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堕落した王が復活:忘れ去られた王国の第二の人生  作者: 蓮司 風
第二章: 「フォーメーションの旅」
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第28章: 新しい家族

朝の柔らかな光がカーテン越しに部屋を満たし、夏のささやきのようだった。エルフの村は目覚めを迎えていたが、静かな宿の二階の一室にはまだ穏やかな余韻が残っていた。


タツヤは窓辺の小さな木製テーブルに座り、白い紙に向かって慎重に文字を綴っていた。そよ風が彼の茶色い髪をそっと揺らす。


筆跡は飾り気ないが、一文字ごとに想いが込められていた。


セリスへ


こんにちは、タツヤです。

今のところ、順調に進んでいます。

到着初日、親切な果物売りのメロさんと出会い、二日間の宿を無料で紹介してもらえました。

そして、リラという女の子にも助けられ、騎士団の訓練にも参加させてもらえました。


まだ強くはないけれど、毎日少しずつ成長を感じています。セリスに成長した姿を見せたいです!


今朝、とてもわくわくしています。メロさんが「旅する家族」を見つけてくれたんです。最初は断ったけど、彼らは長く旅を続けるそうで、

もしかしたら一緒に旅してくれるかもしれません。


今日、はじめてその家族に会う予定です。うまくいきますように。


約二週間ここにいるつもりなので、終わったらセリスのところへ戻ります。

技を教えたり、一緒に過ごしたりして、その後また旅に出ます。


みんなが元気でいることを祈ってます。


タツヤ


ペンを置いたタツヤの目に、目頭が熱くなる瞬間があった。文字が、朝焼けにきらめくように揺れて見えた。


「…セリス…」


深呼吸して、気持ちを引き締める。涙はもう見せない。彼は自分自身のために、そして相手のためにも強くなりたい。


そっと手紙をたたみ、リュックにしまう。そのあと水で顔を洗い、冷たい水が肌に触れて、背筋がしゃんとした。緑のシャツを整え、鏡越しに決意の眼差しを向ける。


ドアを開けて階下へ降りると、外にはしっかりと準備を整えたリラが立っていた。小さな背でも、凛とした立ち姿に確固たる意志が感じられた。


「おはよう、タツヤ。準備はいい?」


タツヤは力強く頷いた。その瞳には期待と覚悟が揺れていた。


「おはよう、リラ。うん、すごく楽しみだよ!」


リラは微笑み、声を弾ませた。


「じゃあ、行こう!」


二人は連れ立って村の小道を歩き始める。朝の光を浴びながら、世界がゆっくり目覚める中を進んでいく。


果物屋の前に着くと、メロが待っていた。色鮮やかな果物の籠の前で、まるで童話の一場面のようだ。


「おはよう、タツヤ。準備できてる?いい家族だから安心して」


タツヤは胸を張り、笑顔で答えた。


「はい、楽しみです!」


メロが籠を肩にかけ、二人を案内する。


「じゃあ、ついてきて。あの家族が待っているよ」


タツヤは深く息を吸い込み、心を昂らせながら一歩を踏み出した。


新しい出会い、新しい家――そして、新しい自分へと続く、旅の一歩が始まる瞬間だった。


朝の日差しがエルフの村の小道に降り注ぎ、銀色の葉陰が白い石畳にきらめく。そよ風に乗ってパンや花の香りが漂う中、タツヤの胸は高鳴っていた。これから本当の旅が始まる――そんな予感が彼を包んでいた。


メロとリラと共に歩き、やがて三人は蔦に覆われラベンダーの香る一軒の家の前に立った。見た目はごく普通の民家だが、どこか温かい雰囲気が漂っている。


メロが扉をノックする。二度──


コンコン。


ドアがゆっくりと開くと、豊満な胸を持ち、ファスナー付きの薄茶色のジャケットを羽織り、その下に緑色の下着が見え、黒いズボンをはき、金髪を結い上げた、甘く微笑む女性が現れた。温かみのある彼女の姿に、達也の背筋が自然と伸びる。


「おおっ、メロさん!」


女性――ユリコと呼ばれるその家の主は、手を広げてタツヤを迎えた。


「おはようございます、ユリコさん。ご紹介します。こちらが、タツヤ君です」


メロの紹介に、ユリコはくすりと笑いながら首をかしげた。「おや?エルフじゃないのね?」


メロは少し照れ笑いで頭を掻きながら答えた。「いいえ、彼はエルフではありません。前にも話したよね」。


「ああ、そうだったわね…ごめんなさいね、忘れてたわ」


その言葉のあと、ユリコはぱっと手を伸ばし、タツヤを抱きしめた。


「えっ!ちょっ…待って…!」


急な抱擁にタツヤは言葉を失う。が、その胸に温かいぬくもりが流れ込み、心の奥にあった孤独がふっと溶けていく。


「今日からあなたはうちの可愛い息子よ!」と、ユリコは笑顔で頬をくっつけるようにして言った。


タツヤは一瞬固まったが、内側からじんわりとこみ上げる安堵を感じていた。


「お!もう打ち解けてるじゃないか」とメロは満足げに頷き、リラに向き直る。


「そろそろ行こうか、リラ」


「うん!…タツヤ、またね」と手を振るリラ。


「あ、ああ…またね、リラ…」と、タツヤは心から微笑んだ。


ユリコは背中を軽く押し、「さあ、入って。ここはあなたの家よ」


と言った。


「わ、わかりました…ありがとう」


玄関をくぐった瞬間、タツヤは包み込まれるような安心感に包まれた。いたってシンプルな室内だが、整理整頓され、パンや木の香り、そしてスパイスの匂いが混じる空気が、深呼吸を優しく誘った。


「わあ…すごく居心地いい…ほんとに嬉しい…」と声に出して呟く。


「ほんと?よかったわ!」とユリコは両手を軽く叩いて笑顔を見せた。


そのとき、奥の扉が開き、一人の男性がゆっくりと現れた。目を引くのは白髪と、ラストーンのようなジャケットとインナーの色合い。


「やあ、君がタツヤ君か」


男性は柔らかく声をかける。タツヤはすっと姿勢を正し、


「はい。初めまして、荒川タツヤと申します」と丁寧に名乗った。


男性はにっこり笑い、手を振りながら


「堅苦しいことはいいよ。僕の名前はアルバート・カー。略してアルバートでいいよ」


と言った。


「よろしくお願いします…」


タツヤは小さく、しかし真摯に頷いた。


アルバートはぽんと肩を叩きながら、


「来てくれて本当に嬉しいよ」と笑いかけた。


タツヤはすこし照れながらも堅く握った拳を胸に当て、


「はい。メロさんから、旅する家族だと聞いて…僕には目的があります。今の国は再建中で、騎士たちも未熟で…だから、少しでも強くなりたいんです。だから、旅ながら鍛えるには、アルバートさんたちとなら安心できると思いました」


と話した。


アルバートは満足そうに頷き、


「そのとおりだ。僕たちは旅人の血を引く家族だよ。世界を見て、新しい人に会う。それが大好きなんだ。君の目的もうれしい。それでこそ仲間だ」


と言った。


「本当ですか?」とタツヤが驚きの瞳を向けると、


「いまちょうど、次の旅に出ようと思っていたところなんだ。君を迎えるにはちょうどいいタイミングだね」とアルバートは笑った。


タツヤは一歩前へ踏み出し、まっすぐに目を見つめて、「これから僕を頼ってください!」


と元気よく宣言した。


アルバートは豪快に笑い、「おお、いいぞその意気だ!君も仲間だ!」


と言って、二人はまるで昔から知る間柄のように笑顔を交わした。


ユリコは静かにその様子を見守り、穏やかな微笑を浮かべていた。


――その家の中で、ささやかな新しい物語が動き出していた。


新しい絆。新しい冒険。そして、心に刻まれる新しい名前。


アルバートは閉ざされた扉の前で足を止め、明るい声を投げかけた。「──ねぇ、シルナ!新しい弟くんに会いにおいで!」


内側からはキッパリとした声が返ってきた。「いやあぁぁぁ!」


タツヤは思わず体を小さく跳ねさせた。


アルバートは肩を竦めて笑いながら、額に手を当てた。「まったく~。来なきゃ夕飯抜きだよ?」


「うっ、ずるいよぉ!ひどい!」


すると扉が勢いよく開いた。軋む取っ手の音とともに、顔を折りたたむように現れたのは、小柄で腕組みをした少女――タツヤと同じくらいの年頃だろう。表情はふてくされたようで、大人びていた。


真っ白な髪は短く整えられ、両側には目元まで届く髪が落ちている。瞳はグリーンとアンバーが混ざり合った不思議な色で、不満そうに光っていた。


「来たわよ、パパ!」と一言、踏み込むように近づいてきた。


アルバートは少し笑みを浮かべながら、誇らしげに彼女を指さした。


「オーケー。サーナです。達也です。今日からうちに住むことになりました。だから、いいお姉ちゃんになってね?」


シルナはくるりとタツヤを睨みつけ、膨れた唇が口元を引き結んでいる。


「ぷん!知らない人に何言ってるのよ、私!」


「シルナ?!」


シルナはため息を一つついて、半ば呆れたように手を軽く挙げた。「ふん…シルナよ。よろしくしなさいって気分なら、してあげてもいいけど?…挨拶したんだから分かった?」


タツヤは一瞬固まり――その強気でエネルギッシュな雰囲気に少し圧倒されながらも、なんとか口を開いた。


「ぼ、ぼくは…荒川タツヤです。よろしくお願いします…」


その場が一瞬静まり返る。しかし次の瞬間、シルナは顔を背けて言い放った。


「よし、挨拶も済んだし…私はこれで失礼するね!あたしのもの、絶対に貸さないから!」


「シ、シルナ…」とユリコが呟いた。申し訳なさそうに見つめる。


しかしシルナはすでに背を向け、部屋の奥へ音もなく消えていった。その背中から、小さな生意気な空気だけが漂った。


タツヤはじっと立ち尽くし、胸の前で両手をぎゅっと握りしめた。「ごめんなさい……僕、迷惑かな……もし…いやなら…僕…」


「そんなこと言わないで、タツヤ。」ユリコの声はそっと肩に届く毛布のように温かかった。彼女はタツヤに寄り添い、優しく肩を抱いた。「シルナはね、そういう子なんだよ。悪い子じゃない。ただ…不安で、自分のペースで近づきたいだけなの。」


アルバートもにこりと微笑みながら頷いた。「そうだよ。大丈夫さ。きっとそのうち、二人は馴染むよ。シルナにも一歩があるんだ。」


タツヤは小さく頷いた。胸の中には、少しだけ希望の灯が灯っていた。「ぼ、ぼくもそう思えるといいな…」


アルバートが腕を広げて声を弾ませた。「さぁ!自己紹介も済んだし――遊びの時間だ!」


その言葉で二人の空気はふっと緩んだ。その午後は、笑い声と軽やかな足音と共に続いていった。アルバートとタツヤは家中を走り回り、子供のように追いかけっこをした。(外見こそ幼いが、実力は既にそこにある。)


ユリコは優雅に遊びを取り仕切り、温かな笑みとお菓子で二人を見守った。台所には温かいスープの香りが立ち込め、夕暮れの陽が窓越しに柔らかく差し込んでいた。




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