A-018.0426.1805 乙
ぱっと明かりがつき、急な眩しさに目がくらむ。
「移行が完了しました」
騒がしく鳴っていた機械音が次々に消えていき静かになる。
もう着いたのだろうか?全く揺れなかったので移動した感覚がない。
シートベルトを外し、席を立つ。
エレベーターの扉が開いた。
急いで荷物をまとめて扉へ向かう。
扉の向こうは地下と打って変わり、シロヘビの装飾も無く純白にも思える通路が長く伸びている。進んでいくと、ここはまだ地下だったらしい。また別のエレベーターに乗り、今度こそ地上に到達した。
改札を出ればそこは見慣れた東京駅……では無かった。
構造はおそらく同じ、けれどわたしが知る限りエレベーターを出て左にはたくさんのお店が並び、様々な路線のホームへ降りる階段があるはず。
しかしここに賑わいは無く、階段があると思しき場所も壁で閉じられており人気を感じない。
右を見れば、たくさんのオレンジ色の作業服を着た人たちがせわしなく荷物を運んで、汗を流している。
後ろを振り返ってもガラスブースの部屋が二つあるが、片方はオフィス、もう片方は段ボールなどの荷が積まれて倉庫化していた。
電車が走る音は聞こえているものの、作業服を着ている従業員ばかりで、客らしき人影はなし。
やはり、地下とは何もかもが違うと言える。
一度深呼吸。
さて、係りの人が来てくれると聞いていたが見当たらない。
時刻は予定通り。
不用意に動くわけにもいかず、どうしたものかと考えていると遠くから走ってくる足音に気づいた。
「すいませーん!」
明るい栗色の髪を揺らし、今にもつまずきそうなヒールで走ってくる女性が一人。
わたしの前までたどり着き、荒くなった呼吸を整えながら彼女は話始めた。
「はぁ東京基地、魔石特務部隊、オペレーター班所属、六郎面比女と、申しますー。魚石アスカさんで、いらっしゃいますかぁ?」
「はい、合っています。あの……お水どうぞ?」
ぜぇはぁ言いながら喋るものだからついついおせっかいを言った。来る途中、自販機で買った水を差しだす。
「ありがとうー!あなた優しいのね!」
ごくごくと、ただの水を美味しそうに飲んだ。
「ぷはーごめんね、遅刻しちゃって。改めて、案内を任されました、比女です。苗字が長くて呼びづらいから、あたしのことは名前で呼んでねー。よろしくアスカちゃん!」
なにかと動きが大振りで、薄化粧の鼻筋が通ったキレイな人だ。
フランクな性格らしい。話しやすくてありがたい。
「よろしくお願いします。比女さん」
「えー、あたしにはため口でいいよー」
「いえ、年上ですしいきなりは……」
そっかーざんねーんと言いながら脇に抱えていたファイルを開く。
「ええとごめんね、じゃあ本題に。確認しときたいんだけど、アスカちゃんの志望は前線部隊で間違いない?」
「はい、合っています」
「……かなり危険なんだけど、ほんとに?」
「問題ありません」
ふー、と息をつきながら悩んだ表情になる。
「オッケー、面接室に案内するね」
「お願いします」
ちょっと歩くよー、と比女さんが歩き始め、それに追従した。
丸の内口方面に中央通路を歩いていく。
時折すれ違うのは、働く人たちばかり。
「まー出かけるような所なんてないからねーあはは」
そう答えた比女さんはどこか寂しそうだった。
中央通路を右折して北口へ。外へ出るのかと思いきや、北口からまたエレベーターに乗る。
二階へと上がり、渡り廊下を過ぎようとしたとき、窓から外が見えた。
塔の壁面が目に入る。
旧東京駅を貫くように、塔が増築されていた。
広めの渡り廊下は旧東京駅と塔を繋ぐものだったのだ。
しかしもっと驚いたのは、周りの風景が田舎だったこと。
アスファルトが敷かれた道は少なく、ビルも無い。
遠くの山の向こうまで見渡せる。
地下からは想像できない。
つい風景を眺めていると、比女さんが話しかけてきた。
「いやー地下出身だっけ。やっぱり違う?」
「はい、東京と呼ばれていることは変わらないのに……こんなに自然豊かとは思いませんでした」
「あははっ言い回しが上手いね。あたしが面接官なら加点してたかもー」
「そんな、濁した言い方をしたつもりはないです。都会の喧騒に慣れすぎて気づきませんでしたが、わたしは静かなところが好きみたいです」
「そう、良かった」
比女さんが立ち止まり、振り向く。
「面接はこちらの部屋になります。準備が整い次第お呼びしますので、それまで椅子に掛けてお待ちください」
「は、はい!」
「あはは、ごめんね急に」
突然の仕事モードに驚いたが、元に戻り安心する。
「多分、いや絶対大変だけど、あたしはアスカちゃんに入ってほしいなー。頭固い人居るから苦労すると思うけど……」
比女さんがおでこを人差し指でつつきながら言う。
「難しい顔した人が居るの!でも悪い人じゃないからねー」
「……ふふ」
むー、と顔にしわを寄せる比女さんは愛嬌があって、つい笑ってしまった。
「ちょっとは緊張ほぐれた?」
「……はい、ありがとうございます」
「良かったー。ってまずい、また遅れる!じゃ、がんばってねー!」
と言い残し、腕時計を気にしながらまたつまずきそうな駆け足で去っていく。
後ろ姿に黙礼した。
面接はもうすぐだ。
お疲れ様です。下地です。
もちろんチェックしていますが、誤字脱字等見落としている可能性もあります。
誤字脱字だけでなく表記ゆれ、矛盾なども、もし気づきましたら教えてくださると嬉しいです。
感想などもお待ちしております。
次回は通常通り3日後、12月8日に投稿予定です。
地上と地下が繋がり、それぞれが三者三様に動き始める。