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月光蝶

月…この世界の月。猫又と出会った世界の月。鬼が嫌った月。そして僕が最初に不死鳥になった地。


ふぅ。


今、僕は不死鳥である。


巨大な翼を2枚はためかせ、スコットランドの上空、冷気が流転する夜空を飛んでいた。


二回目である。不死鳥になったのは僕が鮮明に覚えている記憶のうち、少なくとも二回目だ。一回目、僕が月の都で不死鳥に成り上がった時、奴らは尋常ではない恐怖を示していた。


やはりそこが謎だ、どうしてそこまでの恐怖を不死鳥に。


不死鳥は絶滅種だ。彼ら、月に住まう悪魔どもが知っていたとは思えない。僕の目の前に国王がいたのであれば護衛役の悪魔たちは必ず僕に襲いかかるはずだ。


けれど…あの日。


彼らは動かなかった。なすがまま、燃やされるまま朽ちていった。家屋も、宮殿も、国民も、国王も。国王の父、フェンリルだけだった。奴だけが僕に襲いかかった。襲いかかることができた。


でも…それだけだ。


何かおかしい。


恐怖心はある程度の知識から発生するものだ。得体の知れないものは気持ち悪くても責務を忘れるほどの怖さはない。だって怖い事をしてくるという知識すらないから。あるのは興味だけだ。だから、だから、考えられることは…


僕は飛翔したまま、翼を宇宙に打ちつけ銀の風に乗りながら思考する。首をぐりぐりと回してそれから大きく旋回して月に向かう。その間に考えて考える。だってこの謎こそが実は世界を納得させるための重大なことかもしれないから。


…無知が恐怖を呼ばないなら、あの日、恐怖を感じた彼ら全員が無知でなかった。


そう…不死鳥を知っていたのではないだろうか。


でも、絶滅した種をなぜ知っているのだろう。


北の大地に燃え盛る不死鳥はいない。生息区域が明らかに違う。


何で無知じゃなかった。不死鳥を彼らは知っていた。不死鳥の怖さを知っていた。


あぁ。そうだ。


覚えているのだ、覚えていたのだ。過去、僕と言う不死鳥に殺された時の悲痛な記憶を。


あの…1週目、初めて僕が不死鳥になった時に既に。それは…あまりにも。


けれど、そうでないと、説明はつかない。ふぅ。はぁ。


もうすぐ月に着く。僕は不死鳥だ。死にながら飛翔すれば良い。もう、着く。着いてしまう。


なぁ、もしも、もしも僕の直感が的を射ているのであれば…


この世界…僕が思っているよりも悲惨な過去があるのかも知れない。


ふっと苦い顔をしながら僕は月に到着した。



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