番外編 あなたに、会いたくて6
アスカちゃんはやはり、地上に行くらしい。先生に相談して着々と準備を進めている。四月二十六日は彼女の誕生日だ。十八歳になると採用要件を満たすらしい。誕生日当日に行くんだと勇んでいた。
ゆめを語る姿は、あの子を思い起こさせる。
『霄はもっと広くて、多彩で』
行ってみないと分からない、なんてアスカちゃんは言うけれど。
素直に応援できない自分が嫌だった。
淡々と打ち明けられる事実には胸を締め付けられた。
「父さんを捜したいの」
唯一の家族が居なくなるとは、どんな心境なのか。想像もつかない。
つくづく、あのときと似ていた。
「行ってきます!」
輝く笑顔で、発つ彼女。できたのは、祈ることだけだった。
翌日、アスカちゃんは学校に来なかった。
次の日も、また次の日も。
「良かったんですか?」
昼休み。ぼんやりと卵焼きを口に運んでいると、そら子ちゃんが話しかけてきた。
「え?ああ、ん?」
気の抜けた返事とともに、そら子ちゃんと目が合う。熱を帯びた視線。
いつもと違うそら子ちゃんがそこに居た。
「藤子さんはついていくと思っていました」
言葉は直球だった。
ぐっと、なにかを飲み込む。
「心配なんですよね?」
「でも、他人がどうこう言う話じゃ」
「アスカさん、倒れたというお話でしたし」
え?
「待って、どういうこと?初耳だよ!?」
「なんでも心身ともに疲れてらっしゃるとのことで」
寝耳に水だった。どうしよう、なにがあったんだろう。けれどできることなんて……。
「なにも、ありませんか?」
ハッとさせられた。
「藤子さん、ずっと様子がおかしいですから。人の気持ちが分からない私でさえ、気がつくほどに」
「ふふ、それ自分で言うの?」
「事実ですから」
他者の心情に言及するそら子ちゃんは初めて見た。そのくらい、私が変だったのか。
「なにかあったとき、先陣を切りたがるのは藤子さんです。気になるなら、行けばよろしいではないですか」
彼女の言葉が、私の心を揺さぶる。
お疲れ様です。
振り向かないアスカ。動揺する藤子。様子がおかしいのはブーメランそら子。
やはり、三者三様。みんな見ている景色は違います。
次回更新も一週間後、10月24日の予定です。
よろしくお願いします。
藤子の出す結論は。




