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番外編 あなたに、会いたくて3


 夜中、ふと起きてお手洗いに行こうとしたところだった。

 リビングから両親の声が聞こえる。

「私の言った通りだったでしょ」

「いや、うちの主張は通らなかったはずだろ?」

「居なくなったということは、やっぱりなにか裏があったのよ。通報して正解だったわ」

「そうかなあ……」

「あなたもこれからはちゃんと早生の農法を守る意識を持ってください。無農薬栽培ができるのは、うちだけなんだから」

「……分かってる」

「盗みを働こうとする友達なんていたら、ろくな育ち方をしないわ。友達も選ばないと」

 足音を立てないよう寝間に戻り、布団の中へ引っこんだ。身体がぶるぶると震える。指先は冷たいのに、腹の奥底から煮えたぎる感情が溢れた。

 なんて見る目がないんだと思った。親も間違えることを知った日だった。

 なにより、後悔した。家に呼ばなければ通報されなかった。私が手を引いたりしなければ。

 涙がこぼれる。


 小学校を卒業し、母の意向で聖ヘレナ女学院に進学した。超がつくようなオジョーサマコーに、土いじりの経験がある生徒はいないようだった。どこか場違いな気がして馴染めず、いつの間にか一人が日常になっていた。

 登校して授業を受けて、時間通り下校する。

 無地無色の日常が過ぎていき、高等部へ上がった。

 なにかを変えたいとも思っていなかった。


 希薄なまま訪れた、高校初日。

「魚石アスカです。地上に行きます」

 彼女の第一声は鮮烈だった。

 教室がざわつくのは当然のこと。はしたなくも開いた口が塞がらない。

 地上は貧民窟(ひんみんくつ)であり野蛮で危険。百害あって一利なし。それが義務教育で習った常識であった。政治や宗教と並ぶタブーなので、浮いてしまうことは必至。

 彼女は例外だった。

 誰もが目を引く容姿。彼女の一挙手一投足は指先まで美しさが通っていた。

 かといって、自分も周囲もトクベツ扱いすることなく。

 求心力を得るのは必然だった。

 彼女は優雅に揺蕩(たゆた)う魚のようだ。私はこれまで通り、雑草に徹した。


お疲れ様です。


しょんぼりふーちゃんの前に現れた魚石アスカ。

まだ関わりはないようですが……。


次回更新も一週間後、10月3日の予定です。

よろしくお願いします。


地下東京には有名なイベントがあります。

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