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「できましたよ、ご飯。見てないでさっさとお皿運んでください。」
外の世界では、物騒な呼ばれ方をされてる彼女だが、この村の中ではそんな面影は一切ない。この村にいるのは、ただの怠惰な錬金術師だ。
「いやー、相変わらずの料理の腕だね!あの激マズで有名なマグキノコをここまで美味しく調理できるのは王国内で君だけだよ。っていうことで、これからも僕のご飯は任せたよ。」
「王国で一番って...そんなわけないでしょう。本職の料理人の方々に失礼ですよ...あと流れで面倒ごとを押し付けないでください!料理を作るのは雑草抜きに来るときだけですよ。」
「あれれ?結構本気で褒めたんだけど...僕が褒めることはあんまりないよ?それこそガイアドラゴンが空を飛ぶぐらい珍しいことなんだけど...。」
「..............」
「どう?僕のこと好きになった?結婚する?」
「...??.....冗談ですか?俺もう帰るんで、今日は自分でお皿洗っておいてくださいね。」
「...冗談じゃないけど.......それより機嫌治して!ほらポーション!僕特製!」
...忘れてた。ポーションは絶対にもらわないと。
「いやー...今時僕のポーション欲しがるのってきみぐらいだよ!昔は皆こぞって集ってたのになぁー...街一つ潰しただけでみんな騒ぎすぎなんだよ。そのおかげで何万人も救えたのにほんとひどい話だよね。イルン君もそう思うよね?」
「...まあ、そうですね。」
この話は本当だ。
今から30年前、銀触が起きた。銀触とは...いや、まずこの世界について説明しようか。この世界には 人類 動物 魔物が存在している。
人類は俺たちのこと。魔物は動物の強化系みたいなものだ。
それで...銀触。これはある周期で発生するといわれる、魔物の凶暴化の呼称だだ。
凶暴化だけならまだマシなんだけど、厄介なのが格が1段階上がること。生き物には格が存在している。格とはいわば、レベルみたいなものだ。
格はだいたい5段階に分かれてるとされて、一番下は動物。次に人間、魔物と続く。そのなかでも強い個体が格Ⅲといったところか。
さらにそこから稀に格Ⅳの魔物が出現することもあるが...その脅威は1匹で小さな街なら滅ぼせるといわれる程だ。格Ⅳを倒せるのは格Ⅳだけ...この世界ではそういう認識で扱われている。
格Ⅲでも騎士レベルが必要なのに、もしそれらが全員格Ⅳになったら...?その結果が30年前である。王国内の3つの主要都市の崩落、人類側の格Ⅳ...英雄クラスが多数殉職。残りの4つの都市もかなりの痛手を受け人類側は膨大な被害を受けた。この時に1つの街で死人を1人も出すことなく守り切ったのが、この人だ。まあ、あくまで守り切ったのは人の命だけだが...。
彼女のおかげで死人を出すことはなかったが、その都市は汚染され、およそ人の住めるような環境ではなくなり、いまでも放置されたままみたいだ。
この時についた汚名が”王国最悪”。
自分としては、人類の危機が迫ってた時に死人を出さなかったという事実は偉業レベルだと思うのだが...その街を愛してた人らにとっては相当きたらしい。
" ほんと人類とは勝手なものだ "
...?今何か変なことを考えたような...まあいっか。
ちなみに格Ⅴの魔物は存在しない。あくまで銀触は格Ⅳまでしかあげれないとされており、格Ⅴに昇華した例はいままで一度もないらしい。格Ⅴに座しているのは歴史な中でも、人類側の" 王 "と 魔物側の" 王 "だけだ。
その力はおよそこの世界の常識とかけ離れており、格Ⅳですらまるで相手にならないのだとか...。
実際に目にしたことがないいから何とも言えないが、30年前に人類が滅びなかったのも王のおかげなのだろう。村にいる長寿の生き残りが皆褒めたたえているのを聞いていると余計にそう思う。
魔物の王は...面倒だから無難に魔王と呼ぶことにする。魔王も強いらしいが、人間に被害を直接加えたことはなんと一度もないらしい。ただ人類の王が掲げている世界の存続とやらには、魔王を倒すのが必要不可欠らしく、いまでも戦い続けているのだとなんとか。
説明が長くなったが、銀触は一定の周期で発生するやばい現象で、俺が生き残るためには想定してた以上の力が必要だったということ。
それを解決してくれるのがこの人の作ったポーションだということだ。
随分と大層な肩書を持つ彼女のつくったポーションだが、害は一切なく、ひたすらに身体を強化してくれる効果があるのだ。...味は終わっているが...
そんなすごい薬を忘れていくわけにはいくまい...ということで
「お疲れさまですーまた明日ー。」まるでバイトの帰りかのような挨拶で俺は今日も我が家に帰るのであった。
その背後からは「あれ!?急すぎない!?普通に会話成立してたよね?!あ、ポーション...ん?無くなってる...いつの間に!?」となにやら騒がしい声が聞こえた気がするが...まあどうせ明日もその次も来ることになるのだ。対応も明日の俺に任せよう。いまの自分は、ただ晩御飯を楽しみに足を動かすだけだった。




