A-018.0525.1820 コードネーム『ドミナンス』
山羊、と言うには畏れ多い。その風貌に気圧される。
周囲で上がる火の手を写しぎらぎらと光る金色の眼、歩くたびアスファルトにヒビを入れる蹄は、既にして何軒もの家屋を瓦礫の山に変えていた。真っ白だったであろう毛皮と角は朱で汚れている。
人が倒れていた。
「みんなと合流しよう。一人じゃ危険だよ」
踏み出そうとして、比女さんにぴしゃりと止められてしまった。単独行動は鮫浦副隊長を除いて厳禁。正論であった。
「……比女さん」
「ダメ。六・八事件の資料読んだんでしょ?」
「いいえ、状況が違います。わたしたちは先人の教訓を得ています」
また一つ、建物の崩れる音がする。
「そして、鮫浦副隊長が居ます。耐えれば、わたしたちの勝ちです」
比女さんの目を見つめる。
「それでもダメって、羽須美先輩なら言う」
厳しい声色だった。
「……んだろうけど、あたしもちょっと意見が違うんだよねー。アスカちゃん寄り」
一転してわたしの知る比女さんに戻り、面食らう。
「あははーだから提案するよ。足止め、それだけに徹することってできる?」
足止め、言い換えるなら偵察を請け負え、ということか。
「はい」
やれやれといった様子で苦笑する比女さん。
「相変わらず即答だねー。困っちゃうなー、あたしが言い出したことだけど」
「生意気な後輩ですみません」
「そうは思わないけど……いい?足止めだけだよ?深くは踏み込まない。これはゼッタイ」
「分かりました」
「全速力で鮫浦先輩を連れてくるから」
「はい!」
「あとでねー!!」
遠ざかる比女さんの背中を見送り、山羊と対峙すべく前へと歩み出る。
「おねがいヒカリ。力を貸して!!」
ペンダントが輝き始めた。
初日、店で襲われたときのことを思い出す。
未熟を自覚した。あれから鍛練は続いている。
成熟は遥か先。教訓を胸に。
「今度は、上手くやる」
甲高い鳴き声が響き渡る。
お疲れ様です。
ちょっとだけ、分かれ目かもしれません。
重要なときに居ないのはヒーローの鉄則かもしれません。脅威ゆえ。
次回更新も一週間後、8月15日です。
よろしくお願いします。
成長は見れるのか。




