11 出港
問題なく身体検査を終え、俺は手荷物を纏めて外に出た。回収されたのはスマートフォンと、がま口の中に入っていた四万五千円ほどの現金。がま口は理由を説明して、島への持ち込みを許可された。
他の参加者たちは漫画やおやつの持ち込みで押し問答が続き、職員たちは説得に手間取っていた。
埠頭でぼうっと水平線を眺めていると、微かな足音が聞こえた。振り向くと、ピンク色のマスクをした少女と目が合った。
お互いに動揺して、すぐに視線を外したが――瞬時に頭の中で布引真子の似顔絵が浮かんだ。根本遥はメモ帳に小さな文字で【ピンクマスク】【馳久美子より背が低い】と書いていた。
俺は背後の少女に意識を向けたまま視線を水平線に戻した。気まずい沈黙を覚悟したが、ざわざわと足音が聞こえてきた。手荷物検査を終えた他の参加者たちが、ようやく出てきたようだ。
「1、2、3、4、5、6、7――OK、参加者全員、準備が整いましたね。これから船に乗って、いよいよ青鳥島に上陸します。船酔いが不安な人は、必ず酔い止めを飲んでおくこと。
それでは船に向かいますので、一列に並んで私に付いて来てください」
田中忠が参加者たちを要領よく整列させ、秋月令子の引率で参加者たちは歩き始めた。並びは以前に点呼を受けた順番で、根本遥のメモ帳通りで分かりやすい。明らかに曽我部太の巨体が際立っていて、他の参加者たちの存在感が薄くなっている。
観察に偏りがないように注意しながら、俺は前を歩く根本遥の後に続いた。
年代物と思しきチャーター船の前で、秋月令子が足を止めた。船首が細い乗降口になっていて、すでに船のエンジンがポンポンと鳴っている。
準備されていたライフジャケットを装着し、参加者たちは職員たちの後に続いて恐る恐る乗り込んでいく。さすがの根本遥も怖気づいたのか、痛いくらいの力で俺の手を握ってきた。
「先に乗って」
「わかった」
俺は波に揺らぐ船首に先に乗り込んで、根本遥の手を軽く引っ張った。
「フフフ。ありがとう」
「それでは、青鳥島に到着するまで自由時間とします。海を眺めるのは結構ですが、手摺から身を乗り出したり、海に飛び込んだり、とにかく軽はずみな行動をしないように。気分が悪くなったら、すぐに私か田中先生に申し出てくださいね」
秋月令子の注意を合図に、参加者たちはそれぞれの縄張りを確保するように動き出した。
根本遥は他の参加者たちが移動した後、近づき過ぎない程度に距離をあけ、空いているベンチに座った。
船はトイレが併設された操縦室以外に屋根は無く、船縁にはステンレス製の手摺が据え付けられていた。俺は手摺にもたれて景色を見るフリをしながら、参加者たちの様子を窺った。
持ってきた荷物を確かめる者、早速横になって眠る者、読書を始める者(文庫本の持ち込みは許されたようだ)……などなど。
田中忠は監視の役目があるのか、立ったまま腕を組んで時折視線を移動させ、秋月令子は操縦室で船長と打ち合わせをして来ると言っていた。
人物観察に集中し過ぎて気持ち悪い奴だと誤解されても困るので、島に着くまではあまり意識しないでおこうと思った。
波に揺られ、手摺にもたれたままうたた寝をしている間に島が見えて来たらしい。ざわざわした空気を感じて目を開けると、根本遥は甲板に寝転んだまま、リュックを抱き枕にして眠っていた。
「皆さん、お疲れ様でした。まもなく青鳥島に接岸します。船長さんの上陸許可が出るまでは危険ですから、その場で待機すること。
上陸後、美味しいお弁当を配りますから、長旅の疲れを癒やしながら楽しく昼食を戴きましょうね!」
操縦室から出てきた秋月令子が満面の笑みを浮かべて言った。
「やったー!」
金髪の金田龍人が声を上げて飛び上がり、巨漢の曽我部太が不気味な笑顔を浮かべて肩を揺らした。
「ちょっと待て!」
和やかな雰囲気を掻き消すような鋭い声が船上に響いた。声の主は田中忠だった。
「ど、どうしたんですか急に……怖い顔をして」
怯えるような声で秋月令子が尋ねた。参加者たちは息を呑んで田中忠に注目した。
「御当地弁当が――消えている」




