A-018.0525.1817 回線の音
寮棟を飛び出す。
額には嫌な汗が滲んでいる。
事態は数分前の電話から始まった。
一日の勤務を終え、着替えを取りに寮棟へ戻ったところだった。
着信音が聞こえた。
廊下から差し込む明かりしかない部屋。
割り当てられた机の引き出しの中で、そら子から貰った携帯が鳴っていた。
まだ誰の連絡先も入れてなかったはずだけれど。
恐る恐る最新型の二つ折り携帯を開く。液晶画面にはアスタリスクが一つだけ。番号は表示されていなかった。
疑念に駆られつつ、電話に出てみる。
「もしもし……?」
「もしもし、聞こえますか?」
「はい……あれ?そら子?」
「はい、礫川です」
「久しぶりじゃない!そう、文明の利器ってすごいのね」
「お伝えしておこうと思いまして」
「なにかしら?」
「藤子さんが、出ていきました」
「なっ、どういうこと?」
「さあ。この一か月ほど、ずっと様子がおかしかったですよ」
「もしかして、わたしのせい?」
「本人に訊いてください」
「どうしよう、今は地下に戻れないの」
「問題ありませんよ。藤子さんは地上に行きましたから」
「え!?」
「もう着いている頃でしょう。なんの頼りもなく地上に行きましたので、迷うと思います。見つけてあげてください」
「え、ちょっと」
ぷつり、と通話が切られた。
心臓がどくどくと脈打っている。藤子はなにを考えて?よく考えてみれば地下と地上は通信が繋がらなかったような。
なぜ?脳内で反響する疑問に答えはでないまま、
サイレンが鳴り出した。
お疲れ様です。
電話が初めて鳴りました。
呼ばれた魚石アスカ。
次回更新も一週間後、7月25日を予定しております。
よろしくお願いします。
少しだけ、シリアスにも触れていきます。




