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精算

あのエルフは言葉で納得させることができた。精霊は元から納得していた。では奴らはどうだ?月に住まうあの悪魔ども。彼らはどうすれば納得する?


言葉か肉体かそれとも…


月にたどり着いた。薄い大気が表面を覆い大きな青い惑星が月のかわりに見える。地球だ。


月の表面は灰色だった。所々に点在する突起物。十字架もあればただ棒だけが刺さっているものもある。けれど全てが灰色。灰で出来ていた。


空は黒い。宇宙だもの。大地は灰色。灰だもの。


まるで全てが終わったかのように静かで…まるで全てがまだ始まっていないように律動も鼓動も感動も無い。止まっていた。


ここはもう終わった世界だった。


僕は不死鳥からヒトに成り下がった。ここは不思議なもので怪異が蔓延るせいか大気がある。故に風が僕を襲う。怪異が僕の中で息をしているのか、それとも僕が真のヒトでないからか。光合成ができない月の地表で僕は歩いた。


動けば色々なものが見えてくる。


砕けて粉々になった灰。燃えて焼けて砕けた後の終わりの灰。


やっぱりここは死んでいる。


ふと歩くと見えてしまう。瓦礫が。建物の死体が。


薄い大気の下を灰を乗せた銀の風が駆け巡る。灰は宇宙で流転して飛散する。悲惨だった。


宇宙は暗い。その距離も測れない暗闇にぼうっと地球と…それから淡い星が映る。太陽は地球の裏側に隠れているせいか、どうやら見えなかった。


灰の大地の間隙、黒灰を掘れば黒い塊が見えることがある。黒い塊は燃え尽きた戦士の魂。それは聖なる炎の犠牲になった儚い死者だった。


死んでいる、この世界は。


フェンリルも、国王マーナガルムも、国民も。本当はこの地下に眠っているだけだろうけれど、黒い死骸は何の死骸だろう。


彼らに納得してもらう…それはどういう。


どうしようも…無い。


納得していない過去の遺物を納得するよう精算するにはどうすれば良いのだろう。


死んだ遺物は耳を傾けるか?


僕は足元の黒い塊を踏みつけて思う。右手を頬に当てて首を傾げて思う。


過去に戻る…?自分の意思で…?


銀の風が黒い塊を攫う。攫って宙に拾い上げた銀の風は塊もろとも消え失せる。


過去に戻れば今までの功績は消失する。また一から納得させなければならない。


そもそも過去に行けない…行き方を知らない。


銀の風はヒュウと音を立てて薄い大気の中で縦横無尽に吹き荒れる。灰は巻き上がり、黒い塊がちらほらと見え出す。


過去に行けないのであれば、過去そのものがやって来てくれる。


そんな夢は認められないものだろうか、この怪異世界で。


銀の風に煽られてむき出しになった灰の土壌に眠る死骸。黒い塊は僕の足元で死んでいた。


踏みつけた足元だけでない。


僕を取り囲む半径数万キロ。その範囲の灰の底には死が詰め込められて眠っていたのである。まるで奴隷船のように窮屈に、まるで地球のように逃げ場無く…僕がすべてを葬ったから。


過去は来るか。僕は行けない。


銀は銀で、風は風だ。だから灰は灰で、死は死だ。けれども、僕は僕ではない。


猫又を裏切ったこと…終末をこの手で引き起こしたこと。それは僕が彼女に約束した内容で、独りよがりな盟約の一部でもある。


世界を僕は救わない。救うのは彼女だけだ。


世界は誰にも救われない。世界は納得させられるだけだ。


僕は誰にも救われない。救われる意味を失っているから。救う側だから。


やつは誰も救わない。やつ自身が救われたくないから。


ならばやっぱり…


未来の僕は正しいじゃないか。僕が語るしかないじゃないか。


未来の僕は、二択を当てた。あらゆる要素から二択に絞り、見事引き当てた。だから僕は今ここにいる。だから僕は彼女を救える。


だからこれが最後の仕事だ。


終末の、終焉帝なんだ…これが本当の。






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