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僕は待つ
灰が僕の鼻を掠め、思わずくしゃみをする。するとより大きな粉塵が舞い上がり、黒い死骸が露出する。銀の風が僕の前を通り過ぎて、舞い上がった粉塵をさらう。
僕は待っていた。
そう僕が待つ側なのだ、待たれる側では無い。いつだって僕は待たれていた。髭の男から、あるいは鬼から…そして猫又から。今回は僕が待つのだ。
そう…待つ。
僕は待った。過去がやってくるのを。死んだ彼らに今更話しかけられたとして、聴いてはくれない。そばにいるのに、彼らは死んでままぴくりとも動かない。
死んだまま動けない。
だから待つ。過去が向こうからやってくるのを。銀の風が月を一周して戻ってきても、星々が僕の頭上を一周しても、それから僕は何回か死んで生き返っても…
…待った。
これまで待たせてきたから…今度は待つ。今まで忙しかったから、これくらいご褒美だ。灰の大地の上で、死骸を踏みつけて。宇宙に覆われて、月の底で僕は待った。誰も何もどこにもいない、生きてはない。
けれどあの時には生きていた。僕が殺すまでは皆いた。国家を形成していた。だから待つ。待つのが礼儀だ。
僕は待ち続けた。




