永いいいわけ
「いやあごめんなさい。急に車が止まったから驚いたでしょう?実は私、ここで運転中に幽霊を見たんですよ。それで急ブレーキを踏んだんだけど、間に合わなくてガードレールにぶつかったんです。そこへあなたの車が来た。こんな話を信じないのも無理ないですけど、本当なんですよ。だからあなたと、あなたの車が多少傷付いても、それは私のせいじゃないんです。警察が来たらそう証言します。だって幽霊のせいなんだから」
私は呆然として、目の前の男が事故の原因は幽霊を見たせいだといいわけするのを見ていた。
しかし頭から血を流しているその男の足元と、彼の傍にある車のタイヤも、地面に接する前に消えている。
つまり、この男と、その傍にある車も幽霊なのだ。幽霊が幽霊を見たといいわけしているのだ。しかし、私には目の前の男が見たという幽霊は見えない。どうやらこれは地縛霊の類いで、事故に直接関係しているこの男の幽霊だけが私には見えるらしい。
夜中に山道を走っていたら、いきなり前方に車が現れたので、急ブレーキを踏んだが間に合わずガードレールにぶつかってしまった。何事かと外に出てみたらこの様である。
さて、警察にどう説明するか?彼らにこの幽霊が見えればいいのだが。
ふと視線を感じて背後を振り向くと、車から降りて、呆然とした様子で私を見つめている男がいた。
割れた頭から血を流しながら、私は自分のいいわけを始めた。
「いやあごめんなさい。急に車が止まったから驚いたでしょう?実は私、ここで運転中に幽霊を見たんですよ。それで急ブレーキを踏んだんだけど、間に合わなくてガードレールにぶつかったんです。そこへあなたの車が来た。こんな話を信じないのも無理ないですけど、本当なんですよ。だからあなたと、あなたの車が多少傷付いても、それは私のせいじゃないんです。警察が来たらそう証言します。だって幽霊のせいなんだから」