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異世界恋愛+α(短編)

"白い結婚”だと……我が漆黒に染めてくれよう!

作者: いのりん

お気に入りユーザ様100人突破記念企画でリクエストを頂き執筆したものです。

〇企画・原案:喜田 花恋 さま

 リクエスト:自作品をアレンジしてみてほしい

 ※原作が気になる方のために、下に転移魔法陣を貼っておきます

「俺は君を愛する気はない。これは、三年間限定の契約結婚。いわゆる、“白い結婚”というやつだ。」


 俺ことアイボリーは、黒檀の髪を持つ少女エボニーに冷たく言い放った。


 両家顔合わせも結婚式すらもすっ飛ばし婚姻が成立した少女に初対面でこの言い草。我ながらとんでもないクソ野郎発言だと思う。


 ただ、これには、戦術的事象、政治的、身体的にのっぴきならない事情があるので、どうかそれを聞いて情状酌量の余地を頂きたい。


 まず、戦術的事情。

 この国で最年少かつ最強の白騎士だった俺は、十五年前に両性具有の南の魔王、エスカルゴンを打倒した。しかし、たった一人で王国に喧嘩を売った頭のおかしい魔王は、爆裂四散寸前に「転生するからまた末長く戦おうぞ!」と宣言。もしかしたら、そろそろ転生体が来襲するかもしれないので愛妻や子供を作るのはマズイ。


 次に政治的事情。

 この結婚は俺が望んだものではない。王侯貴族の外聞のため、白い結婚でいいからと頼み込まれたものだ。

 過日、魔王を打倒した俺は褒美として伯爵位を貰い、でかい涙袋を持つ第三王女と婚約していた。しかし王女が浮気して婚約が流れたため未婚なのだ。また、目の前の少女エボニーは、侯爵令嬢で優秀で美しいというトリプル役満な一方で、厨二病を発症していて社交界で浮いているらしい。このまま二人とも生涯未婚は外聞が悪くて国が荒れちゃうから……というのが理由だ。


 最後に身体的事情。

 俺は心身に後遺症……というか不調を抱えている。かつて第三王女のことが好きだった俺の脳は、彼女が下まつげバッサバサの護衛騎士と夜のスモウレスリングをしているのを目撃した時に爆裂四散した。その爆風は下半身にまで悪影響を及ぼし、以来俺のたまやは白い花火を打ち上げる(エレクティル)ことができない(・ディス)休業状態(ファンクション)なのだ。


 な、白い結婚もやむなしだろう?


「君がこの結婚をどう利用しても、俺は構わない。金も小遣いの範囲でなら好きに使っていいし、子供を作らないのなら秘密の恋人を作ってもいい。」


 あと、俺たちの契約結婚の期間が三年というのにもちゃんとした理由がある。

 血を残す事が大切な貴族社会では、跡取りが生まれなかった場合、三年を区切りに円満離婚することが暗黙の了解とされているのだ。


 とまあ、状況は少々複雑ではあるものの、合理的な判断だと俺は思っているし、目の前のエボニーという少女も理解しているはずだ。


「俺たちの間にはただ、三年間の白い結婚を行うと言う共通認識だけがあればいい。OK?」


 そんな俺の言葉を聞き、黒檀の少女は笑みを浮かべて口を開いた。


「“白い結婚”だと……魔王の転生体である我が漆黒に染めてくれよう!」


 何でより複雑な状況を被せてきちゃうんだよ!?



 ◇



 俺は常時発動型のレアスキル『神眼』を持っている。観察力の向上効果も併せ持つそれは、相手の言動の真偽を見抜く事もできるのだが、彼女が嘘をついている様子はない。


 つまりエボニーは、本当に西の魔王の転生体らしい。

 令嬢の身体を乗っ取った訳ではなく、死産の運命にあった赤子の身体に入ったそうだ。


 そう言えばコイツ、バトルジャンキーだけど殺人はNGって変なポリシーの持ち主だったな。王国に喧嘩売った時も、非戦闘員は襲わないし、行動不能になった騎士は捨て置くしで死人はゼロだった。


 そんな彼女の目的は、前世で爆裂四散する前に言っていた通り俺と末長く戦うこと。ただ、今回は暴力ではなく夫婦として争いたいらしい。

 なんか人類のこと誤解してない?好きになったほうの負けってそういう意味じゃないし、結婚式場の鐘は戦いのゴングじゃあないぞ。まあ、コイツと色恋沙汰には間違ってもならないだろうし、三年間過ごして離婚できればなんでもいいや。





 しかしそれから、淡白でそっけなかった俺の生活は次第に闇に侵食され始めた。


 寝室のカーテンは漆黒に替わり、枕やマットレスは人を退廃させる柔らかさに、夜着はすべすべな黒絹へ。あと意識を深い闇に落とす香まで焚かれるようになった。


「……あれ? なんだか妙に落ち着くな」

「フハハ! ようやく貴様の魂が闇の甘美に気付きはじめたか!」



 またエボニーは、己の存在を知らしめる儀式を欠かさなかった。そのために毎晩夕食の際は必ず俺の事を、夜空の見えるバルコニーに連れ出して声を張り上げる。


「見よ、闇に捧げられし供物を! 我こそは漆黒を統べし終焉の支配者なり! いざ感じよ、我が暗黒の波動ッ! そして我を讃えるが良い!! 」

「毎度のことながらエボニーの手料理うまっ! ごめん、美味しすぎてどう褒めていいかわからねぇ」

「フハハ、光の使徒ですら闇の深淵たる我を讃え、星の囁きすら沈黙しておるわ……!」




 そんな日がしばらく続いた。

 ある日、執務机でうたた寝していると肩に黒いブランケットがかけられていた。


「我はただ……深淵より貴様の安寧を見守っていただけだ! いつもお仕事お疲れ様であるぞッ!」

「あー、こちらこそいつもありがとな」

「……ふん、愚かなるダーリンよ。我を侮るなかれ。これは漆黒の儀式の一環にすぎぬ」


 そう言い張るエボニーだったが、顔の赤みは夜の闇でも隠しきれていなかった。





「やばい、なんか俺、エボニーのことがだんだんアリになってきたかもしれない……」

「フハハ 我が魅了の効果は絶大だな?」


 第三王女の浮気レスリング現場を見て以来、大嫌いだった夜の時間帯も悪くないと思い始めた自分がいる。夜空の色、エボニーの瞳の色……心が落ち着く


「それはつまり……この二年ほどの間でダーリンの魂は我が漆黒に染まってきたということだな!」

「あー、まあ、そう……なのかも?」


 なんか、三年で離婚とか別にしなくて良い気がしてきた。


「では、そろそろ次の戦いとゆこうか!」

「次の戦い?」

「ラブラブの人族夫婦がよくやると言う、夜のワールドプロレスリングよ!」


 ほんのり暖かった心が、一気に冷えた。


「いや……それはナシだ。俺たちの関係は三年間の白い結婚、それは変わらない」

「何故だ!? ……っとダーリンよ、お主大丈夫か、顔が真っ白だぞ!?」


 彼女を無視して、俺は逃げるように屋敷を飛び出した。







「そうだよ、俺は好いた女性に夜の剣を捧げることも出来ない男じゃないか……何が元白騎士だよ、ははっ」


 思わず自嘲的な笑みが漏れた。


 かって俺は、過去を吹っ切り下半身の不調を治そうと娼館に通ったこともある。しかし、夜の超人48の殺人技をもってしても俺のトラウマはノックアウトできなかった。というか、むしろ悪化した。


 当たり前だが、娼館のうっふんお姉さまは、厚い化粧と笑顔で上手に隠してくれるものの、客の事を好いてなどいない。それを『神眼』で察した際、王女の事がフラッシュバックしてしまったのだ。以来、俺のキング・ジュニアが理想を求め立ち上がることはない。


 だから、俺たちの間に跡取りは生まれることもない。

 その場合、三年を区切りに円満離婚することが貴族の暗黙の了解。それを無視する貴族令嬢はやがて白い目でみられるようになる。


 エボニーをそんな目には合わせたくない。幸せになって欲しいと思う。でも、彼女が他の男と一緒になっているのを想像すると……涙がポロリと溢れた。


 気がつけば、王都から離れた荒野に来ていた。

 昔、西の魔王と戦った場所だった。


「はあ、あの時死んどきゃよかったか……」


 思わずそう呟くと




「「なら、私達がブッ殺してやろう!!」」




 天から声が聞こえた。


 見上げると眼前に大火球の魔法!


 咄嗟に回避する、危ねぇ!


「なっ……お前らは」


 そこにいたのは、でかい涙袋を持つ女と、バッサバサの下まつ毛を持つ男だった。忘れようと思っても忘れられなかったその顔と声、記憶よりも老けているが間違いない、元王女と護衛騎士だ。浮気の罰で北の僻地にとばされたはずなのに何故ここに?


 あと、様子がおかしい。具体的に言うと二人とも鼻がめっちゃ赤い。『神眼』でみると、どうやら身体を乗っ取られているようだ。


「「我らは北の魔王」」

「我が名はグー!」

「我が名はスー!」

「「西の魔王を打倒したという白騎士よ。いい感じのボディを手にいれた我らと勝負だ!先に言っておくが、問答無用だぞ!!」」


 畜生、魔王って頭のおかしいバトルジャンキーしかいないのか!?








「ハァ、ハァ……くそっ」


 戦闘開始から10分。

 俺は劣勢で、あちこちに掠り傷が出来ていた。


「ワハハ、秘密に気づいたのは流石!」

「しかし打開策は無いようだな!」


 戦いながら『神眼』でみて分かった。

 コイツら、単体ではそこまで強く無い。だが、息のあったコンビネーションが厄介だ。


 あと、鼻頭の赤いところが魔王たちの本体でそこを砕けば倒せるんだが、二体同時に倒さないと即再生する。

 そしてコイツら、同時撃破されないように立ち回るのがめちゃくちゃ上手い。


「「そろそろトドメをさしてやろうか?」」


 別に、戦いで負けて死ぬことはそこまで嫌じゃ無いんだが、このむかつく二人の顔をした敵に殺されるのは絶対に嫌だ!

 畜生、何かないか?戦況を変えるなにか。


 と、その時


「暗黒★黒龍波!」

「「ぐおぁ!!」」


 黒い魔力の奔流が、北の魔王達を吹っ飛ばした。

 どごおおおーん!と爆音、そして土煙があがる。


「我、参上!」


 エボニーだった。どうしてここに……?


「心配したんじゃぞ、もー!妻になにも言わずに勝手に暗黒バトルに出向くでないわ。あと、貴様らは確か、生物にシンクロ寄生する北の魔王兄妹じゃな?ここからは二対二で戦おうぞ。卑怯とは言うまいな」





 


 夫婦の初めての共闘作業は案外うまくいった。序盤こそ前世と違うエボニーの戦い方にタイミングが合わない場面もあったが、すぐにお互いの息が合う連携ができるようになり、戦い始めて10分後には、俺たちは優勢だった。


「そろそろ決めるぞ!」

「了解じゃ、女の方は任せろ!」


 二人同時に、鼻っ面に全力パンチを叩き込む。

 北の魔王は断末魔をあげて消滅した。

 残ったのは顔面陥没した元王女と護衛騎士、美形が台無しだが、一応生きているようだ。



「さあ、ダーリンよ。闇の神殿に帰ろうぞ」

「そうだな」



 なんか、すごいスッキリした。






 屋敷に帰ると、エボニーが手当をすると言い出した。背中には手が回らないので、ありがたくお願いする。


「これでよし!」

「サンキュー、助かったよ」


 笑顔で微笑むエボニーに、胸がキュンとした。そういえばコイツはこの2年間、本心から俺のことずーっと好きでいてくれていたんだよな。


「では次は我の治療を頼むぞ」

「へっ?」


 服を脱ぐエボニー。

 窓から差し込む月明かりが、黒檀の黒髪を持つ彼女の裸体を美しく照らし出していた。


「どうしたダーリン、治療はよ」

「お、おう……」


 これは治療、これは治療と言い聞かせながら、彼女に触れて治癒魔法をかけていると、何か下半身に違和感を感じた。


「なんじゃダーリンそのズボンの膨らみは。ポケットにこっそりモンスターでも入れておるのか?」


 気付けば、夜の騎士剣が高々とかかげられていた。






 その後についてはあまり語ることもないのだが、俺が語りたいのでどうかもう少しだけお付き合い頂きたい。


 結論から言うと、俺の病は治っていた。

 命の危機に生殖本能が刺激されたからか、トラウマの元凶をぶん殴ったからか、エボニーは俺を裏切らないと確信できたからか、原因はわからない。でも治ってた(感涙)。


 それで、さっそく夜のワールドプロレスリングをしようと思ったんだが、興行成功までには少々苦労した。


 まず、エボニーは闇の物語(ノクターンノベルズ)的な知識は皆無だった。人族はキスすると子供が出来ると思い込んでいたらしい。人族の叡智を授けると「ハ、ハレンチじゃ......」と顔を真っ赤にしていた。


 あと、お互い未経験だったので初陣はそりゃあもう酷いものだった。



 でも、二人で段々と上達していった。

 やがて上達した互いが手練手管を尽くし、夜戦で勝った負けたを繰り返すのは多いに盛り上がった。

 盛り上がりすぎた結果、翌日メイドさんにめちゃくちゃ怒られたりもした。



 そんなことをしていると、当然子供もできた。






「マーティンもハーモニーも可愛いのぅ」

「そりゃあ、オレ達の子供だしな」


 子供は一男一女の双子が元気に産まれてくれた。

 立派な牧師さんに名前をつけてもらって、すくすくと元気に育っている。


「なあ、二人とも優秀だしいずれは王都の名門学園に通わせようと思うだけど、どう思う?」

「何と!我は田舎でのびのび育てようと思っておったぞ。」

「全く、俺たちは子育てではさっぱり意見が合わないなぁ……なら今夜も育児方針についてディベートバトルといこうか!」

「フフフ、やはり我らは末長く戦う定めよ。ブラックコーヒーの準備は任せておけ。」


 ちなみにもちろん、激論を戦わせたあとはノーサイドで、夫婦仲良く夜のスクラムを組むことになるのがお約束だ。

 闇の魔法の合言葉の通り、三人目が産まれる日も近いだろう。



 こうして、当初俺が予定していた”三年間限定の白い結婚”は現在、”幸せな漆黒”にすっかり吞み込まれている。

 もしかしてだけどこれ、マイハニーの宣言通りになっちゃったんじゃないの。

 

 『"白い結婚”だと……我が漆黒に染めてくれよう!』

  

 そういうことだな。

我は「自分のファンにだけ得をさせちゃうぜ」と考える東の魔王

次の記念企画開催時は、貴様のリクエストでもお話を書きたいである!


企画時は活動報告でリクエスト募集するので、興味のある方は是非お気に入りユーザ登録を。

あなたの好きなお話、なんでも書いてあげるよ!

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