第20章：隠されたサプライズ
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「見て、セリス！」小さな腕を誇らしげに曲げて声を張るタツヤの、その声に子どもらしい輝きが戻っていた。「すごく元気だよ！」
セリスは嬉しそうに拍手をし、笑顔が部屋を温かく包んだ。「本当に良かった、タツヤ！」
そして、 弾むように次の言葉が漏れる。「じゃあ、今すぐお祝いしようよ！タツヤが元気になったお祝い、パーティーだよ！」
しかしタツヤは手を振って制止した。「ちょっと待って…実は僕、あと二日で九歳になるんだ。」
意味ありげに笑って、続ける。「そのときにパーティーしたらいいんじゃない？」
セリスの目がまん丸に見開かれた。そして――飛び上がるほど喜び、まるで世界中がお菓子でできているみたいに跳ね回った。「本当に？タツヤの誕生日なの？教えてくれればよかったのに！すごいお祝いをしよう！超楽しいパーティーするよ！」
そのハイテンションに、タツヤもつられて笑顔を返した。「うん…二日後、誕生日なんだ。」
セリスは待たずに飛び出して行った。タツヤは一瞬、ドアの方を見つめて首をかしげる。「どこに行ったんだろう…」と首の後ろを掻きながら、くすりと笑った。
部屋の反対側にあるベッドへ視線を向ける。
カエルスはまだそこにいた。動かない。
呼吸は安定していたのに...目が覚めない。
まるで彼の心は2つの世界の間を浮遊し、深い眠りに鎖でつながれているかのようだった。彼がいつ目覚めるのか、あるいは目覚めるのか、誰にもわからない。
「いつ目覚めるんだろう…」と小声でつぶやきながら、その日は静かな一日が過ぎた。
セリスはいなくなった。国王もタケダも姿を見せないまま。タツヤは城をぶらぶら歩き回り、ただ時をやり過ごした。
夜になり、彼は外へ出た。空には月が輝き、兵士たちは武器の稽古に汗を流している。金属がこすれ合う音、掛け声……それらが響く中、タツヤは壁にもたれ静かに目を閉じた。
しかし、やがてその表情は曇る。「この国、すごい騎士が…いないのかな…」
数人は剣をまともに構えられず、怯えて縮こまる者もいれば、木の陰に隠れるだけの者もいた。
彼は小さく首を振ってつぶやく。「この国には、本当の騎士がいないんだ…」
休憩時間を狙って、足早に城へ戻る。誰にも見つかりたくなかった。階段を駆け上がり、廊下を抜けて、彼だけの部屋に戻った。
ドアを閉めると、ベッドに崩れるように座り込み、ため息をついた。「セリスはどこに行ったんだろう…王さまたちも…。みんな いなくなっちゃったみたいだ…」
心の中はまた、小さな嵐だった。不安と疑問が渦巻く中、次第に瞼が重くなる。
ゆっくりと深呼吸を繰り返し、そのままタツヤは目を閉じた――静かに、確かに、眠りが彼を包み込んでいった。
朝の光が窓から差し込み、眠そうなタツヤの顔を優しく包む 小さな声でうめきながら、手を伸ばして眩しい日差しを遮った。
「ん…もうこんなに明るいのか？」
ゆっくりと起きあがり、猫のように背中を伸ばす。軽く顔を洗い、静かに部屋を出た。だが、廊下を歩くうちに異変に気付く。
「なんだか、静かすぎる…」
声も、鎧の音も、誰の気配もない。タツヤは立ち止まり、手で頭をかいた。
「変だな…誰も、元気かどうか見に来てくれないのか？ セリスでさえ…」
肩をすくめ、みんな忙しいのだろうと思って外へ向かった。でも正面玄関ではなく、裏手の小さな扉を選んだ。
外に出て、目の前に広がる景色に息をのんだ。
太陽の光が芝生に優しく降りそそぎ、小鳥が空を舞い、木々の葉がそよぐ。花々はそよ風に揺れ、世界が穏やかに息づいていた。
「なんて癒やしの風景だ…何時間でもここにいたいな」
そう言ってタツヤは、大きな木陰の下に腰をおろし、そっと目を閉じた。そよ風の歌に耳を傾けていたが、その平穏は長く続かなかった。
遠くから聞こえる声とざわめき。次第に近づく足音。
タツヤはとっさに立ち上がり、音のする方へ駆け出した。
そこにあったのは、信じがたい光景――人の背丈よりも高い巨大なケーキを、王様、タケダ、セリス、そして数人の騎士たちが、大袈裟に運んでいたのだ。
「え、えっ…？！ あれって、ぼ、僕のためのケーキ…？」
思わず茂みに隠れて息を殺す。
——やっぱり、昨日みんながいなくなってたのはこのためか。
窓の隙間から身を乗り出し、声を聞き耳を立てた。
「急げ急げ！あいつに見つかる前に！」タケダが小声で指示を飛ばす。
「すぐに冷蔵庫の部屋へ運ばなきゃ！」と王。
セリスは額の汗を拭いながら呟いた、「大変だったけど…このケーキ、作ってくれた奥様に感謝しないとね。」
「夜通し準備してくれたんだぜ。さすが王国一のパティシエだ！」と、騎士のひとり。
タツヤは驚きを隠せない。「すごい…本格的に祝ってくれるんだ…！」
続けて、
「あとプレゼントだけだよね？」
「そうだ！」
「部屋の飾りつけは整った？」
「まだ、今日中にやらなきゃ」
「最高！すごいパーティーになるぞ！プレゼント探しに行こう！」
その瞬間、タツヤは背筋が凍った。
「え…出かける…！」
慌てて茂みに隠れ、みんなが去るのを見届ける。
セリスがふと立ち止まり、「ん？音がした…？」
「風のせいさ！さあ行こう！」とタケダ。
足音が遠ざかると、タツヤはほっと息をつき、念入りに埃を払いながら立ち上がった。
「はぁ…危なかった…」
ヨレっとしたシャツを直し、微笑む。「でも…どんなプレゼントかな…楽しみだな」
いつまでも晴れ渡る空の下――久しぶりに、心が高鳴っていた。
興味が頭の中でハチのようにブンブンと飛び回っていたにもかかわらず、タツヤは彼らを追わなかった。
その場に、数秒間だけじっと立ち尽くし、やがて静かな微笑を浮かべながら、ゆっくりと足を城内へと戻した。おそらく、それが一番良い選択だったのだろう。翌日が来れば、すべての答えが自然と揃うのだから。
城の廊下を、まるで踊るように軽やかに歩いた。胸の奥に心地よい安らぎが満ち、風が自分と並走しているような気分にすらなった。
しかし、ふとある考えが脳裏をよぎった。約束。どうしても後回しにできなかった、大切な言葉だった。
足を止める間もなく、タツヤは踵を返して疾走し、治療室の扉を勢いよく開け放った。
部屋には、いつものように静寂だけが漂っていた。カーテンがそよ風に揺れ、淡い光が差し込む。そのまどろみの中で、ベッドの上には—あの人が、変わらず横たわっていた。
カエルス。
タツヤは静かに近づき、そのゆっくりとした呼吸を見つめた。胸元がわずかに上下するたびに、まるでこの世界にしがみつくような生命の鼓動を感じた。
「まだ、眠ってるな…」彼は苦笑を浮かべながら、小声でつぶやいた。
その目は覚悟を帯びていた。
「カエルス…俺、約束するよ。 もっと強くなる。 もう誰の足を引っ張るような存在には、なりたくない。 全力で鍛える。これ、誓うから。」
数秒の静寂の後、タツヤはふと顎に手をやり、困惑混じりの表情を浮かべた。
「でもな…正直言うと、ここにいてどれだけ強くなれるか 俺にも分からないんだ。」彼は苦笑し、苦々しげに肩をすくめた。
「騎士たちの訓練、ちょっと見ちゃったんだ。 剣の一本もまともに握れない奴ばっかりでさ…。どんな訓練をしてるんだか知らないけどさ、確かに“王道”とは言えないよな。」
ふと振り向き、再びベッドのカエルスを見つめた。
一歩踏み出したが、扉のそばで足を止める。
「そうだ。明日、俺の誕生日なんだ。みんな、すごいパーティーを準備してくれてるみたいなんだ。 でもな、本当に残念なのは…お前が来られないことだけど。 目が覚めたら…全部話してやるよ。約束だ。」
その言葉を最後に、タツヤはゆっくりと扉を閉じた。
静寂の中、達也の心臓は強く鼓動した。彼を待つ宴のために。約束のために。
一刻も早く目を覚ました彼に再会したい人のために。
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