距離をあけ、殺意とも取れそうな目つきで睨みつけていた。




