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「ううむ...これはまた..」
少し曇った空の下、老人が唸っていた。
午後まで休んで回復した俺は、意気揚々と魔法を学びにおじいさんの家に向かった。
おじいさんも約束通りに早速、「詳しい適正を調べる」となにやら魔法の前準備らしいことを始めだしたのだが.....
「どう?俺って強くなれそう?」
「どういったものか...むむむ...。」なぜかこのように唸ってばかりなのである。
「得意不得意ってのがあるのは知ってるからさ。もし成長する見込みがなかったなら全然正直に伝えてくれていいよ。」
このおじいさんは腐っても元宮廷魔術師...超すごい魔法使いなのだ。
それは当然弟子も何百といたらしいし、今までの会話から教えるのが下手ってことも絶対ない。そんなおじいさんでも唸る俺の適正。伝えるのを躊躇するほどな弱さだったのだろう。
「...いや、イルン。成長する見込みがないとかそういった話ではないのだ。
ただちょっと、今特訓してもあまり効果がなさそうなことがわかってな。」
「特訓の意味がない?」...昨日の夜聞いた通りだと、魔法は特訓すればいくらでも強くなれる...とかなんとか言ってた気がするのだが...。
「正直言えば特訓すれば一応、なにもしないよりはましになるぞ?だが、効率を考えるとな...今はその時間を肉体強化に専念したほうが、お前が言う生存率とやらはあがるだろうな。」
なにやらおじいさんしらべだと今の俺は魔法の特訓効率がめっちゃさがってるらしい。
「なんであんま効果でないの?」疑問は疑問なので聞いてみることにした。
「よいか、イルン。まず大体見たところお前の体に異常はなく、問題なく魔法は教えられることがわかった。たまに魔力暴走体質みたいな、魔法教えたらやばいやつおるからそうじゃなくて安心したわい。」
「だがな、異常がないにもかかわらずイルン、お前の魔法血管の幅が狭すぎてな。これではいくら魔法の特訓をしても、出力がでないんじゃよ」
出力...魔法の出力のことだ。この出力はそのまま魔法の威力に直結する。
出力が弱ければ、元が岩さえ粉々にできるような強力な魔法でも、せいぜいが岩に傷がつくほどしか火力が出ない。この世界で魔法を使っていくなら覚えておかないといけない大事な要素だ。
「その...魔法血管?の幅が狭い原因ってなんなの?」
「うむ、間違いなく固有スキルの影響じゃろう。」
固有スキルとは、この世界に生まれ落ちた生き物ならだれでも持ってる生まれつきの異能だ。唱えれば効果が皆同じになる魔法と違い、固有スキルの効果はてんでばらばらだ。効果にはデメリットがあることもあるらしい。しかも自分の固有スキルは10歳で執り行われる鑑定の儀でしか、知ることができない。
でもそうか。出力がひくいのも固有スキルなら...
「そう。固有スキルにはデメリットがあることもある。その分何かに優れる場合が多いが...。ともかく10歳で固有スキルの効果がわかるまでは何かしてやれることもないということだな。もし魔力を蓄積する固有スキルだった時に、
特訓してたせいで限界まで魔力がたまってイルンが爆発しました、なんてなったらいやじゃろう?」
...怖!なんだよその固有スキル。
どうか自分はそのスキルに当たりませんように..。
「まあそんな固有スキル聞いたことも見たこともないんじゃがな。」
「ないのかよっ!!」
なんて冗談だよ、このおじいさん...
「...ともかく、特訓は10歳までおあずけじゃな。10歳までは身体を鍛えているとよい。基礎身体能力が高ければ魔法も様々な応用ができるからの。」
「それじゃあの」、そう言い去っていくおじいさん。
10歳かー...。今朝からの興奮はそのまま4年後にお預けになってしまった。
今日から魔法が使える!って思ってたから、なかなかこの処遇は残酷だ。
それはそう。喉の乾いた俺の目の前に、大好きな牛乳が冷えて置いてあるのを、眺めてることしかできないような...。
「...とりあえず、おじいさんの言われたとおりに身体鍛えるか。村に筋トレ大好きな人はいなさそうだし...自己流で頑張るか!」
もともと身体を動かすのは好きな俺だ。しかも4年後までほかにすることもなし。
「なんか筋トレによさそうなグッズとかないかなー」、魔法をお預けになった俺は、そう呟きながら、今日二度目の帰宅を実行するのであった。




